BCのない時代にダイビングを習い覚え、それぞれのダイバーは、BCが無いスタイルのダイビングを完成させていた。基本はやはり中性浮力であり、BCが無くても中性浮力で自由自在に動けることが上手なダイバーの証だった。どうやって、?と今のダイバーは不思議がると思う。自分の活動する水深で中性浮力であれば良いので、例えば15-20mで動くとすれば、ウエイトは3キロぐらいつけて行く。水面から水深10mぐらいまでは5キロほしい。そこで、水面から5mまではヘッドファーストで強引に潜り込む。水深5mから先は、3キロでなんとかなる。水深の垂直方向の変化による、浮力の変化は、深くなるほど少なくなる。水深10mから20mは3キロで通せる。20から先はオーバーウエイトになる。ウエイトなしで、10mまでは潜降索で強引に潜り込めば、ウエイトなしで行ける。戻る時の減圧停止は、潜降索が無ければできないから、潜降索が必須となる。岸からのエントリーならば、途中については海底の石を手に持って潜り、浮上してきたときも、石を手にもつ。
知っている通り、今のBCを使う潜水は、潜水中の水深変化を頻繁にする。空気を節約し、窒素のたまることを防ごうとして、浅い水深で多くの時間を過ごし、必要な時だけ、深く入ってまた戻るというパターンが減圧症を誘発しやすいことは、ヨーヨー潜水とか言われて避けるように言われている。BCが無ければヨーヨー潜水はできない。
1977年ごろにスタビジャケットが普及し始めたが、僕たちは、1985年ごろまでは、BCに反対していた。今でもプロのダイバーの多くはBCをつけないことに矜持をもっているし、海保の海猿ダイバーも原則としてBCは使わない。作業する水深があらかじめ予想できているし、オーバーウエイトに耐える脚力も鍛えられている。
しかし、今のダイバーは、そして僕も、BCを使うことに慣れてしまえば、BCが一番大事な基本的な機材になっている。BCには様々なスタイルがあり、種類も多い。それこそ、BCの型式を変えるだけで、指導団体ならばスペシャリティコースが作れるだろうし、事実必要なのではないかと思う。サイドマウントはインストラクターまで作っている。
BCを使わないダイビングを今でもしたいと思っている僕は、だからこそBCの使い方に神経を使う。2キロから3キロオーバーにしておいて、BCで調整するというダイビングが好きではない。BCをつけていても、出来るだけ少なくしたいといつでも思っている。
150キロ充填の14リットルのスチールタンクが軽いこともあるということを失念していて、鹿児島ではバディの中尾先生に迷惑をかけた。自分のウエイトも、そして彼のウエイトも軽くしてしまったのだ。そうしたら、作業水深が5mだった。
そんなことで、最近の僕のダイビングは、BCとの葛藤の話題が多い。
プロのダイバーは、BCが嫌いだが、それでもBCは便利である。自分の会社(だった)スガ・マリンメカニックのダイバーもいろいろ考え、工夫する奴もいた。胸掛け式の初期のBCを背中に、バックパックとタンクの間に挟み込むように加工、自作して使っているダイバーもいた。これは、なかなか調子が良さそうだ。使いやすそうですっきりしている。
自分の使うBCの変遷は結構なもので、新しいBCが出ると、関心を持つ。これまでで良いとおもったのは、プロの自作BCに近いジーグル、普通のBCでは、SASと、アポロのプレステージ、を使った。日本アクアラングのウエーブも,クレッシイもマレスもあまり抵抗なく使えたが、ごてごてと次第に必要だか不要だかわからないものが付け加えられ、自分の使うBCではないと感じていた。BCにウエイトを合体させてしまうポケットも不要と思っていたが、今度の鹿児島行きでは、ベルトを一本忘れ物したために、このポケットに助けられたが。
BCが次第にごちゃごちゃしてくるのを、横目で眺めている時に、ハルシオンのバックフローティングのシンプルなBCを見た。スガ・マリンメカニックのダイバーが自作していた、背中にBCを挟むバックパックを商品化したようなもので、良く壊れるインフレ―たー部分も金属製でしっかりしている。そして頑丈そうでシンプルだ。僕の次世代BCはこれだと思った。
このBCは、後にJAUSで一緒に協力してもらう久保君も売っていた商品だったのだが、まだその時は久保君とは親交がない。田中光嘉さんのところで買った。
何回か使ってみたのだが、あまり具合がよくない。僕の愛用していたのはアポロの安いBC、プレステージの旧型を使っていた。僕の場合、船の上でスクーバを着けないで、水面で着脱することが多い。小さいゴムボートを使って潜水することがあり、学生には水面での着脱が上手くできるように教える。プレステージは、肩ベルト型のBCで、空気を入れて水面に浮かせておき、お尻を載せるようにして乗り、両手を後ろに回して、肩ベルトに差し込み、水面で起き上がると、肩にうまく背負うことができる。緩めて置いた肩ベルトを引き絞ると、きっちりと着ることが出来る、その間30秒以内。そして、このBCは、体を自然体にして斜め40度ぐらいの前傾姿勢、体を起こして、水中で座るような姿勢をとるときに楽である。スノーケルで泳ぐのも楽である。
一方ハルシオンは、水面で着る時に、うまくBCの上に乗れない。そして、肩のベルトを緩くして、腰のベルトで締めて体に固定するという方式であり、胸の部分できゅっと締めていたプレステージなど、一般の肩掛けベルト式のBCとは感じが違う。もったいないから、何とか使おうと心がけるが、仕事での潜水のレギュラーには使いにくい。やがて、JAUSをはじめて、プライマリーコースを久保君に作ってもらって、JAMSTECで一緒に泳ぐことになり、使い方のレクチャーを受けた。彼の水平姿勢は神業のようなもので、僕もチャレンジし続けているが、残念ながら年齢による体の硬さ、筋肉の衰えで、新しい姿勢を身に着けることが出来ない。
現場でハルシオンを使うこともあまりなかった。一つには、スノーケルで水面移動する時に、バックフロートは、少し辛い。身体が水平になると、腹筋、背筋が弱くなっている手目に、顔を上げることがつらいのだ。
そして、今度、豊潮丸の航海、鹿児島の潜水で、これまで、プレステージでうまくいっていた水面でのBCの着装が上手くできないのだ。時間がかかってしまう。BCが古くなり、ぼろになったこともある。10年以上使っている。
ハルシオンならば、肩のベルトが緩いから、そしてベルトが硬い。シンプルである。うまく行くのではないか、と思いついた。8月18日のJAMSTECでのプライマリーコースのとき、ハルシオンを使って水中での脱着、水面での脱着練習を繰り返した。思った通りにうまくいっている。
FBに投稿した。
「今日の研修会、個人的にはハルシオンのBCに慣れるための着脱練習に精をだしましたが、これは、失敗して墜落したところです。全体としてはよく泳ぎ、このBCも、買ってから、10年目ぐらいで、ようやく使い慣れてきたので、アポロのプレステージに代わって、これをレギュラーにしようとしています。要するに、肩のベルトを緩くして、腰で締めるという方式になれなかったのです。胸をきっちり締めないと気分が悪かった。」
久保君は丁寧にメッセージをくれた。
ハルシオンのハーネスに限らず、標準的なバックプレート&ハーネスの調整は、「プレートの上端を頸骨5番に維持した状態」で、身体(大胸筋あたり)とハーネスベルトとの隙間を、ウエットスーツの場合は「指2本」、ドライスーツでは「拳1つ」入るくらいの遊び調整する、と助言させていただいています。これは結構重要な点で、使いこなせば、「ハーネスが身体の一部」として馴染んできます。
加えて、両肩のDリングの位置も見逃がすことが出来ません。両腕を水平に広げ、正面を向いたまま目で追わずに、両手の「親指を立て」て、「Dリングの"カーブ"の先端」に触れる位置に調整することです。そのDリングの位置が「自然に」腕と指の動きだけでボルトスナップやダブルエンダーを最も簡単に着脱できる位置になる筈です。
多分これでうまく行くはずで、自分の道具になって体になじんだら、おそらく一番使いやすいBCになるのだろうと思う。
道具が体になじむということは、こんなことだ。道具によってダイビングのスタイルも変わるし、ダイビングのスタイルで道具も選ばなくてはならない。