午後の潜水は、人工魚礁は行く。岸からのエントリーになるので、近くまで軽トラで機材とタンクを運んでもらう。
磯を歩いて行くと、良いタイドプールがあった。いまさら説明するまでもないが、潮たまりである。磯の岩盤の隙間とか凹みには水がたまる。潮が満ちてきた時に、このプールにまで海水が入ってくればタイドプールが成立する。潮が引けば、この海水は取り残されてプールになる。潮の満ち干でこれがきちんと繰り返されれば、魚が住める。大きな魚がはいってこられないようなプールならば小さな魚の隠れ場になる。
タイドプールには、海水浴ができるような大きなものもある。三宅島にある長太郎池はその一つだ。村が土木工事をしてしまったので、陸側はコンクリートのプールサイドだ。葉山の磯、江ノ島の磯は、良いタイドプールが連続していて、中学生の時に生物の実習で行ったし、大学に入っても、一年生の時代は葉山の磯で魚の採集をして、たくさんの魚を標本にしてしまった。
たいていの大学の臨海実験場は、このタイドプーエリアが広く広がっている。元水産大学の小湊自習場、筑波大学の下田、東大の三崎にも良いタイドプールが広がる。タイドプールは海洋研究者が育つためには必須のフィールドなのだ。
タイドプールがあれば、故郷の海のような気がして、必ずのぞきこむ。今日も覗き込み、マスクとスノーケルを持って、膝下ぐらいの水深のプールに身体を静かに横たえる。それでも、水を濁してしまう。本当ならば澄むまで待ってカメラを使いたいのだがそんな時間はない。
しまった。ウエットスーツの背中のチャックが開いている。炎暑である。V字型の日焼けができるだろう。石川さんに声をかけてチャックを締めてもらう。彼はドタドタと水に入ってきて、濁らす。
その位置はだめになったので、這って前に進む。小さなギンユゴイが左右にすばしこく泳ぎ回る。銀色の身体に白い矢羽模様の尾、十分に鑑賞魚になる。それにこの魚は水の悪化にも強い。採集してきた魚を飼うことが魚類学のはじまりだった。念のために書いておくけれど、今は採集して飼っても最終的には殺すことになるから、慎むようになっている。ギンユゴイは気水でも生きるし、どこか、温泉でも生きていた。だからユゴイである。
ほかにめぼしい魚はと見回すと、カエルウオの姿がちらっと見えた。穴があってそこに逃げ込んだ。さっそく、穴の入り口にGoProを置いて、でてくるのを待つ。ギンポの類だから、かわいい顔をしている。ちらっと外にでてまた穴に戻った。今日の撮影としてはこれで十分だ。
これも採集をしていたとき、タイドプールの中で追いつめたら、外に飛び出して、岩場をカエルのように跳ねて逃げていった。カエルウオといわれる理由だろう。
自分が採集をしたことを棚にあげて言うのだが、採集はしないでほしい。今のダイバーたちは撮影するだけで、採集はしないが、時に海水魚を飼うことを趣味にしている人が居る。度が過ぎなければ、止めることは難しいが、できればそっと自然のままに生かしてやってほしい。
さて、泳ぎだして人工魚礁の撮影をする。人工魚礁のブロックが沈んでいるところは、この沖だ。目印のブイがういているという。が、そのブイが見えない。石川さんははっきりと見えるという。僕が見えないと言うことは、いよいよ、目もみえなくなってきたか。
ちがうのだ。前にその魚礁に潜った経験から、もっと近い、と思って、近くをみていた。そのずいぶん先に、旗の立ったブイと、その先に丸いブイがみえている。それらしい。ずいぶん遠いなと思ってしまう。距離で500mあるかないかである。昔なら遠いと思わないだろう。
いやな問題は泳ぐ距離ではない。歩いて、岩場をエントリーすることだ。陸地では、足下がおぼつかなくなっている。だから、恐怖は岩場でタンクを背負って転ぶことだ。骨折すれば、半年はかかるだろう。その間に筋肉も落ちるから、リハビリが必要になるかもしれない。
岩にタンクを載せて背負う。その足下の水深は30cmほどある。しかし、その向こうに、水深10cmくらいの、浮いて通過できない岩があり、波が打ち寄せている。
立ち上がって歩けば、転んで骨折がある。這って行く他ない。ウエットスーツの膝あてがあるといいのだが。
何とか乗り越えてブイに向かう。クロマチウムの貝池以来、仰向けになって移動した方が、目標物からそれないのでいい。
旗のついているブイの方にはなにもなく、その先の、白い玉のブイの方に、魚礁はあった。旧式の、おそらく1950年代、人工魚礁事業が始められたころの方形のコンクリートブロックだ。この形は普通、1、5m角なのだが、ここのブロックは、さらに古い形で、1m角である。メバルしか見えなかったが、一回りをして、魚礁域全部を見ると、小高く積み重なっている部分にマアジらしい群がいる。10ー15cmの小さいムツマアジで、おなじくらいの大きさのムツの子と一緒に群れている。ムツの方が数が多い。もっと数が多く、びっくりするような群でないと、雑誌に使うことは難しい。
だめとわかってしまったが、空気が50になるまで、ムツの子、マアジの群、魚礁の中にいる30cm近い、大きなメバルを撮影した。
行きよりも帰りの方が早く感じる。50キロの空気で、最後は潜行して泳いだ。水中を泳げば仰向けにおよいでいるよりずっと速い。
エキジットも這いあがるのが難儀だ。しかし、這って上がれば、転んで怪我をする心配はない。
午前も午後も、あんまり成功した撮影ではなかったが、たくさん泳いだから納得した。
タイドプールには、海水浴ができるような大きなものもある。三宅島にある長太郎池はその一つだ。村が土木工事をしてしまったので、陸側はコンクリートのプールサイドだ。葉山の磯、江ノ島の磯は、良いタイドプールが連続していて、中学生の時に生物の実習で行ったし、大学に入っても、一年生の時代は葉山の磯で魚の採集をして、たくさんの魚を標本にしてしまった。
たいていの大学の臨海実験場は、このタイドプーエリアが広く広がっている。元水産大学の小湊自習場、筑波大学の下田、東大の三崎にも良いタイドプールが広がる。タイドプールは海洋研究者が育つためには必須のフィールドなのだ。
タイドプールがあれば、故郷の海のような気がして、必ずのぞきこむ。今日も覗き込み、マスクとスノーケルを持って、膝下ぐらいの水深のプールに身体を静かに横たえる。それでも、水を濁してしまう。本当ならば澄むまで待ってカメラを使いたいのだがそんな時間はない。
しまった。ウエットスーツの背中のチャックが開いている。炎暑である。V字型の日焼けができるだろう。石川さんに声をかけてチャックを締めてもらう。彼はドタドタと水に入ってきて、濁らす。
その位置はだめになったので、這って前に進む。小さなギンユゴイが左右にすばしこく泳ぎ回る。銀色の身体に白い矢羽模様の尾、十分に鑑賞魚になる。それにこの魚は水の悪化にも強い。採集してきた魚を飼うことが魚類学のはじまりだった。念のために書いておくけれど、今は採集して飼っても最終的には殺すことになるから、慎むようになっている。ギンユゴイは気水でも生きるし、どこか、温泉でも生きていた。だからユゴイである。
ほかにめぼしい魚はと見回すと、カエルウオの姿がちらっと見えた。穴があってそこに逃げ込んだ。さっそく、穴の入り口にGoProを置いて、でてくるのを待つ。ギンポの類だから、かわいい顔をしている。ちらっと外にでてまた穴に戻った。今日の撮影としてはこれで十分だ。
これも採集をしていたとき、タイドプールの中で追いつめたら、外に飛び出して、岩場をカエルのように跳ねて逃げていった。カエルウオといわれる理由だろう。
自分が採集をしたことを棚にあげて言うのだが、採集はしないでほしい。今のダイバーたちは撮影するだけで、採集はしないが、時に海水魚を飼うことを趣味にしている人が居る。度が過ぎなければ、止めることは難しいが、できればそっと自然のままに生かしてやってほしい。
さて、泳ぎだして人工魚礁の撮影をする。人工魚礁のブロックが沈んでいるところは、この沖だ。目印のブイがういているという。が、そのブイが見えない。石川さんははっきりと見えるという。僕が見えないと言うことは、いよいよ、目もみえなくなってきたか。
ちがうのだ。前にその魚礁に潜った経験から、もっと近い、と思って、近くをみていた。そのずいぶん先に、旗の立ったブイと、その先に丸いブイがみえている。それらしい。ずいぶん遠いなと思ってしまう。距離で500mあるかないかである。昔なら遠いと思わないだろう。
いやな問題は泳ぐ距離ではない。歩いて、岩場をエントリーすることだ。陸地では、足下がおぼつかなくなっている。だから、恐怖は岩場でタンクを背負って転ぶことだ。骨折すれば、半年はかかるだろう。その間に筋肉も落ちるから、リハビリが必要になるかもしれない。
岩にタンクを載せて背負う。その足下の水深は30cmほどある。しかし、その向こうに、水深10cmくらいの、浮いて通過できない岩があり、波が打ち寄せている。
立ち上がって歩けば、転んで骨折がある。這って行く他ない。ウエットスーツの膝あてがあるといいのだが。
何とか乗り越えてブイに向かう。クロマチウムの貝池以来、仰向けになって移動した方が、目標物からそれないのでいい。
旗のついているブイの方にはなにもなく、その先の、白い玉のブイの方に、魚礁はあった。旧式の、おそらく1950年代、人工魚礁事業が始められたころの方形のコンクリートブロックだ。この形は普通、1、5m角なのだが、ここのブロックは、さらに古い形で、1m角である。メバルしか見えなかったが、一回りをして、魚礁域全部を見ると、小高く積み重なっている部分にマアジらしい群がいる。10ー15cmの小さいムツマアジで、おなじくらいの大きさのムツの子と一緒に群れている。ムツの方が数が多い。もっと数が多く、びっくりするような群でないと、雑誌に使うことは難しい。
だめとわかってしまったが、空気が50になるまで、ムツの子、マアジの群、魚礁の中にいる30cm近い、大きなメバルを撮影した。
行きよりも帰りの方が早く感じる。50キロの空気で、最後は潜行して泳いだ。水中を泳げば仰向けにおよいでいるよりずっと速い。
エキジットも這いあがるのが難儀だ。しかし、這って上がれば、転んで怪我をする心配はない。
午前も午後も、あんまり成功した撮影ではなかったが、たくさん泳いだから納得した。