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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0127 お台場報告書原稿

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 10日間もブログの感覚が空いてしまった。
 別の原稿を書くのがいそがしい。手いっぱいなのだ。
 その原稿、2017年 お題が調査報告書の、自分の執筆部分を流用しよう。

お台場海浜公園の海 私たちが、このお台場の海に定期的に潜水調査を開始したのが1996年、須賀、個人としては、テレビ撮影のために潜りはじめたのが1985年である。それ以前には、マハゼの産卵孔観察のために、1970年代に数回潜水している。 
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 東京湾は、大都市を背後に控え、水を浄化する干潟や芦原は埋め立てられ、富栄養化して赤潮が発生し、埋め立てのために掘削された穴からは、無酸素の青潮がわき上がる。その一番奥にお台場は位置する。位置から考えれば最悪である。 自分にとって、東京港は地元の海、ホームグラウンドである。そして、一番近いのがお台場の海である。1980年代まで、今でも時折見かけるが、マスコミの表現は「死の海」で、死んでいる魚を見つけては喜んでいる。潜って見れば、海底はマハゼでいっぱい。イシガニもハサミを振り上げる。東京湾は、東京港は生きて、生命のドラマを繰り返している。 1950年代、60年代は、工場排水で、京葉沿岸は有毒な海で、荒川河口ではハゼが大量斃死して浮き上がることもあった。一方で、多摩川は鮎が遡上して、上流で産卵し稚魚は河を下って、お台場あたりの海で育っていく。このアユの撮影ちょうさもした。 東京湾で潜ることがライフワークになっているダイバー仲間がたくさんいる。ゴミ拾いが、アマモの植え付けが、ワカメを育てたり、海苔を育てたり、そして私たちはお台場の海で潜ることがライフワークになっている。  2020年、お台場が東京オリンピックでのトライアスロン会場になるということが大きな話題になっている。 私たちが1996年に東京ベイクリーンアップ大作戦というタイトルで海上保安庁、港区キッスポート財団とともにダイビングによる水中での清掃活動を開始した。以来不特定多数のダイバーをゴミ拾いに潜ってもらっているが、汚染によると思われるような、何の問題も起こっていない。 海水浴場には、その海水のきれいさのランクとして、大腸菌数の基準があり、大都市の下水、それも一系統の下水の流出先である東京湾奥では、雨が降ると、それが下水に加わって浄化能力を超えてしまい大腸菌数が増加してしまう。 東京オリンピックである。様々な浄化の手だてが考えられ、提案された。私たちも、オリンピックが無くても、浄化はいつも真剣に考えている。しかし、現段階では、夏の1週間 台風がくる可能性もあるのに、大腸菌数の基準維持を確実に保証するのは難しい。 私たちは、青潮でも赤潮でも潜り、その中での生き物の生きる姿を観察してきた。少しでも、水をきれいにしたい。赤潮も青潮もなくしたい。そのための研究努力は必須である。東京の下水も浄化されることを望む。 それはそれとして、大腸菌数が多いから、潜ってはいけないなどといわれたら、困る。自分たちの身体で無害を証明するしかないだろう。   お台場は、中心部にヘドロがあるドーナッツ,リングを想定するとわかりやすい。つまり、観察する部分はヘドロ域を囲む周辺部の浅場(磯)と、人工砂浜である。 観察域は水深2mぐらいまでで、正面に、僕たちが水に入り、水から出る人工砂浜があり、砂地の水深1mから2mぐらいの部分には、最近、千葉県の特産になった、外来種のホンビノスガイが、場所によっては群れるように砂に潜っている。僕たちのメンバーだった、東大の博士課程、杉原奈保子は、このビノスガイで博士になった。今年はまた、メンバーに復帰してさらに研究を進めるという。右側の磯部分、その60%ほどの面積の海底は牡蠣で覆われている。牡蠣は成長して死ぬので、牡蠣殻になり、その上に新しい生きた牡蠣が付く、そのサイクルを繰り返すうちに牡蠣礁になるのだが、お台場の牡蠣は1990年代の末ごろから多くなったもので、その以前は牡蠣ではなくて、ムラサキイガイの群生だった。
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               牡蠣の部分の海底が澄んでいる
 牡蠣礁になるのはまだまだ先である。とにかく生きた海底である。牡蠣が水を吸い込み吐き出す浄化作用については、諸説あるが、牡蠣の上の水がややきれいなので、その効果があるのだろうと考えている。お台場は、1mほどの潮差があるが、引いている時は水がきれいで、満ちてくると汚れた水が満ちてくる。透視度は、平均しては1m前後、年に一度ぐらい、30cm以下になる赤潮状態があるが、このときでも、牡蠣の真上は60cmぐらい見えて、濁りが層になっている
 一般のダイバーの感覚では、透視度が3m以下では潜水にならないが、ここでは2mも見えたらm澄み切った感じになる。撮影するとして、平均した撮影距離は30cmであるから、充分に観察、撮影できる。 自分なりに撮影の要領を言うと、ワイドで接写するマクロワイドが良い。
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                      8月のマハゼ
 お台場に魚が現れるのは、4月である。3月から見られる年もあったが、だいたい4月である。お台場の、というより、江戸の東京を代表するマハゼが多く、4月には、全長で20mmから30mmのマハゼ稚魚が海底に広がる。一面にいる。この稚魚がお台場で生まれたものかどうかは、調べていない。マハゼの産卵は、水深5から6mのヘドロに長大な穴を掘ってその中で産卵する。1970年代、そのマハゼの産卵の調査を、お台場付近でやったことがある。ちょうど、今、水上バスの航路になっているあたりの、灯籠のあたりで調査した。お台場の中心は見ていない。調べたいのだが、現在、私たちが潜れる許可範囲は外縁の水深3mあたりまでで、水深が5から6mのヘドロ部分は守備範囲にはいっていない。計画はしたことはあるが実施していない。産卵孔がある可能性はある。  4月にはメバルの稚魚もよくみられたのだが、この数年、少なくなってきていて、2017年はほとんど見られなかった。メバルは、普遍的に東京湾に多い魚だから、たとえば2012年に一年だけ試験枕設を東京都港湾部がやった人工魚礁(人工浅場)のようなものを再度試みられれば、メバルが増える可能性はある。クリーンアップで大型のごみ、ポりバケツや、ボール箱など撤去してしまったが、1990年代は、そのような大型ごみの陰に、メバルが群れていた。 人工魚礁、人工の磯場の造成は、是非やってみたいことではある。
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              ドロメの稚魚
 他に目立つ魚としては、ドロメの稚魚、3cmぐらいのものが群れている場所がある。いつも同じ場所に群れている。 トサカギンポは、かわいいことで、お台場のスターで、牡蠣殻の中で産卵するという。牡蠣殻を出入りしている。
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             牡蠣とトサカギンポ
 ハゼの類で、マハゼの他に周年よく見られるのは、チチブ、アカオビシマハゼ、アゴハゼで、細いニクハゼは、穴の中にすぐに隠れる。他のハゼよりは寒さに強いらしく、他のハゼよりは秋深くまで見られる。 夏期に水温が高くなると、水の上下の対流が無くなり、上と入れ替わらない底層がよどんで、底棲生物が酸素を消費して低酸素になる。 それでも、お台場の魚たちは、低酸素を逃げるすべを知っていて、何とかやり過ごす。2015年の低酸素の時は、ハゼたちが潜んでいる牡蠣殻や岩の隙間から表に出てきて、岸近くに来て、浮いたりしていた。夏に金魚が鼻上げをするが、それと同じだ。その時に出てきているハゼの数がものすごくて、海底はハゼの絨毯のようになった。もしも、あのハゼたちが全部死んだら、それこそ死屍累々で話題になるだろう。幸いにして泳げる魚はどこか逃げる場所があるのだろう。2012年の貧酸素の時は、魚一匹見えない、死の世界のようになったが、11月になったら、どこからともなく出てきて、元に戻った。だいたいにおいて、ハゼの類は貧酸素に強い。また貧酸素に強い種類だけがお台場で生きているのだろう
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       ホンビノス 手で簡単に掘れる。 ただ、逃げられる魚は良いけれど逃げられない二枚貝、カニの類などは困る。さきにホンビノスが千葉県の特産になったことを述べたが、ホンビノスは、外来種で、環境の悪化に強い。その上で、まずまずおいしい。漁業者の救世主になった。この強いホンビノスが、2012年の貧酸素の時、お台場の人工砂浜のホンビノス生息水深1ー2mが、大型のホンビノスの死屍累々になった。なお、ホンビノスの生息する水深は深いので、潮干狩りの対象にはならない。こんなにも居たのかと驚くほどの貝が死滅した。これで、お台場のホンビノスも全滅かと思ったが、なぜか、小さい稚貝のホンビノスは酸素が無くても死なないで、次の年には大きくなった。だから死殻の下を掘ると、新しいホンビノスが出てきた。死に殻も次第に砂に覆われて、元に戻った。自然はやわではない。 外来種と言えば、カニの類、チチュウカイミドリガニというカニが1990年代の終わりに増えた。そのころホンビノスも来たので、何か原因があったのかも知れない。 お台場でカニといえば、イシガニである。イシガニは、泳ぐ遊泳肢があり、おいしいカニであるガザミの小型版で、おいしいが小さいので漁獲の対象にはなっていない。 そのイシガニの競争相手としてチチュウカイミドリガニが来た。こう言うとき、研究者は、在来種が圧迫されて、ニッチ、縄張りを失い、外来種に取って代わられて、生態系が変化してしまうと心配する。 一時期、お台場のどこででも、チチュウカイが見られたのだが、なぜか2013年頃から、お台場では姿を消してしまって再びイシガニの天下になった。 しかし、そのイシガニも2015年をピークに減少した。今では見つけるのに苦労する。  お台場は夏には生き物でにぎわうところだが、生き物に良好な環境ではない。環境がちょっと悪化すると、その種は死に絶えるか弱体化する。するとその縄張りに別の種類がくる。競争相手が居ないために、爆発的に増える。ウミウシの類、トゲアメフラシが海底に敷き詰めたように一面にはびこった。今では少なくなった。 種の多様性とは、あの種もこの種も生き残っていることなのだろう。ある種が死滅して他の種が入れ替わるということは、環境が不安定であり、悪い。お台場は死の海ではないが、生き物が生きるのに苦労している海だ。  最近、気になるのは、カニの数がへったことだ。大型のイシガニの他に、お台場にはタカノケフサイソガニというイソガニの類が多かった。生きている牡蠣をナイフでこじ開けて、置くと、どこからともなく、このイソガニが集まってくる。90年代、には山になるほど集まった。最近やってみたら、2ー3尾しか集まらなかった。 そうだったのだ。これを毎月、同じ場所でやって数を数えれば、このカニの多少、消長がわかる。毎月やるようになったのはつい最近だ。  ヤドカリもお台場では数多い生き物だ。個人的にはヤドカリが好きだが、ヤドカリはどうも、私たちが潜る水深、水深といっても1m前後だが、少ない。もっと浅いところ、膝までの水深の石の隙間に隠れているらしい。磯遊びする子供たちが良く捕まえている。 そのヤドカリのやや大きめの個体のヤド、背中に背負う貝がアカニシだ。アカニシも消長があるが、だいたいにおいていつでも見られる。競合する種類がいないのだろう。雄雌重なって産卵している。アカニシの卵が、ナギナタホウヅキである。ホウヅキといっても今の子供たちは口に入れて鳴らすようなことはしないが、大型のものは口に入れて絞るとキュッという音がする。昔の子供たちの遊びだ。お台場のナギナタホウヅキが鳴るかどうか今の私たちは鳴らせないのでわからない。 メバルと同じような大きさで、同じところにいるのがシマイサキの稚魚だ。これも最近は少ない。 エイの類としては、ツバクロエイが大きい。アカエイも居るのだが、エイは二枚貝を食べている。エイを踏みつけたりして刺されると、病院行きになる。毎回見るというほど多くはないが、砂浜の部分には探せば見つけられる。 マハゼを置き去りにしてきてしまった。マハゼは 6月頃になるとかなり大きく、5ー6cmになる。釣りの方では、デキハゼ、今年できたハゼというらしい。これが、お台場の周辺全域に群れている。お台場には、5ー6月頃、全面に無数のイサザがいる。イサザは小さいエビの類だ。これを食べて、マハゼはぐんぐん大きくなる。7月、8月になるとずいぶん大きくなる。一方まだ小さいマハゼもいる。これは生まれた時期に差があるからなのだ。そして、9月になると成魚、親の大きさになる。10ー12cmぐらいになる。もう十分に釣りの対象になる。 そして10月ー11月、マハゼは姿を消してしまう。どこに消えるのかしらない。そのころハゼ釣りのシーズンになるので、釣られるところに出て行くのだろう。産卵の場所を求めて深場に下るのかもしれない。 マハゼの居なくなったお台場にマハゼのような顔をして、マハゼと入れ替わっているほぼ同じ大きさのハゼがいる。ずいぶん長らく、これをマハゼだと思っていた。写真を見た、分類に詳しい子がこれはウロハゼだという。ウロハゼも最近、といっても10年ぐらいだが、それまでレアだったのが普通に見られるようになった。ウロハゼは12月までいる。
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            硫黄バクテリアの膜(夏に発達する) 春の5月ごろから秋の11月ごろまで、お台場ドーナッツの中心部分、ヘドロの上に白いカビのようなものが広がる。多いときは薄い髪の毛のように伸びる。硫黄バクテリアである。硫黄バクテリアのあるところ、硫化水素がある。しかし、硫化水素を発生させるのは硫黄バクテリアではなく、その下のヘドロの中の硫酸還元菌であり、硫黄バクテリアは硫化水素を同化している。硫黄バクテリアは、年ごとに消長はあるが、常に魚の多い時期にヘドロの上に広がる。硫化水素は猛毒である。が7月ごろのマハゼは、この硫黄バクテリアの上にも、数は少ないが居る。マハゼは、貧酸素にも強く、硫化水素にも強いのだろうか。猛毒の硫化水素は海底の上、どのくらいまであるのだろうか。時に、硫黄バクテリアは、海底の上、数十センチに雲のようにたなびいていることもある。その水を飲むわけではないが、その中で泳いでいても別に何事もない。海底の硫黄バクテリアの存在の仕方を調べることは、重要だと思うのだが、よくわからない。上をスクーバダイバーがおよいでもなんともないことはわかっている。青潮がやってきて、汚染がひどかった2012年だったか、水がどぶ泥の匂いがしたとき、お台場から上がった女性が、シャワーとて、僕たちにはないので、そのまま電車に乗るのが恥ずかしい、ということはあったが、体に異常はなかった。  そんな、お台場になぜ潜るのか、東京湾の学術的研究の第一人者である東邦大学名誉教授の風呂田博士は、一緒にこの計画を始める頃、生物と同じ環境に自分の身体で入って行かなければ、研究はできないと言っていた。 

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