では、メガマウスとは?親しい畏友である山田海人さん(昨年のシンポジウムでJAMSTECのシートピア計画、潜水について、講演していただいた)が、22日のすぐあとに、コラムをフェイスブックに載せられた。改めて、全文を送っていただき、、ここに使わせていただくことにした。 以下、山田さん提供
未知の深海には我々人間には計り知れない不思議な生態をしている
深海魚がいます。 今回の紹介する深海魚は深海でプランクトンを食べている大型サメのメガマウスです。最初に発見されたのが1976年、そして31年を経た今でもまだ40個体も見つかっていない貴重なメガマウスです。皆さんの豊かな想像力を駆使して、謎に満ちた「メガマウス」の棲む深海の世界をイメージしてください。1.メガマウスとは メガマウスは深海の大型サメで Megamouth Shark と呼ばれています。
深海を大きな身体で、ゆっくり泳ぎ、オキアミなどの甲殻類を食べているやさしい性格のプランクトンフィダーです。
大きなサメでも臆病な性格で、これまで自然界で撮影されたこともないメガマウスです。
学名は Megachasma pelagios で1983年に登録されました。
体長:メス 5.15m、オス 4m
分布:西インド洋を除くすべての熱帯海域。日本近海でも多くの個体が発見されています。
生息水深:150m~1000m
メガマウスの特徴:メガマウスは大型のサメのサイズであって、軟らかい頭と大きな口が特徴です。体形は、頭から広く、尾にかけて細く、どちらかといえば球根状です。頭には広く丸い鼻と適度なエラ孔、その顎には小さなフック状の歯が数多く並んでいます。そして口の中は銀色です。尾ビレの根元(尾柄)には遊泳力のあるサメに多いキールはありません。非対称の尾ビレです。
他の深海ザメとの大きな違いは、海中での比重が軽いことです。
メガマウスの肝臓はとても大きく、比重を軽くしている大きな役割をしています。他にも軟骨、筋肉、皮膚なども他の深海ザメのものとは異なって比重が軽くできています。こうしてメガマウスの中・深層での生活に有利な、浮きもせず、沈みもせずの身体が得られているのです。
2.メガマウスの発見 深海の大型サメ「メガマウス」の第一発見者は何と米海軍です。1976年11月15日、ハワイ・オアフ島 Kahuku ポイント沖で水上飛行艇のシーアンカーのテストを行っていたところ、米海軍のアンダーシーセンターの海洋調査船「AFB-14」は水深165mのシーアンカーにからんだ4.46mのオスのメガマウスを捕獲したのです。こうしてたまたまシーアンカーにからんだ大型サメが特異な形をしていたことでサメの研究者へ知らせが届き、新種の発見となりました。
2匹目が見つかったのはそれから8年後の1984年11月29日、カリフォルニア・サンタカタリーナ島の沖合の深海ネット(水深38m)によって捕らえられました。この標本(Los Angeles County博物館蔵)は、オスで体長4.5mでした。
これまでは太平洋でのみ発見されていましたが、3匹目は1988年8月18日にオーストラリアのパースの南Mandurah河口の近くで漂着した5.15mのオスの個体です(オーストラリア博物館蔵)。これによってメガマウスの分布はインド洋まで拡がったことになります。この時、最初はクジラと思われてサーファーが前日沖へ戻したにもかかわらず漂着してしまったものです。
しかしこの12年間にわずか3個体という極めて希な標本で,しかもオスばかりの標本だったのです。ですがこの後、急激に各地からメガマウスの発見が相次ぎました。どうしてこれまで見つからなかったものが急に各地で発見されるようになったのか、まだ誰も説明できていません。
最初のメガマウスのメスが発見されたのは、1994年11月29日に博多湾で漂着しているところを、野鳥観察者によって発見されました。この個体は貴重なメスで体長4.71m、体重790㎏でした。とても貴重な世界最初のメスでしたので、日本人さらに外国人研究者らも加わって科学的な解剖調査が行われました(海の中道マリンワールド蔵)。
1989年6月12日に、500cmほどの大きなメガマウスが定置網にかかっていましたが、ウバザメと間違えられて海へ戻されたこともあります。性的に成熟したオス(180cm)は、ダカール、セネガルの沖合のマグロ漁で1995年5月4日に捕らえられました。
次のメガマウスはさらに大西洋の若いオスでした。この標本は、ブラジル南部(A. Amorim)の沖合の延縄で、1995年9月18日に偶然につかまりました。
2006年5月1日、相模湾で初めてのメガマウスが発見されました。湯河原沖の定置網に掛かっているのが見つかり、当初は活きていましたが衰弱していてやがて死亡が確認されました。体長5.6m、体重1.2トンの世界最大級のメス(京急油壺マリンパーク蔵)であることが判りました。
3.メガマウスの生態 発見された個体の少ないメガマウスの生態はこれまで謎だらけでした。しかし、5匹目の標本は生きていて、駿河湾で定置網に捕獲されていましたがウバザメと間違えられて海へ戻されました。これを機会に、発見された中には捕獲時に活きているものもいるだろうと、科学者はデータロガー取り付けの機会を伺っていました。そして6匹目にチャンスが巡ってきました。
6匹目の個体は1990年10月21日にカリフォルニアのデイナポイントの沖合で流し網の中で捕らえられましたが、ほぼ元気であったので水深、時刻など記録できるデータロガーが取り付けられて495cmのオスは放流されました。その結果、50時間以上の貴重なデータが得られました。そのデータから日没から日の出までは水深17mの浅い水深でオキアミなどの甲殻類やクラゲなどを捕食し、日中は約170mの深い深海にいること(夜行性)が判明しました。つまり、中・深層で休憩し、夜間は浅い水深へ上昇して餌を取っているのです。これは餌のオキアミの垂直行動パターンと同じであることも判って、浅い水深で餌を取っているだけでなく、日中もオキアミと同じ水深にいるということは日中もオキアミを食べることもあるのかもしれません。
4.メガマウスの話題
(1)マッコウクジラに襲われる 1998年10月、インドネシアのManadoの沖合いでクジラの資源調査を行っていたイタリアのチームが貴重な生態を観察しました。それは三頭のマッコウクジラが一匹のメガマウスを攻撃しているのが観察されています。小型ボートで接近すると背びれとエラ部分にマッコウクジラから攻撃された傷が確認され、5mを超えるサメはもてあそばれているようでした。食べられるわけでもなく、単に攻撃を楽しんでいるようでした。この時の画像から13匹目のメガマウスと確認されました。
おわりに 日本にも多く発見例があるメガマウスですが、まだ、深海での行動が撮影されていません。そして生態や繁殖などまだまだ多くのミステリーに包まれています。メガマウスはとても魅力ある深海の大型サメです。今後の発見例や深海での撮影で謎が少しずつでも明らかになることを期待しています。
※もしも、波佐間のメガマウスが、餌付けに成功していれば?
波佐間は同じくオキアミを食べているジンベイの餌付飼育には、荒川さんにノウハウがあり、そして海に帰すことにも成功していることから、可能性が大きかった。もしもできていたならば、多くのダイバーが、生きているメガマウスとおよぐこともできたはずで、観察によるいくつかの新しい知見を得ることができ、上記にもあるデータロガーの準備、装着などの可能性もあり、その時には、ダイバーも一緒に潜水して、追いきれない深度は、ROVで、など、そのドキュメンタリーは、尾崎君が撮るだろうし。いずれにしても、博物学的に大きな成果を収めることができたはず。死んでしまったことは、とても残念だった。なお、この個体は、鴨川シーワールドに運ばれ、おそらくは、標本として残されると思う。