2011年のブログを開いて見ると、1月は今と同様用語集で呻吟している。最新ダイビング用語事典Ⅰは震災以後の企画だと思っていたら、日本水中科学協会が始まってすぐに企画を開始していたのだ。 そのころ、M値のことがわからなくて今村さん(当時はTUSAでダイブコンピューターなどの開発を担当、現在はフリーになり、ダイブコンピューターについての講演などを全国的に展開していて、やがては彼の理想のダイブコンピューターを作ろうとしている。)にメールで質問している。M値とどこで最初に出会ったのだ?今村さんと最初に出会ったのは何時だった?11年の6月に日本水中科学協会の総会があり、そのときに今村さんに講演をたのんで、それが今村さんとの出会いだとおもっていたのだが、ブログを振り返ったら、その前にやりとりがあって、そのM値をテーマで総会で講演、ディベートをお願いしたのだったとわかった。 今現在、今村さんの講演が、大いに迎え入れられている。 ダイブコンピューターの普及が減圧症を急増させた。そのことを迎えてのダイブコンピューターの運用についての講演である。 ダイブコンピューターの運用については僕たちにも意見、考えがある。最新ダイビング用語事典Ⅱでは、高気圧作業安全衛生規則と関連づけて議論を展開させよう。 今村さんにお話いただいたころに、僕はM値について無知だった。しゃれに聞こえるだろう。M値、無知。 なぜ。無知だったか、読んでいた参考書のほとんどに、M値という言葉がでていなかった。後を追って調べてみたら、たとえば、池田知純先生の「潜水医学入門」1995では、脚注の部分で「許容分圧を最大値の意味でM値ともいいます。」とある。許容分圧とは、気泡発生をせずに存在が許されているガスの分圧であるが、許容分圧という概念も別に説明が必要であり、池田先生の「潜水医学入門」には、かなり詳しく、このことが説明されていて、ずいぶんと参考になった。ただし、それはこの本が刊行された1995年以降のことである。
大岩弘典先生の「新しい潜水医学」これも1995ではあるが、「各指導団体が公表しているダイブテーブルは、米海軍のリチャード・ワークマン(1965)によってPs値(限界値)をM値「10フィート浮上が許される最大値」とした階段式減圧計算式(減圧アルゴリズム)をつかっている。 ワークマンという人が出てくる。実はこのワークマンがM値を10フィート浮上が許される最大値、とか水深を導入している。このことが僕を混乱させる基になる。 概して、M値はまだ、日本で潜水用語として市民権がなかったのだ。 それでは、このあたりのことについて、そのころ、何を知っていたか、というと、気体(便宜的に外側と考える)と液体(便宜的に内側と考える)が接すると気体(外側)の絶対圧に比例した量のガスが液体(内側)にとけ込んで行く。これはヘンリーの法則である。気体(外側)の圧力が減少する(浮上する)と液体(内側)の中にとけ込んでいたガスがまた液体から気体に(内から外)戻っていく。その圧力変化が早すぎると、つまり、浮上が早すぎると、気体(外)に戻ることができずに、液体(内)の中で気泡化してしまう。 また、溶け混みが最大量である時が飽和状態であり、これは安定している。飽和するまではある程度の時間がかかる。飽和する前に浮上してしまえば、気泡も発生しない。飽和した後、浮上すると最大量以上、過飽和になる。過飽和になると不安定になり気泡が発生する。この気泡が減圧症を発症させる。しかし、過飽和がある程度までは、気泡は発生しないし、減圧症も発症しない。また、過飽和にしなければガスの溶け出しも進まない。そこまでは知っていた。 どの程度まで過飽和でも減圧症が発症しないかの研究が、すなわち減圧症の研究であり、そのどの程度、という程度の値がM値である。このM値という言葉を知らなかった。 原理は知っていたのだ。 そのM値は、人体のそれぞれの組織によって違う、しかも水深によって変動している。それを数値的で表現しなければならない。そのことを大岩先生が書かれているような、M値「10フィート浮上が許される最大値」とか、水深で表現したことから、僕は、何がなんだかわからなくなった。 最新ダイビング用語事典では、今村さんに原稿を書いていただいて M値 (減圧不要限界体内窒素圧) maximumallowable nirorogen value として「M値とは、それ以上窒素がとけ込んだら減圧停止が必要になる限界値をいう。M値はそれぞれの組織の半飽和時間で決まる。 M値を示す圧力数値は、無減圧潜水限界の窒素許容圧を海水の相当深度で表している。 組織半飽和時間が短いほど、M値は深くなり、組織半飽和時間が長いほど、M値は浅くなる。 例えば、組織半飽和時間が5分の組織のM値は27mである。M値27mとは、水深27mで飽和する窒素圧を意味する。つまり水深27mを超えなければ、組織半飽和時間が5分の組織では、減圧停止が必要な限界を超えることはない。組織半飽和時間が45分の組織のM値は 9.8m であり、9.8m 以上に潜水して時間が経過すれば限界を超えて、減圧停止が必要になる。さらに遅い組織でM値が3mであれば、5mでも窒素を吸収している。ただし、とけ込むのも遅いから、ある程度の時間を過ごさなければ限度を超えない。しかし、遅い組織は、溶け出すのも遅いから、長い減圧時間が要求される。 つまり、早い組織は早くとけ込むが早く溶け出すので減圧時間は短くてすむ。遅い組織は溶け出すのが遅いので、窒素をため込むのにも時間がかかるが、ため込んでしまうと、溶けだしに長い時間が必要でやっかいである。 これまで、水深10mまでの潜水であれば、ほとんど無制限に潜水できると考えていたダイバーも多かったが、浅い水深でも繰り返して3本も4本も潜ると、遅い組織に窒素をため込み排出時間も遅いので、その後すぐに高所に移動したり、航空機に乗ったりすると限界を超えてしまう。」 M値についてだけではなく、M値に関連する注意事項までせつめいしている。それが、今村さんのメインテーマなのだが、M値は値であり、減圧症の予防の為にあるのではない。M値を使って説明はできるのだが、それは、延々と講演するようなテーマである。 そして、決して間違いではないのだが、M値を水深で表現する方法を採用したのでわかりにくかった。
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