Quantcast
Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1388

0426 窒素酔い 2 釜石湾港防波堤

$
0
0
釜石湾港防波堤基礎測量工事 水深60m

1970年代は、人工漁礁の調査で、水深55mまでは、潜水して撮影している。使っていた減圧表は、英国のRNPL、この表はシンプルで使い易く、米国海軍の表よりも安全度が高いとされていた。 そして1980年、釜石湾港防波堤の基礎投石調査事業をやることができた。水深は65mが最深部で平均すれば55m前後で、水平に線を張る細かい作業である。名古屋にある日本シビルダイビングという潜水会社と合弁で、技術的に足りない部分は、海洋科学技術センター(現、JAMSTEC)に援助をお願いした。後に尾道のマリンテクノでもお世話になる三宅玄造さんとの親交が始まった。2011年からの水中科学協会のプライマリーコースでお世話になる米倉さんが出向されてきて、親しくなった 。混合ガスのガスオペレーションは、やはり海洋科学技術センターから紹介された田淵さんにお願いした。潜水チームはスガマリンメカニックで、チーフダイバーの河合君、鶴町君、井上君、米田君、そして茨城県水産高校の専攻科を卒業したばかりの田島雅彦が来た。彼はその後、海洋科学技術センターの深海潜水コースに入り、対馬沖のナヒモフ号の飽和潜水に出向参加する。フリーのダイバーも何人か参加して、大阪から来た上村君は頼りになるダイバーで、のちにも一緒に仕事をするようになる。そのほか名前は全部あげられないが、いいチームになり、その次の年、400メートル、行き止まりの沼沢沼発電所の取水トンネル調査も、このメンバーを招集した。現場監督は、日本シビルダイビングの田中さんがやってくれたので、僕は、ただのダイバーで潜水することができた。
b0075059_06534491.jpg
b0075059_06541362.jpg

 仕事は、湾口に防波堤を築く基礎工事で、リアス式の釜石湾の水深60メートルに大きな石を山に積み上げる。その山の重なり状態を細かく測量する作業であった。工期はとびとびではあったがおよそ一年だった。 呼吸ガスはヘリウム・酸素混合で、船上にガスカードルを置き、ホースで送気し、全面フルフェースのカービーモーガンのバンドマスクを使った。
b0075059_06543063.jpg
 工事は進んだが、予算節減のために、中途からヘリウム酸素から空気潜水となった。ヘリウム酸素混合ガス潜水と、空気潜水の両方を使って同じ工事を行った。自分もだが、全員空気を使って、割合精密な測量作業を特別の苦労もなく、窒素酔いで何事も異常はおこらなかった。慣れさえすれば、普通の空気で60mまで何の差支えもなく作業ができるということを体感した。 一度だけ、こんなことがあった。水深、たしか55mだったか、落としてしまった大アンカーを拾うためのワイヤロープの取り付け作業を行った。自分と鶴町がバディで入った。ワイヤーロープが重く、運ぶのに息が切れて、作業が終了して、その場に打ち伏した。20分の作業を予定していて、8分ぐらいで終了してしまったのだが、すぐにあがれば、減圧時間が短くて済むのに、そのままここで寝てしまいたい。船上から時間経過を知らせる声は聞こえてくる。「了解」とだけ答えて、時間がくるまで浮上しなかった。これも窒素酔いだろう。換気不足の気分の悪さはなかった。

 自分たちの工事が終了するころ、懇意にしている潜水会社が、同じく釜石湾で潜水していて、一人が亡くなった。スクーバでの潜水で、窒素酔いによる事故だと想定された。そのまま続行することもできず、仕事も終了していないので、あと一日二日の仕事だからとピンチヒッターになった。水深は70m、物理探査をするために、海底にダイナマイトを仕掛けてくるだけの作業だった。大阪の上村さんに来てもらって、二人で潜った。作業は一瞬で終わった。水面を見上げると、その日は特に透明度がよく、70m頭上の船がくっきりと見え、青い水に自分の吐き出す泡がキラキラ光って浮き上がっていく、上がる気持ちが無くなった。水面からの呼びかけで、仕方なく浮上した。これも空気潜水だったが、窒素酔いの快感をしみじみと味わった。

 一連の潜水で、ホースで空気を送り、空気量が十分にあれば、不快になることもなく水深70mまでは空気で軽作業ならできる。ただし、電話線を付けて、水面からの指示を聞かなければ危ない、これが僕たちの結論だった。この工事は当時、港湾土木作業についてとしては、最先端であり、注目を集めたが、空気で潜水していたことはオフレコだった。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1388

Trending Articles