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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0126 ハイドロパっく

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 ハイドロパックのことを話すとなると、僕の前歴から話をはじめなくてはならない。だから長くなる。僕は水産大学で、サザエの生態の研究を卒業論文にして卒業した。研究者になるつもりで、留学を考えていたのだけれど、お金が無くなってできなくなった。就職先がどこにもなくて、建設機械、ブルドーザのスクラップ再生工場に入った。 その会社は、米軍が基地を作ったりするのに使った建設機械を二束三文で買ってきて再生する。再生とは、とにかくバラバラにする。バラバラにして、ガソリンで洗うと摩耗して使えなくなっている部分がわかる。使えなくなっている部分を別のスクラップからもってくるか、なければ作って、元通りに組み立てる。これが再生だ。元通りに組み立てる時、マニュアルを見る。そこで、マニュアルと呼んでいるのは、米国の建設機械メーカーが自社の製品について出している分解図で、これを青焼きにしてまとめてある。これを頼りにバラバラにしたものをまた組み立てるのだ。
 これが僕の機械についての教養だ。すべての機械はバラバラにして、悪い部品を取り替えて組み立てれば、元通りに動く。このことを覚えて、建設機械会社を辞めて東亜潜水機に就職した。
 就職してしばらくは本を読んでいた。午前中は会社のデスクで本を読んでノートをとり、午後は工場を回って、誰かの手伝いをする。主に機械工場でコンプレッサーの組み立ての手伝いをした。組み立てができれば、その機械について、極めたことになる。
その時に僕の面倒を見てくれたのが亀田さんだった。先日、東亜潜水に行った時、亀田さんの息子が東亜で同じ仕事をしていて、彼が車で僕を駅まで送ってくれた。東亜潜水機ってそういう会社で、昔の僕の手下の安森君の息子もいる。
 
 読んでいた本は。米国海軍のダイビングマニュアル。まだ日本語版がなくて英語版だった。英語版だから、じっくり読める。ダイビングも自動車の分解、組み立てと同じで、マニュアルの通りにやれば、出来る。勿論、僕は素潜りが上手だったし、大学でダイビングの講習も受け、実際に人工魚礁の調査をして、死にかけている。その基礎に基づいてマニュアルを読む。
 もう一冊の本が、BASIC SCUDA 1960年版だ。この本は当時、世界で発売されているスクーバ器材のほとんどすべてについて、建設機械のマニュアル的な分解図が載っている。この通りに作ればレギュレーターもできる。実際には、日本ですでに売られているスピロテクニークのレギュレーターや、無印のレギュレーター、川崎航空のレギュレーターなどを分解して見る。もちろん、日本人の特性である、改善コピーをするから、まあまあ、よりよいものができる。
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   ネムロードのレギュレーター
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   ハイドロパック

 レギュレーターのオーバーホールとは、バラバラにして悪い部品を取り替えて、洗って組み立てるだけのことだ。でも、時に部品を一個取り付け忘れたりする。そうすると、もしかすると空気が止まる。
 そのBASIC SCUDAに載っていたハイドロパックの図だ。これは米国のスコットいう会社が出したもので、スコットは呼吸器メーカーとして世界最高だ。今でも再圧室に入って、純酸素呼吸をする時に使うマスクがスコット製で、酸素呼吸器のことを通称はスコットとよんでいる。スコットは呼吸抵抗が少なくてとても良い。
 余談になるが、荏原病院で酸素耐性テスト(再圧室に入って、1.8キロかけて純酸素を呼吸して、酸素中毒にならないことを確認するテスト)をした時、酸素呼吸器の調子がわるかった。病院では、早崎が予算をケチって、スコットを買わなかったからだと言っていた。とても印象に残っている。早崎さんとは、今マラソンとテクニカルダイビングをやり、松沢病院に居る早崎さんで、水中科学協会の会員にもなってくれている親友の一人だ。スコットは高価なのだ。
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 ハイドロパックは、そのスコットが作ったダイビング用フルフェイスマスクで、マスク全体がレギュレーターになっているマニアックで高価なもので、なんと、このマスクを1960年当時に世界に売っていたのだ。僕が100mに潜った1963年、手作りマスクを作ったもっと前に、これが世界にはあった。勿論、僕はスコットのハイドロパックがあることをよく知っていた。まだ日本アクアラングが出来る前で、バルコム交易という輸入会社が、フランスのスピロのレギュレーターを輸入していた時代に、試験的に一台輸入してみたものがあった。
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 この写真、ハイドロパックを着けているのは、伝説の潜水研究所の菅原久一さんだ。僕と後藤道夫の師匠でもあり、ニッポン潜水グラフィティにも出てくる本格的な酒飲みで、酔っ払って電車の線路に寝て親指が切断されたという幸運な人だ。不運ならば身体を轢かれている。日本潜水科学協会の設立者の一人で、御茶ノ水の協会事務所で理事会があり、この事務所は屋根裏にあって、会議がおわってからの飲酒で、酔っ払った菅原さんは急な梯子のような階段から落ち、頭を打って亡くなった。心から羨ましいと僕は思っている。
 その菅原さんがテストをしているプールは水産大学のプールだ。後ろの建物は、水産大学の校舎だ。そして、このプールは現存していて、今も東京海洋大学の学生が泳いでいて、その一角には潜水部の部室がある。
このプールあと100年は持つ。
ぜんぜん自慢にはならないと思う。海洋大学、海の大学に屋内温水プールがないのは、大学の、文科省の恥だ。
 そのハイドロパックだが、僕が100m潜った1963年、僕の給料は3万円だったとおもう、その時、ハイドロパックの値段は38万だったと覚えている。TOA SCUBAは2万円、日本アクアラングができて、アクアマスターが2万8千円だった時の値段だ。これはもう、この世に存在しないものと同じだ。だから僕は手作りでフルフェイスマスクをつくった。
 しかし、僕はハイドロパックの位置の差の平衡の取り方をモディファイして、新型レギュレーターを作っている。
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   1967年に僕は水中狩猟はやめた。 念のため

 この写真が僕の新型レギュレーターで蛇腹管が1本であることが見て取れると思う。
 位置の差とはどういうことかというと、これは、ぼくが一番最初に書いた本「アクアラング潜水」からのコピーだが、肺の中心が呼吸の中心で、大気中、水面上では、呼吸する位置の差の抵抗はゼロである。水に入ると呼吸器の中心と、肺の位置の差が呼吸抵抗になる。背面飛行をすると、肺の位置のほうが高いので、レギュレーターとの高さの差が20cmとすると、20cmの圧力で空気がマウスピースから噴出する。水平姿勢になると背中のレギュレーターよりも肺の位置が低いので、その差圧が呼吸抵抗になる。20cmあれば200mmの抵抗に打ち勝って吸い込むことになる。ちなみに、レギュレーターの呼吸抵抗は現今のものは、現今のものはゼロから20mm、昔の呼吸抵抗の高いレギュレーターでも30-60mmだから、位置の差の200mmは大きい。身体を立てた位置になると、位置の差はゼロに近くなる。シングルホースになると、マウスピースの位置が呼吸器の位置になるから、水平姿勢の呼吸抵抗が少なくなる。僕はレギュレーターの呼吸抵抗と位置の差がイコールになるようにと、胸の位置にレギュレーターを置いた。
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最近ではレギュレーターの性能が良くなったから、あまり位置の差は問題にしていないようだが、レギュレーターの呼吸抵抗がゼロであったとして、位置の差の抵抗が、そのまま呼吸抵抗になる。

ようやく、誕生日のメッセージのお礼がおわった。見過ごした方がいるかもしれませんが、ありがとうございます。自分にとっては、めでたくないのですが、『生きていてよかったね』と思ってくださること、たいへんなことでほんとうにありがたいことです。冒険者として、のたれ死ぬのが望みだなんてうそぶいていたのですが。もしかして、これは死ねないな。とか、でも、
守りに入ってはいけない。
それにしても泳ぎがおそくなつた。昔のゆっくりが今のフルスピード。
とにかく、このごろとにかくが多すぎるけれど、


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