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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1114 命綱 ⑤ 窒素酔い

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命綱⑤窒素酔い
 窒素酔いについて少し書き足しておきたい。また、潜水士テキストの窒素酔いの定義から見直そう。

 潜水士テキストによれば、
「潜水深度がふかくなると、空気や、窒素酸素混合ガス潜水では、アルコール飲用時と類 似した症状を呈する。いわゆる窒素酔いの影響が大きくなる。
窒素酔いは症状発現が早く、潜水直後に発現し、潜水深度が浅くなれば軽減する。自信が 増加して、注意力が低下するためスクーバでは、呼吸ガスボンベの圧力低下に気づかず、 エア切れに、陥ることがある。深い潜水ほど窒素酔いは重く、その場合のエア切れは致命 的になることもある。
 注意すべきは、潜水経験を積むと、窒素酔いにかかりにくくなるという錯覚に陥るこお とである。医学的な研究では複数回の潜水によって、」窒素酔いに慣れたという客観的な 証拠は認められていない。深い潜水の経験があるからといって、過信するこおとはきけん である。
 高圧則では、窒素酔いによる危険性を避けるために窒素分圧限界を水深40m以下とす るように定めているが、窒素酔いの程度には個人差が大きいので、制限深度より浅くても 注意が必要である。
 また、飲酒や疲労、大きな作業量、不安なども、窒素酔いの作用を強くするので、注意 がひつようである。」

ここまで、三浦定之助という先輩の「潜水のとも」を読んできた。昭和10年に書かれたもので、そのころの最高の潜水マニュアルだったと言っていい。
三浦定之助先輩は本の著作が多い人で、当時として、論理的にものを考えることができる人である。 そのころの定置網潜水士の養成を多人数やられた方でもあり、その講習での潜水深度は最上級では80mを越えている。そのためにでもあるが減圧症の罹患も多かった。減圧症之問題は別として、そんなに深く潜ったら窒素酔いがひどいだろうとおもうのだが、窒素酔いについての記述がきれいさっぱり無いのだ。
 めまいという項があってこれが窒素酔いに相当するのかと思うのだが、本当にめまい程度のことしか書いていない。僕たちの、僕の体験した窒素酔いの症状などどこにも書いていない。
 三浦先輩は嘘を書く人ではない。しかも、この本は潜水の教本である。
 理由がわからない。もしかしたら、窒素酔いについてなにも知らなかったならば、窒素酔いにはならないのではないか。

 水産大学に入ったばかりの頃の乗船実習で、絶対に船酔いしない奴が何人かいる。みんな山国育ちだ、漁師の子はすぐに船酔いになる。船酔いを知っているからだなどといっていたが、そういうことがあるのだろうか。これは医学的には絶対に説明がつかない。
 窒素酔いでも船酔いでも、酒酔いでも、かなりの部分がメンタルなもの、気持ちの持ちようだといえるのではないか。
 潜水士テキストによれば、窒素酔いになれるというようなことはないと書いてある。
船酔いについては間違いなく慣れる。
 もはや三浦先輩はじめ、窒素酔いにならなかったダイバーたちはこの世の人ではない。聞くことも調べることもできない。ただ、「潜水の友」という本があるだけだ。
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 第二次大戦のあと、僕たち、少なくとも僕が窒素酔いを知ったのは、アクアラングが日本に知られたその後、アクアラングの開発者 クストーが書いた本「海は生きている(The Silent Word)」第二章 深海での陶酔状態、であった。 一部引用する。
「まず最初、軽度の知覚障害がおこり、次に本人はあたかも神にでもなったような気持ちになるものである。中略 その課程は複雑で、潜水生理学者の間では、未だに論争の種になっている。キャプテン・ベーンケによると、それは窒素の過飽和が原因しているのかもしれないが、あの屈み病(減圧症のこと)とは無関係のものである。最近の熱心な研究によると、この深海での陶酔の原因は、中央神経組織がガスに犯されるためである。すなわち、神経組織の中に二酸化炭素が残存するためであることがわかった。
 アメリカ海軍は、試験潜水の時、窒素の代わりにヘリウムを使ってみたところ、この奇妙な陶酔状態は起こらなかった。中略、スエーデン人の、ゼタストロームという人は、深海潜水の際に水素を使ったが、水面近くで減圧過程になってから個人的落ち度のために死んでしまった。」
 この本の日本語訳の発刊は1955年である。
 僕が潜水を始めたのは1957年で、その時に使ったテキスト「a manual for free-divers using compressed air / david m.owen 1954 には、Nitrogen narcosis として、説明がでていて、280-300フィート(80-90m)では、基本的な動作が不可能になる、と書かれていた。

 生理学者ではないので、窒素酔いの機序について調べてもわからないが、次に読んだ本、1971年 「潜水医学入門 スタンリーマイルズ」では、かなり詳しい説明があり、窒素酔いの適応について、「訓練と経験によって、多くのダイバーは確実に窒素麻酔に対する抵抗性を増強する。その適応は決して永久的なものではなく、維持するためには、一週間に一度、90mへ潜水することがすすめられる。これは加圧室などで行うことができ、わすか数分間、その深度に居れば良い。」とあり、これが自分の感覚・経験に一番あった説明であった。三浦先輩の時代は,慣れていたのだとしか説明できない。

僕は自分の経験から、窒素酔いは70mまでは慣れる。窒素酔いは起こっているのだろうが、その酔いに耐えられる。計算問題などはきっとできないと思うが、とにかく、決めた仕事はやり遂げられる。

 人によって、様々だが、伊豆海洋公園の益田さんたちは、80-90mに潜っていた。(日本の海洋動物 海深90メートルまで :1969)慣れたダイバーは、水深70mていどまでは、意識を失うようなことはない。ただ、マウスピースを口から離してしまうおそれはあるといわれていて、56m以上はフルフェースマスクをつけるという国際ルールがあると聞いている。
 普通のレクリエーションダイバーについては、空気で40mを越すことは危険であり、幾つかの事故を知っている。深度制限が40mということは妥当であり、かなり定着している。このことから、プロのダイバーも40mと決められたのかもしれない。アマチュアは自己責任とも言えるが、業務の潜水士は、管理責任がある。
 しかし、60m以上に潜れることが芸になっている何人かの定置網ダイバーを知っているが、規則がどうあろうとも、彼らは、死ぬまで空気で潜るだろ。
そして、やがて、そのようなダイバーたちはいなくなり、40m以上では混合ガス潜水をするダイバーたちの持代になるのだろう。窒素酔いを知らなかった昭和10年代、僕の生まれた頃だ。1950年台の沈黙の世界、1960年代、益田さんたちは80m.90mに潜っていた。1963年、僕と館石さんは100mを目指し90mが限界だった。1970年代、スタンリーマイルズは、窒素酔いは慣れるといい。僕もなれたのだろう、60m70mにあまり抵抗なく空気でもぐっていた。そして、40mの制限、時代の流れというものかもしれない。
 
 なぜ⑤命綱、が窒素酔い のテーマになってしまったのか。命綱を付けていれば、窒素酔いは、問題にならない。フルフェースマスクを付けていれば、気絶しても大丈夫だ。引き上げてもらえる。

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