潜水の友 続き
この「潜水の友」の記述と図で、大串式はスクーバとして使っていて、長崎でのアコヤガイ採集に実績をあげていたことを知った。今、知ったのだ。
図によれば、背中に背負っているタンクは充填圧が40キロでフィンは履いていない。バルブの開閉は、片手の手動で行っていた。
マスクにホースが直結されていて、ただそれだけだったが、まちがいなく、実用になったスクーバ潜水機として、大串式が世界初だった。スクーバの原点はフランスでもクストーでもなく、長崎県大村湾の渡辺理一だった。
前回、片岡弓八がバイト式のアイデアを出したのは、嘘だろうと書いたが、これは本当で、「潜水の友」の記述によれば、片岡弓八の考えで、大串式は完成したとある。
特許に出したのは、すでにバイト式であり、150キロのボンベだったが、やはり150キロの充填は容易ではなかったものだろう。40キロのために長い時間の潜水も出来なかったし、深く潜れなかった。
ここで、八坂丸の、送気式、デマンドバルブ付きマスクの潜水機になる。
ここでは、本文を全部引用できないので、引用部分はゴシックにして、後は、現行の自分の眼からみて、要約、意訳している。
第三章 マスク式潜水器について
17 ヘルメット式とマスク式の得失についてのべている。
「マスク式の方が減圧症にかかりにくい。これは、実績である。ヘルメットは45mが優良であるが、マスク式では100m」
そんな風に考えていた。言うまでもなく、減圧理論では潜水機の種類には関係がないのだが、本当に潜水機の種類に関係がないだろうか?例えば、スクーバで、ドライスーツとウエットスーツと減圧症にかかる率は同じだろうか? 現今のように、理論式から割り出して行けば、大大公約数的には同じだろうが、この時代のように、限界すれすれで、潜っていれば、実績は無視できない。そもそも、減圧表も経験、実績で評価されている。
「ヘルメットは45mが優良であるが、マスク式では100mまでの実績がある」している。
①潮流の抵抗が少ない。流れの速いところでは、絶対的にマスク式だと述べている。
ヘルメットのような潜水服を付けないので、抵抗が少なく、歩くのが速く敏捷性にすぐれている。また狭いところにも入って行ける。
②潜水服を着けないので転覆する心配がなく、転覆に続いて足を上にして吹上などもない。
狭いところに入れない。
③中性浮力での作業ができる。ヘルメット式でも熟達者は中性浮力で作業ができるが、一つ間違ってバランスを失えば、吹き上げられてしまう。
※現行の高圧則で潜降索にこだわっているのは、ヘルメット式の吹き上げ防止のためである。
④スクイーズ
浅い海では潜水服による下半身のスクイーズもさほどの問題にならないが、深く潜ると下半身が絞られて、真っ赤になる。
⑤ヘルメットは着装に時間がかかる。
⑥ヘルメットは、手元が見えない。
マスク式の欠点は、潜水服を着ていないので寒い。年齢は40以下、ヘルメットは、50以上のベテランも作業できる。
つまるところ、ヘルメット式のマスク式の差、というよりも、身体の動きを縛る、潜水服を着ているかいないかの差である。
ヘルメットと比べたマスク式の欠点は、寒冷なること。
ウエットスーツがまだ出来ていない頃の話だ。寒冷は致命的な欠点だったろう。しかし、そのために長く潜れない。すなわち、マスク式は潜水病になりにくい、ということだったのではないだろうか。
18 マスク式綱持ちの特に注意すべきこと
19 マスク潜水夫の心得
20 マスク式潜水器局部構造
大串式は実物を見ているが、山本式は実物をみていない。
東亜潜水機に入社して、間もないころ、1959年頃だが、僕が作業デスクを作った、倉庫の天井から、このマスクが吊るしてあった。その頃はなんでも、フィンでもマスクでも天井から吊るしていた。ちょっと、手に持って見たと思うが、残念なことに、その頃は、アクアラングだけが、潜水機的に思っていたので、無関心だった。社長が、「マスクが吊り下がっているから、持ってきてください。」というので、持って行った。どうしてもほしいという人が居るということで、売ってしまった。そのころ、すでに山本式を売っていた、日本潜水は消滅してしまったらしく、(その辺の事情もわからない)もしかしたら、これが最後の山本式マスクだったかもしれない。
最近になって、真鶴の岩の組合の倉庫から、これが見つかったということを聞き、組合と親しくしている岡本美鈴に、聞いて見るように頼んでいるが、まだ返事は来ない。
山本式は、目と鼻を覆うマスク部分とゴムで顔全体を覆うマスクが二重構造になっている。
顔全体を覆うゴムは、完全に水密になっているかどうか不明であるが、排気弁がついているので、いちおうフルフェースマスクになっているようにみえる。
大串式は目と鼻マスクのみで、口金の部分は露出している。
山本式の考案者山本虎多は、奇しくも商船学校で片岡の同級生であった。サルベージ作業で命落としている。大串式と、ほぼ同時期に着想しているというが、大串式の方が早いとは皆認めている。
なお、渡辺も大串も八坂丸成功前に亡くなっている。
マスクに水が入ったとき
の水抜きについてのべているから、山本式は外側のゴムの部分は、今のフルフェースマスクと同様である。
マスクの水抜きは一回口に入れて、外に吐き出す。上を向くなどの記述がある。排水弁の位置は、口に正対していて、排水には不便であったようで、水が漏れないマスク装着が重要だった。
すなわち、山本式と大串式の差は、山本式はフルフェースマスクだったことだ。
デマンドバルグのついてフルフェイスマスクとして、実用になり普及したものとしては山本式が世界初だ。
山本マスク式の空気消費は、ヘルメットの二分の一、思ったほどの差ではない。内容積比から考えて、もっと差があると考えていた。
なお、「潜水の友」では送気量、についての細かいデータが掲載されている。
ポンプは天秤式と回転式があり、深さに応じたピストンの径、押す数と人数の表がある。最大16人で押している。16人力だ。それでも間に合わないで、手押しポンプを二台連結などもしている。
送気量を5段階に分けて、ピストンの径と押す回数を表示している。
空気消費量の差は、一番大きな問題であり、潜水夫の上手下手は、空気の消費量であり、
空気消費の多いダイバーはポンプ押しに嫌われる。
たとえば、45m潜るのとして、着底するまでに10人のポンプ押しが倒れてしまって、交代する。潜降する時の空気消費が多いのだ。
減圧停止も長いとポンプ押しが持たない。
深い潜水は10分以内、潜降速度はできるだけ速く。減圧停止については後述するが、6分以内である。これらはすべてポンプ押しの体力にかかっている。
山本式の特色の一つは、貯気タンクを使っている。ヘルメット式はヘルメットの中の空気などで、少しの時間の余裕があるが、マスク式は送気が止まれば待ったなしである。貯気タンクの役割は重要であり、また、深い圧力の時に貯めておけば、浮上を開始したら、ポンプを押すのをやめて、タンクで浮上することも行われていた。
コンプレッサーも使っているが圧倒的にまだこの時代はポンプである。
この図は、水産講習所の潜水練習船のものらしい、現在のヘルメット潜水船とあまり変わっていない。僕らの母校東京水産大学、その前身の、水産講習書は、1935年当時、世界の潜水の最先端を行っていたのだったが、僕もそのことは教えられず、現在の東京海洋大学の博物館展示にも、その展示はない。
次回はその時代の減圧症、潜水病事情について書く。僕自身、考えさせられるところが大きかった。
この「潜水の友」の記述と図で、大串式はスクーバとして使っていて、長崎でのアコヤガイ採集に実績をあげていたことを知った。今、知ったのだ。
図によれば、背中に背負っているタンクは充填圧が40キロでフィンは履いていない。バルブの開閉は、片手の手動で行っていた。
マスクにホースが直結されていて、ただそれだけだったが、まちがいなく、実用になったスクーバ潜水機として、大串式が世界初だった。スクーバの原点はフランスでもクストーでもなく、長崎県大村湾の渡辺理一だった。
前回、片岡弓八がバイト式のアイデアを出したのは、嘘だろうと書いたが、これは本当で、「潜水の友」の記述によれば、片岡弓八の考えで、大串式は完成したとある。
特許に出したのは、すでにバイト式であり、150キロのボンベだったが、やはり150キロの充填は容易ではなかったものだろう。40キロのために長い時間の潜水も出来なかったし、深く潜れなかった。
ここで、八坂丸の、送気式、デマンドバルブ付きマスクの潜水機になる。
ここでは、本文を全部引用できないので、引用部分はゴシックにして、後は、現行の自分の眼からみて、要約、意訳している。
第三章 マスク式潜水器について
17 ヘルメット式とマスク式の得失についてのべている。
「マスク式の方が減圧症にかかりにくい。これは、実績である。ヘルメットは45mが優良であるが、マスク式では100m」
そんな風に考えていた。言うまでもなく、減圧理論では潜水機の種類には関係がないのだが、本当に潜水機の種類に関係がないだろうか?例えば、スクーバで、ドライスーツとウエットスーツと減圧症にかかる率は同じだろうか? 現今のように、理論式から割り出して行けば、大大公約数的には同じだろうが、この時代のように、限界すれすれで、潜っていれば、実績は無視できない。そもそも、減圧表も経験、実績で評価されている。
「ヘルメットは45mが優良であるが、マスク式では100mまでの実績がある」している。
①潮流の抵抗が少ない。流れの速いところでは、絶対的にマスク式だと述べている。
ヘルメットのような潜水服を付けないので、抵抗が少なく、歩くのが速く敏捷性にすぐれている。また狭いところにも入って行ける。
②潜水服を着けないので転覆する心配がなく、転覆に続いて足を上にして吹上などもない。
狭いところに入れない。
③中性浮力での作業ができる。ヘルメット式でも熟達者は中性浮力で作業ができるが、一つ間違ってバランスを失えば、吹き上げられてしまう。
※現行の高圧則で潜降索にこだわっているのは、ヘルメット式の吹き上げ防止のためである。
④スクイーズ
浅い海では潜水服による下半身のスクイーズもさほどの問題にならないが、深く潜ると下半身が絞られて、真っ赤になる。
⑤ヘルメットは着装に時間がかかる。
⑥ヘルメットは、手元が見えない。
マスク式の欠点は、潜水服を着ていないので寒い。年齢は40以下、ヘルメットは、50以上のベテランも作業できる。
つまるところ、ヘルメット式のマスク式の差、というよりも、身体の動きを縛る、潜水服を着ているかいないかの差である。
ヘルメットと比べたマスク式の欠点は、寒冷なること。
ウエットスーツがまだ出来ていない頃の話だ。寒冷は致命的な欠点だったろう。しかし、そのために長く潜れない。すなわち、マスク式は潜水病になりにくい、ということだったのではないだろうか。
18 マスク式綱持ちの特に注意すべきこと
19 マスク潜水夫の心得
20 マスク式潜水器局部構造
大串式は実物を見ているが、山本式は実物をみていない。
東亜潜水機に入社して、間もないころ、1959年頃だが、僕が作業デスクを作った、倉庫の天井から、このマスクが吊るしてあった。その頃はなんでも、フィンでもマスクでも天井から吊るしていた。ちょっと、手に持って見たと思うが、残念なことに、その頃は、アクアラングだけが、潜水機的に思っていたので、無関心だった。社長が、「マスクが吊り下がっているから、持ってきてください。」というので、持って行った。どうしてもほしいという人が居るということで、売ってしまった。そのころ、すでに山本式を売っていた、日本潜水は消滅してしまったらしく、(その辺の事情もわからない)もしかしたら、これが最後の山本式マスクだったかもしれない。
最近になって、真鶴の岩の組合の倉庫から、これが見つかったということを聞き、組合と親しくしている岡本美鈴に、聞いて見るように頼んでいるが、まだ返事は来ない。
山本式は、目と鼻を覆うマスク部分とゴムで顔全体を覆うマスクが二重構造になっている。
顔全体を覆うゴムは、完全に水密になっているかどうか不明であるが、排気弁がついているので、いちおうフルフェースマスクになっているようにみえる。
大串式は目と鼻マスクのみで、口金の部分は露出している。
山本式の考案者山本虎多は、奇しくも商船学校で片岡の同級生であった。サルベージ作業で命落としている。大串式と、ほぼ同時期に着想しているというが、大串式の方が早いとは皆認めている。
なお、渡辺も大串も八坂丸成功前に亡くなっている。
マスクに水が入ったとき
の水抜きについてのべているから、山本式は外側のゴムの部分は、今のフルフェースマスクと同様である。
マスクの水抜きは一回口に入れて、外に吐き出す。上を向くなどの記述がある。排水弁の位置は、口に正対していて、排水には不便であったようで、水が漏れないマスク装着が重要だった。
すなわち、山本式と大串式の差は、山本式はフルフェースマスクだったことだ。
デマンドバルグのついてフルフェイスマスクとして、実用になり普及したものとしては山本式が世界初だ。
山本マスク式の空気消費は、ヘルメットの二分の一、思ったほどの差ではない。内容積比から考えて、もっと差があると考えていた。
なお、「潜水の友」では送気量、についての細かいデータが掲載されている。
ポンプは天秤式と回転式があり、深さに応じたピストンの径、押す数と人数の表がある。最大16人で押している。16人力だ。それでも間に合わないで、手押しポンプを二台連結などもしている。
送気量を5段階に分けて、ピストンの径と押す回数を表示している。
空気消費量の差は、一番大きな問題であり、潜水夫の上手下手は、空気の消費量であり、
空気消費の多いダイバーはポンプ押しに嫌われる。
たとえば、45m潜るのとして、着底するまでに10人のポンプ押しが倒れてしまって、交代する。潜降する時の空気消費が多いのだ。
減圧停止も長いとポンプ押しが持たない。
深い潜水は10分以内、潜降速度はできるだけ速く。減圧停止については後述するが、6分以内である。これらはすべてポンプ押しの体力にかかっている。
山本式の特色の一つは、貯気タンクを使っている。ヘルメット式はヘルメットの中の空気などで、少しの時間の余裕があるが、マスク式は送気が止まれば待ったなしである。貯気タンクの役割は重要であり、また、深い圧力の時に貯めておけば、浮上を開始したら、ポンプを押すのをやめて、タンクで浮上することも行われていた。
コンプレッサーも使っているが圧倒的にまだこの時代はポンプである。
この図は、水産講習所の潜水練習船のものらしい、現在のヘルメット潜水船とあまり変わっていない。僕らの母校東京水産大学、その前身の、水産講習書は、1935年当時、世界の潜水の最先端を行っていたのだったが、僕もそのことは教えられず、現在の東京海洋大学の博物館展示にも、その展示はない。
次回はその時代の減圧症、潜水病事情について書く。僕自身、考えさせられるところが大きかった。