ダイバーは、自分の能力でできる範囲で出来るだけ深く潜りたい。昔、ダイビングは深く潜るのが目標ではないなどと言われたのだが、今はレクテク等と言って、レクリエーションでも安全に深く潜りたいダイバーが増えてきている。安全と深くは二律背反するのだけれど。
今まで、映画で生身の人間が一番深く潜ったのは「アビス」。なんと5000mまで潜降する。
「アビス:ABYSS」ダイバーなら誰でも知っているタイトルだが、映画をみなかった人もいるだろうか。アマゾンでみたら、中古のdvdが250円だったので、注文してしまった。ジェームス・キャメロン、1989年の作品である。見ていない人が至ら、是非見てほしい。
深海、アビスに潜むわけのわからない知生体、それまで、人類とは交渉なく長い歴史を過ごしてきたが、人類の海の汚染で、自分たちが絶滅のおそれがあり、コンタクトをとってくる。
1990年に知性体の言うことを聞いて、原発をやめていれば、福島第二の事故はなかった。
でも、僕の視点はそういうことではなくて、キャメロンが作った、潜水器や潜水作業のメカニズムとか、セット、撮影技術についてなのだ。もはや、ここまでのセットを作らずにアバターができてしまうのだから、今後はもう、無いかもしれない水中撮影の世界だ。
僕は、この映画のメイキングのムック本ももっている。書棚から引き出してきた
本は映画の原作か、と思ったら、ノベライゼーションだった。オースン・スコット・ガード著
角川文庫、上下 はアマゾンで1円である。
アビスの、ストーリーの概略を文庫のカバーから写し取って置こう。
「カリブ海に横たわるカイマン海溝は、18000フィート(およそ6000m弱)を越える深淵(アビス)だ。
複数核弾頭ミサイルを満載した米軍の原潜モンタナが突然緊急発信を残して沈んだのは、そのアビスの入り口だった。ソ連が気づかないうちに、核弾頭や機密文書を回収しなければならない。たまたま近くで油田掘削試験中だったディープコアに協力が要請され、特殊部隊SEALが派遣された。折から史上最大級のハリケーンが現場海域に向かっている。時間はない。2000フィートを越える深海での作業は困難を極める。」
それはそれとして、 とんでもない記述を見つけた。
「浅海潜水では、今でもふつう窒素をヘリウムに置換したトライミックスが使われる。おかげで水中にいるあいだ中、みんなアヒル声になってしまう。しばらくすれば慣れるか、少なくとも互いに笑ったりはしなくなるが、今度は本来の自分の声を忘れてしまわないかと心配になる。最近では、「テトラミックスを使うので事態は改善された。これはヘリウムのほとんどをアルゴンに置換したものだ。」 ええっ!と我が目をうたがった。アルゴンは窒素よりも重い。もちろんヘリウムよりはずっと重い。ガスの粘性も高いので、殆どをヘリウムと置換したら、呼吸などできるわけがない。ジェームスキャメロンが、そんなことを言うわけも、書くわけもない。だろう。
前に読んだときには、これに気づかずに素通りしてしまった。
疑わしいところは置いておき、なぜ、今1990年の映画「アビス」なのか、いくつか理由があるが、まず、第一が、この映画で使っているマスクなのだ。
僕が、ニュース・ステーションで、フルフェースマスクでの水中レポートシリーズを始めたのが1986年だから、1990年の映画に使われるフルフェースマスクには、最大の関心があった。
アビスは多分、この映画のためにマスクを特別に作らせている。もしくは、大改造している。モーガンが作ったとあるから、現実の作業潜水に使われることが多かったカービー・モーガンのバンドマスクと親戚だろうか。
写真を見るとわかるように、面ガラスの上の縁が幅広く折れ曲がって居て、上からのカメラが顔全部をとらえている。そして、ヘッドに着けたライトの光がライトの底に開いている窓から分光してマスクの中の顔を照らしている。カメラのライトの光を当てなくても顔がよく見えるのだ。
僕たちのニュース・ステーションでは、外からの光をうまく当てないと顔が暗くなってしまうし、常にライトをあてているから、ライティングが単調になってしまう。
そのことをダイブウエイズの武田さんに話した。
この映画のようなヘルメット型ではないので、上の窓は作れなかったが横の窓はつくってもらった。
時は移り、ジェームス・キャメロンがサンクタムを作ったとき、このダイブウエイズのマスクをつかった。今、世界で映画に使えるフルフェースマスクは、これだけなのだ。
もうひとつ、技術的な注目点は、舞台になっているディープコアは海底居住型の石油掘削基地なのだ。しかも、この巨大な基地は自力で移動、つまり動くことができる。
1970年代、海洋開発といえば海底居住だったのだ。しかし、海底に居住してなにをする、何ができるのだ。その答えは無かった。水面の船を基地にしてダイバーはカプセルに入って降りていく。
ダイバーの海底居住の夢は消えた。狭いタンクの中に押し込まれて、長い時間をすごす飽和潜水となった。
1989年ジェームス・キャメロンは、すでに失われた海底居住の夢を追いかける。
そして、もうひとつ、映画の深海ダイバーはフィンを着けていない。海底を歩いたり、走ったり、フィン無しで泳いだりする。1990年にこの映画を見た時は、どうしてフィンを履かないのだと疑問に思ったが、実際の飽和潜水作業のダイバーは、状況に応じて、フィンは着けたり、脱いだりする。水面に浮かない、浮いてはいけないのだから、泳ぐ必要がないのだ。
使った写真、図は、The Abyss :角川書店 1990 より転写:
続
今まで、映画で生身の人間が一番深く潜ったのは「アビス」。なんと5000mまで潜降する。
「アビス:ABYSS」ダイバーなら誰でも知っているタイトルだが、映画をみなかった人もいるだろうか。アマゾンでみたら、中古のdvdが250円だったので、注文してしまった。ジェームス・キャメロン、1989年の作品である。見ていない人が至ら、是非見てほしい。
深海、アビスに潜むわけのわからない知生体、それまで、人類とは交渉なく長い歴史を過ごしてきたが、人類の海の汚染で、自分たちが絶滅のおそれがあり、コンタクトをとってくる。
1990年に知性体の言うことを聞いて、原発をやめていれば、福島第二の事故はなかった。
でも、僕の視点はそういうことではなくて、キャメロンが作った、潜水器や潜水作業のメカニズムとか、セット、撮影技術についてなのだ。もはや、ここまでのセットを作らずにアバターができてしまうのだから、今後はもう、無いかもしれない水中撮影の世界だ。
僕は、この映画のメイキングのムック本ももっている。書棚から引き出してきた
本は映画の原作か、と思ったら、ノベライゼーションだった。オースン・スコット・ガード著
角川文庫、上下 はアマゾンで1円である。
アビスの、ストーリーの概略を文庫のカバーから写し取って置こう。
「カリブ海に横たわるカイマン海溝は、18000フィート(およそ6000m弱)を越える深淵(アビス)だ。
複数核弾頭ミサイルを満載した米軍の原潜モンタナが突然緊急発信を残して沈んだのは、そのアビスの入り口だった。ソ連が気づかないうちに、核弾頭や機密文書を回収しなければならない。たまたま近くで油田掘削試験中だったディープコアに協力が要請され、特殊部隊SEALが派遣された。折から史上最大級のハリケーンが現場海域に向かっている。時間はない。2000フィートを越える深海での作業は困難を極める。」
それはそれとして、 とんでもない記述を見つけた。
「浅海潜水では、今でもふつう窒素をヘリウムに置換したトライミックスが使われる。おかげで水中にいるあいだ中、みんなアヒル声になってしまう。しばらくすれば慣れるか、少なくとも互いに笑ったりはしなくなるが、今度は本来の自分の声を忘れてしまわないかと心配になる。最近では、「テトラミックスを使うので事態は改善された。これはヘリウムのほとんどをアルゴンに置換したものだ。」 ええっ!と我が目をうたがった。アルゴンは窒素よりも重い。もちろんヘリウムよりはずっと重い。ガスの粘性も高いので、殆どをヘリウムと置換したら、呼吸などできるわけがない。ジェームスキャメロンが、そんなことを言うわけも、書くわけもない。だろう。
前に読んだときには、これに気づかずに素通りしてしまった。
疑わしいところは置いておき、なぜ、今1990年の映画「アビス」なのか、いくつか理由があるが、まず、第一が、この映画で使っているマスクなのだ。
僕が、ニュース・ステーションで、フルフェースマスクでの水中レポートシリーズを始めたのが1986年だから、1990年の映画に使われるフルフェースマスクには、最大の関心があった。
アビスは多分、この映画のためにマスクを特別に作らせている。もしくは、大改造している。モーガンが作ったとあるから、現実の作業潜水に使われることが多かったカービー・モーガンのバンドマスクと親戚だろうか。
写真を見るとわかるように、面ガラスの上の縁が幅広く折れ曲がって居て、上からのカメラが顔全部をとらえている。そして、ヘッドに着けたライトの光がライトの底に開いている窓から分光してマスクの中の顔を照らしている。カメラのライトの光を当てなくても顔がよく見えるのだ。
僕たちのニュース・ステーションでは、外からの光をうまく当てないと顔が暗くなってしまうし、常にライトをあてているから、ライティングが単調になってしまう。
そのことをダイブウエイズの武田さんに話した。
この映画のようなヘルメット型ではないので、上の窓は作れなかったが横の窓はつくってもらった。
時は移り、ジェームス・キャメロンがサンクタムを作ったとき、このダイブウエイズのマスクをつかった。今、世界で映画に使えるフルフェースマスクは、これだけなのだ。
もうひとつ、技術的な注目点は、舞台になっているディープコアは海底居住型の石油掘削基地なのだ。しかも、この巨大な基地は自力で移動、つまり動くことができる。
1970年代、海洋開発といえば海底居住だったのだ。しかし、海底に居住してなにをする、何ができるのだ。その答えは無かった。水面の船を基地にしてダイバーはカプセルに入って降りていく。
ダイバーの海底居住の夢は消えた。狭いタンクの中に押し込まれて、長い時間をすごす飽和潜水となった。
1989年ジェームス・キャメロンは、すでに失われた海底居住の夢を追いかける。
そして、もうひとつ、映画の深海ダイバーはフィンを着けていない。海底を歩いたり、走ったり、フィン無しで泳いだりする。1990年にこの映画を見た時は、どうしてフィンを履かないのだと疑問に思ったが、実際の飽和潜水作業のダイバーは、状況に応じて、フィンは着けたり、脱いだりする。水面に浮かない、浮いてはいけないのだから、泳ぐ必要がないのだ。
使った写真、図は、The Abyss :角川書店 1990 より転写:
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