キャメロンは、ハイスクール時代、17歳で免許(Cカードのことだろう)をとって以来ダイビング映画の決定版を作りたいと志す。そのころ、クストーの映画やテレビシリーズが公開されている。海底居住の始まりである、太陽のとどかぬ世界 もこの頃の映画だ。もちろんみているだろう。
そして毎週行われている科学セミナーを聴講していて、プロのダイバーが、肺の中に液体を満たして呼吸する実験に参加したという話を聞き、液体呼吸でアビスに潜っていくという短編小説を書いた。それが原案ともいえて、映画でもクライマックスは、液体呼吸でアビスに降りて行く。
ヘルメットの中は特殊な液体で満たされ、それを肺に吸い込む。
液体呼吸は、犬の実験に成功したというところまでは発表されているが、人体での実験は行われたのだろうか?今ではその話はきかなくなっている。
液体呼吸の実験を人間が行って実用になる。それがとんでもないことだと思うようになって、人間の、1970年代の人間、つまりダイバーによる海洋開発の夢は消えた。 海洋開発、イコール人体実験だから。
海洋開発は人の手で行われるのではなく、機器、ロボットや潜水艇でおこなわれるべきものになり、1998年、日本でも海洋開発技術センターから、人体による潜水技術の開発という項目は消滅した。
自分の身に置き換えて、肺に水を満たされる液体呼吸の実験に参加するだろうか、できるだろうか?
微妙だけれど、命をかけるだけの夢がそこにはあった。
潜水艇のぶつかり合い。
ダイバーに取って代わる潜水艇もアビスでは活躍する。潜水艇どうしのぶつかり合いの格闘もある。1台は普通の潜水艇、1台は、フラットヘッドとよび、ダイバーは、トラックの荷台のような、ところに乗っていく。
この映画を、キャメロンは、海(実海域)で水中撮影をするつもりは全くなかったという。セットで撮影するためには、巨大なプールが必要である。
浄化も保温も必要である。世界中を探して、サウスキャロライナの未完の原子力発電所の貯水プールを使うことができた。直径61m深さ17mある。
潜水艇も実寸で2台作った。先に述べたヘルメットも呼吸装置も新たにつくった。どんな呼吸装置か?リブリーザーの類のようだ。セミクローズかもしれない。映画では、ラフな使い方をしている。
もうひとつ、注目したのは通信装置である。
1990年頃の映画で、ありふれた、例によってというようなストーリーだが、核弾頭がでてくる。この映画では大抵の場合ヒーローになるSEALS(特殊部隊)の隊長が、この映画では悪役だ。海猿が悪役になったようなものだ。
高圧神経症候群になって、自分を失い、アビスに棲む知的生命体を敵だと決めつけて、絶滅させるべく、時限装置をセットして核弾頭を沈めてしまう。これは人間の手でなければ解除できない。ヒローのダイバー作業主任が液体呼吸で、生身の体で5000mに単独潜降する。そのときの通信装置である。
光ファイバー通信機で何ミクロンという細さで、コーヒーカップほどの容器にはいるファイバーをのばして、5000mの有線通信をしてしまう。
ニュース・ステーションで有線通話でのレポートをやり、有線通話のケーブルを使うケーブルダイビングシステムを進めていた僕には、これこそが、ダイビングの未来の通信装置の姿だと思えたものだ。
人類の、ダイバーの夢であった海底居住、ダイバーではなくて海底人(アクアノート)になるという夢は、1964年、クストーの「太陽のとどかぬ世界」から始まり、1989年の「アビス」で終わった。
太陽の届かぬ世界はドキュメンタリーであり、アビスは絵空事、SFである。 1000mを越してダイバーが潜水することは、1989年の世界でも、すでに実現不可能なSFであった。
アビスに潜む、知的生命体は、エイリアンで一躍世界に認められたジェームス・キャメロンの世界である。素直に面白がるほかないのだが、エイリアンもゴジラも世界を破壊する悪役だが、ここでは、神に匹敵するものを作り上げた。もしも、こんな神がいるものならば、福島第一の事故は?と思ってしまう。
技術的には、アルゴンを混入するテトラミクスは、調べた限りでは存在しないし、あり得ないとも思うが、1989年の時点で、ヘリウム酸素ではしゃべれないので、微量のアルゴンを混入した実験があったのかもしれない。と思ってしまう。60歳の100m潜水で、アルゴンをドライスーツの中に注入して保温を強化したのだが、そのとき、総指揮の石黒さんに、アルゴンは猛毒であると聞いた記憶がある。彼の著書「ダイビング・テクノロジー}を調べても、その記述はないし、空気にはかなり含まれている不活性ガスだから、そのものが猛毒ということはないだろう。
映画に使われているヘルメットとドライスーツは、どこの商品だろう。さらなる昔、東亜潜水器で海底二万リーグのヘルメットを作ったように、どこかのメーカーが特別に作ったものだろうか。潜水器もCRのように見えるが、メイキングのムックには、そのような記述はない。なお、通話器と潜水器について、メイキングのムックには、とても引用しきれないほど長文の記述があるが、このあたりの記述は、訳者に深海潜水の知識は無いと思われるので、信用出来がたい。
また、ヒロインのメアリイ・エリザベス・マストランニオ(好きな女優さんだが)を一旦溺水させて、また蘇生させるシーンがあるが、このとき、肺に水を吸い込ませるという記述がある。これもとんでもない話で、吸い込ませないようにして曳行しなければいけない。どうも、キャメロンは、生理学をいい加減に扱っているようだ。なぜだろう。この分野の良いアドバイザーがアメリカに居ないとは思えないのだが。もしかしたら、やはり訳文の問題か?
何れにせよ、ダイバーがダイバーらしく深海潜水をしたSF映画として、ぜひ、見てほしい。
そして毎週行われている科学セミナーを聴講していて、プロのダイバーが、肺の中に液体を満たして呼吸する実験に参加したという話を聞き、液体呼吸でアビスに潜っていくという短編小説を書いた。それが原案ともいえて、映画でもクライマックスは、液体呼吸でアビスに降りて行く。
ヘルメットの中は特殊な液体で満たされ、それを肺に吸い込む。
液体呼吸は、犬の実験に成功したというところまでは発表されているが、人体での実験は行われたのだろうか?今ではその話はきかなくなっている。
液体呼吸の実験を人間が行って実用になる。それがとんでもないことだと思うようになって、人間の、1970年代の人間、つまりダイバーによる海洋開発の夢は消えた。 海洋開発、イコール人体実験だから。
海洋開発は人の手で行われるのではなく、機器、ロボットや潜水艇でおこなわれるべきものになり、1998年、日本でも海洋開発技術センターから、人体による潜水技術の開発という項目は消滅した。
自分の身に置き換えて、肺に水を満たされる液体呼吸の実験に参加するだろうか、できるだろうか?
微妙だけれど、命をかけるだけの夢がそこにはあった。
潜水艇のぶつかり合い。
ダイバーに取って代わる潜水艇もアビスでは活躍する。潜水艇どうしのぶつかり合いの格闘もある。1台は普通の潜水艇、1台は、フラットヘッドとよび、ダイバーは、トラックの荷台のような、ところに乗っていく。
この映画を、キャメロンは、海(実海域)で水中撮影をするつもりは全くなかったという。セットで撮影するためには、巨大なプールが必要である。
浄化も保温も必要である。世界中を探して、サウスキャロライナの未完の原子力発電所の貯水プールを使うことができた。直径61m深さ17mある。
潜水艇も実寸で2台作った。先に述べたヘルメットも呼吸装置も新たにつくった。どんな呼吸装置か?リブリーザーの類のようだ。セミクローズかもしれない。映画では、ラフな使い方をしている。
もうひとつ、注目したのは通信装置である。
1990年頃の映画で、ありふれた、例によってというようなストーリーだが、核弾頭がでてくる。この映画では大抵の場合ヒーローになるSEALS(特殊部隊)の隊長が、この映画では悪役だ。海猿が悪役になったようなものだ。
高圧神経症候群になって、自分を失い、アビスに棲む知的生命体を敵だと決めつけて、絶滅させるべく、時限装置をセットして核弾頭を沈めてしまう。これは人間の手でなければ解除できない。ヒローのダイバー作業主任が液体呼吸で、生身の体で5000mに単独潜降する。そのときの通信装置である。
光ファイバー通信機で何ミクロンという細さで、コーヒーカップほどの容器にはいるファイバーをのばして、5000mの有線通信をしてしまう。
ニュース・ステーションで有線通話でのレポートをやり、有線通話のケーブルを使うケーブルダイビングシステムを進めていた僕には、これこそが、ダイビングの未来の通信装置の姿だと思えたものだ。
人類の、ダイバーの夢であった海底居住、ダイバーではなくて海底人(アクアノート)になるという夢は、1964年、クストーの「太陽のとどかぬ世界」から始まり、1989年の「アビス」で終わった。
太陽の届かぬ世界はドキュメンタリーであり、アビスは絵空事、SFである。 1000mを越してダイバーが潜水することは、1989年の世界でも、すでに実現不可能なSFであった。
アビスに潜む、知的生命体は、エイリアンで一躍世界に認められたジェームス・キャメロンの世界である。素直に面白がるほかないのだが、エイリアンもゴジラも世界を破壊する悪役だが、ここでは、神に匹敵するものを作り上げた。もしも、こんな神がいるものならば、福島第一の事故は?と思ってしまう。
技術的には、アルゴンを混入するテトラミクスは、調べた限りでは存在しないし、あり得ないとも思うが、1989年の時点で、ヘリウム酸素ではしゃべれないので、微量のアルゴンを混入した実験があったのかもしれない。と思ってしまう。60歳の100m潜水で、アルゴンをドライスーツの中に注入して保温を強化したのだが、そのとき、総指揮の石黒さんに、アルゴンは猛毒であると聞いた記憶がある。彼の著書「ダイビング・テクノロジー}を調べても、その記述はないし、空気にはかなり含まれている不活性ガスだから、そのものが猛毒ということはないだろう。
映画に使われているヘルメットとドライスーツは、どこの商品だろう。さらなる昔、東亜潜水器で海底二万リーグのヘルメットを作ったように、どこかのメーカーが特別に作ったものだろうか。潜水器もCRのように見えるが、メイキングのムックには、そのような記述はない。なお、通話器と潜水器について、メイキングのムックには、とても引用しきれないほど長文の記述があるが、このあたりの記述は、訳者に深海潜水の知識は無いと思われるので、信用出来がたい。
また、ヒロインのメアリイ・エリザベス・マストランニオ(好きな女優さんだが)を一旦溺水させて、また蘇生させるシーンがあるが、このとき、肺に水を吸い込ませるという記述がある。これもとんでもない話で、吸い込ませないようにして曳行しなければいけない。どうも、キャメロンは、生理学をいい加減に扱っているようだ。なぜだろう。この分野の良いアドバイザーがアメリカに居ないとは思えないのだが。もしかしたら、やはり訳文の問題か?
何れにせよ、ダイバーがダイバーらしく深海潜水をしたSF映画として、ぜひ、見てほしい。