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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0424 マスク式潜水機ー4

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 第二次世界大戦前、僕が生まれた1935年ごろまでの日本の潜水は世界一だった。安全性とか潜水医学で世界一だったわけではない。その実績、潜水深度、潜水病などを恐れない果敢さにおいて世界一だった。そして、大串式などデマンド機構を備えたマスク式の潜水具においても世界一だった。
 しかし、1935年ごろ、広く使われていたマスク式は、大串式ではなく、その改良型ともいうべき、山本式だった。
 大串式、そして、この山本式については、2011年の9月6日、7日にこのブログに書いているが、これを省略してしまうと、マスク式潜水機、デマンド型バルブ付きのフルフェースマスクの全貌が書けないので、あえて再び書くことにする。興味のある方は、2011年9月6日、7日も参照してほしい。

大串式、山本式は、沈没船の引き揚げだけではなく、水産業のため、定置網の潜水調査、網の修理にも使われた。定置網の潜水調査を自らも行い、指導したのはやはり水産講習所の卒業生である三浦定乃助と山下弥三左衛門であった。山下氏は、定置網漁業も自営していて、自ら潜水して、水中で見る定置網が隙間だらけで、魚がどんどん逃げているのを見て、低智網とけなして、潜水による低地網の調査と補修ができるように、定置網潜水士を養成することを提唱した。しかし、定置網の潜水では、水深50mを越えて潜水することが日常であり、1935年、に三浦定之助が書いた「潜水の友」 日本潜水株式会社  によれば、三浦先輩の仲間の10人に2人潜水病で命を落とし、ほとんどのダイバーは潜水病にかかっている。
 この本を発行した日本潜水株式会社が、山本式マスク式潜水器のメーカーであった。「潜水の友」は、その山本式マスクの販促のために書かれたものである。大串式マスクばかりが知られているが、山本式の方がたくさん使われているが、山本式のことを知る人は少ない。歯で噛んでバルブを開閉するというところは、大串式と同じである。だったら、大串式の真似だとも言えるが、山本式を考案した、山本虎之助船長は、自分で長い間苦労して到達したものだと、山本式の販促の本、「潜水の友」で、三浦定之助は書いてある。山本
式が大串式にとって代わった理由は、使いやすかったからだと思う。原理は同じでも、ダイバーは使いやすい方を選ぶ。多分、歯で噛む力が山本式の方が軽く、歯が痛まなかったのではないだろうか。

 
山本式マスクを手にする三浦定之助、大串式よりも進んでいるように見える。開閉弁は、マスクの横側にあり、歯で噛んで梃子を動かして、弁を開閉する。

※ 潜水の友 三浦定之助 日本潜水株式会社 1935

第二次世界大戦が終わって、僕が潜水を始めた、1956年、アクアラング潜水機が水産にも使われ始めたころ、もはや、大串式も山本式も潜水に使っている姿は見られなかった。
東亜潜水機に入社したころ、倉庫に山本式がまだ一台のこっていた。どこかから注文があり送ってしまった。そのころ僕は潜水の歴史にも、古いマスク式にも全く関心がなかった。今振り返れば残念である。
 旭式マスクは、そのメーカーに、一年後輩の遠藤徹が就職して、しばらくはこのマスクの販売を担当していた。東亜潜水機は、マスク式潜水機を持たず、販売もしていなかったが、旭式は学生時代に実習で使ったこともあるので、身近であった。遠藤さんは、やがて郷里の福岡にもどり、ウエットスーツメーカーの福岡潜水を興して成功している。
 茨城県ひたちなか市にある茨城県立海洋高校には、立派な潜水訓練用のプールがあり、旭式マスクも、金王式マスクも、使用可能な状態で置かれている。
 10年ほど前、まだその頃は存在した旭潜研から、手押しポンプを借りてきて、茨木海洋高校のプールで、水深10mに旭式マスクで潜水してみた。フィンを履いて泳いで潜ったのだが、10mならば、まったく苦しいことは無く、快適だった。
 このブログにも書いたのだが、数週間前、沖縄の船具サービス兼、ダイビングショップの方から、旭式マスクのことを問い合わせて来た。まだ、沖縄ではこのマスクを使って漁をしたりモズクの栽培をしている漁師さんがいる。このマスクがほしいのだが、もう、メーカーは名前を変えてしまっており、製造も中止しているし、部品もないという。
 今ならば、すでにデマンドバルブ付きのフルフェースに替えたらと話したが、デマンドがどうしても苦しくて嫌なのだという。多分、コンプレッサーの能力が低いのだと思うが、それを言っても仕方が無い。漁業者は、自分の手慣れた道具でなければと、新しい道具を嫌う。
東亜を紹介したけれど、どうなっただろうか。

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