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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1123 人生80年

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 人生、80年が普通になった。自分にとっては来年の、すぐ前に来ていることで、これまでの時代の記念行事はまず60歳で、赤いものを着せられたりした。僕も赤いドライスーツで、100mに潜ったが、すでに20年の昔。今、月刊ダイバーに連載させてもらっているグラフィティの最後は、この60歳の100m潜水にしようとしている。20年前、60歳はすでにグラフィティの彼方だ。グラフィティと言うのは、日記に書くような日々の闘いの報告ではなくて、時のフィルターを通して、残されてきた、美化された記憶のことなのだ。20年前と、今ではダイビングの様相が変わってきている。そのことがグラフィティの主題になる。もちろん、美化されているから、今のダイビングよりも、20年前の方がずっといい。

 グラフィティは、置いておき、高齢化とは、自分の肉体、フィジカル能力、生理的な不都合、病気との闘いである。良く、ダイビングサイトに行くと、免責同意書というのを書かされる。60歳までは、免責同意書を書かせる側に立った気持だった。曰く、健康でなければダイビングはできません。妥協しても、お勧めできませんと言う側だったが、60歳を過ぎると書かされる、と言う気分になる。高血圧、腎臓の病気、喘息のある人はダイビングをご遠慮くださいと書いてある。高齢者のほとんどはご遠慮しなくてはならない。僕は、ご遠慮したくないから、異常ありませんと申告する。書いておけば良いのであって、その結果、腎臓のために水中で亡くなったら、解剖して腎臓に障害が見つかった時は、免責になる。そういうものだと理解している。困るのは、身体の調子の悪い方は申告してくださいと書いてあるが、これも、ほとんど毎日申告しなければならない。日記を見ると、すでに50歳のころから、毎日調子が悪い。僕は、潜れば調子が良くなる。三日もダイビングが続けば本当に快調になる。しかし、これは、高校ではバスケ、大学ではダイビングで、死ぬほど体を痛めつけた遺産であり、僕と言う個体の一時的な状況であり、普遍的なことではない。これは、困ったことに、もしもの死後に解剖してもオートプシーイメージングをしても、体調不良はわからない。だから、思い切って、60歳以上の潜水は、完全自己責任、免責書など書かなくても免責としてしまった方が良いとおもっている。60歳は免責になるお祝いで、これからは勝手に死ねると、喜べばいい。一方で、いま、シンポジウムで論じる、大学生のダイビングでは決して自己責任ではないから、注意するように。
 80歳、世間では傘寿と言うが、一つもめでたくなどない。高齢化社会が、日本の、そしてもちろん自分の、自分については最大の課題。どうすることもできない、避けることのできない課題である。中国との戦争は避けることも可能だし、避けなければ、高齢化などと言っていられなくなるが、避けられない高齢化、自分と言う個体にとっては、死、すなわち無につながる。悟りきれないし、悟るわけにもゆかないので、80歳を記念して、80mに潜ろうという企画をたてた。なんどか口に出したり、書いたりしているうちに、週刊朝日で取り上げてくれて、今度は朝日新聞の天声人語に出てきた。また、落日に間に合うように疾走する。今度のシンポジウムは、疾走の結果だ。みなさん、須賀だけが端ってはいけないというが、歩いては落日に間に合わないのだ。

 これからは、ダイバーの皆さん、80歳になったら、だれでも80mに潜るようになれば良いのかな。もちろん、60歳以上だから、死んでも良いとか、死ぬことは奨励できないが、避けられないのだから仕方がないことなのだ。
 死ぬことについては、感覚を研ぎ澄ませていれば、生理的にわかると僕は信じている。これまで大丈夫だったからこれからも大丈夫と思うのは、「正常化の偏見」とか言って、事故の原因にされているが、この偏見が無かったら、これまで生きて来られなかっただろう。
昔は、五万、十万のカメラの損害等、物の数ではなかったなどとえばったりしているが、毎月600万の売り上げがないと月を越せなかった。年間、数百万の赤字になる。3年に一度はドカーンという仕事があるから大丈夫、これが正常化の偏見で、これを頼りに資金繰りをする、時々、ドカーンと借り入れをする。これも正常化の偏見がなければ、借り入れなどできない。銀行の方もこれまでの実績[偏見の記録]を調べてお金を貸したりしてくれる。すべて人生、正常化の偏見で成立している。

 だから、フリッパーレースに出るなどと言っている。主治医の河合先生は正常化の偏見など頼ることができないから、困惑している。しかし、60歳過ぎたら何でも自己責任という事を、十分に理解しているドクターだ。良く、免責赤同意書とともに、医師の健康診断を添付などと書いてあることがある。河合先生に言わせれば、正気の医師だったら、ダイビングして良いことの健康診断など、書けないという。あなたは、これこれの障害がありますから、注意してくださいね、と言うのが診断書であり、それなら書いてもらえるだろう。
 僕の60歳の時の100m潜水は、健康診断書で、ダメだと言われたこととの闘いだった。正気の医師ならばダメだと書く。そして、あれから20年、60歳はもはやグラフィティの世界だ。
 


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