人工魚礁を撮影記録するサークルを立ち上げようとして、そのテスト的なダイビングを千葉県館山、内房で計画した。2月には、海が時化てだめ、3月2日、二回目のトライにでかけた。
JAUSでは、ダイビング活動を実施展開する研究会をつくろうということで、その第一弾として、ウエアラブルカメラ研究会を2013年春に活動を開始して、9月8日のフォーラム、そして先ごろ2月2日のシンポジウムで活動結果の作品発表会を開催して、好評をいただいている。
まず、最初は、2012年12月のシンポジウムで、ウエアラブルカメラについて発表した。レクリエーションダイビングでは安全管理をおこなうインストラクターは指導の結果をチェックするために、ガイドダイバーは、水中での動きを全部記録しておくことにより安全につなげることができる。リサーチダイビングでは、リサーチとはすなわち記録、記録と言えば撮影、水中でのリサーチにはウエアラブルカメラが最適、と提案したのだが、次第にそのようになり、どこの海でもダイバーはウエアラブルカメラを持っているようになりつつある。もちろんJAUSメンバーのダイバーの多くはこれを手にしてダイビングしているし、また、するようになるだろう。
今度の人工魚礁は、まだ研究会の前の段階であるサークルで、先のウエアラブルカメラに比すると、2012年12月のシンポジウムでの、ウエアラブルカメラ発表の前段階のようなもので、2014年秋のシンポジウムで発表して、2015年に研究会が発足できるかどうかという試みである。3月中にはその概要をホームページに発表する。サークルの段階では、JAUS会員でなくても参加できる。
ただ、本当に自己責任になるので、原則として、公知された指導組織のインストラクター、もしくはVカード保持者、または、ダイビング経験20年以上として、それ以外の方の場合は、インストラクター、あるいはガイドダイバーと密着した1:1のバディで活動してもらう。
ここまでは公式ホームページに載せる発表の下書きだが。
さて、3月2日、2回目のトライ。ここからは、須賀の日記風になる。
4日前の波浪予報では、凪が予想できた。しかし、2日前になるとだいぶ怪しくなってきた。しかし、房総半島の内側だから、大丈夫かもしれない。前日の3月1日土曜日になると、だめだろうなあ、という気配になってきた。
しかし、僕は、11月中旬に式根島に行って以来、毎月のお台場と、プール練習に明け暮れるだけで、本物の海に行っていない。波浪があった場合の逃げとして、波佐間海中公園に行こうと考えた。ここにも3年以上ご無沙汰している。波佐間は、目的としている塩見よりもバス停にして二つ先になる。
朝、5時に起きて、6時集合、僕は石川さんの車に乗せてもらう。後二人のメンバー山本さんと小俣さんはそれぞれ、自分の車で館山道を下って行き、途中、携帯での連絡を行いながら、館山での待ち合わせとしている。6時少し前に塩見の組合長に連絡を入れる。「今は風は吹いていないようだね」車で走る。習志野あたりまで来たとき、組合長から電話が入り、悪いようだという。予定通り?波佐間だな。波佐間のオーナーである荒川さんに電話を入れる。荒川さんとは約50年の付き合いで、そのエピソードを書き連ねれば、月刊ダイバーの(終わってしまったが)連載、一回分ぐらいになる。
ダメでも、とにかく塩見の港まで行ってみよう。海を自分の目で見ないといけない。
塩見では、いつも舟を出してくれる佐野さんが待っていてくれたが、海を見ると、やはり波が1.5m-2mだ。リサーチは、たくさんの道具(カメラ)を持ち込む用意をしている。本当の凪でないと良い結果が期待できない。
予定していた魚礁(小さい)
一つだけ良いことがあった。実は、今回目指している魚礁は、それほど、面白くは無い。水深が7-8mと浅いこともあって、そして、2013年の6月に調査をしているので、その補足的な意味もあるので選んで調査しようとしている。本当に行ってみたいのは少し沖に出た、水深20-30m線にある1.5立方の魚礁群である。
港に組合長が出て来てくれたので、今度来たときには沖も潜らせてくれと頼むと、それだけではなくて、そのさらに沖に新しく沈設した大型の魚礁を見てくれという。実は、僕はこの新しい魚礁についての情報を持っていなかった。この沿岸にもしかしたら魚礁の大きなプロジェクトとしては、東京近辺では最後になるのではないかと思える計画については知っていたが、その詳細、しかも塩見の沖に沈設が行われたことを知らなかった。まだ誰もその写真を撮ったことは無いという。そういう魚礁を見ることが、JAUSのこの人工魚礁サークルから研究会への目標の一つである。
これは、波佐間の隣の浜田沖にある魚礁
東京湾の入り口内房の館山、沖ノ島から洲崎にかけての大魚礁群は、この沿岸に並んでいる定置網の漁獲増大を目指して置かれたもので、このようなプロジェクトとして最後のものだろうと思う。スガ・マリンメカニックで僕が本格的に魚礁に取り組んでいる時でも、魚礁の調査予算は少なかった。沈設した時に、設計通りになっているかどうかを調査するが、その後、魚礁の状況を調査するということは無い。予算がつかない。要するに漁獲が増えれば良いわけで、魚礁がどうなっているか魚がどういう具合になっているかは、問わない。調べられれば調べた方がいいが、潜水調査の費用は小さくないから、その調査に見合う成果はない。調査したからと言って漁獲が増えるわけのものではない。しかし、どうなっているかも調べずに、莫大な金額を海に置き去りにしている。僕たちがその調査の簡略なフォーマットを作れるならば、有意義だと思う。
とにかく塩見では潜れない。予想通りで波佐間の荒川さんのところに行き着いた。そこでまた、この魚礁群の話をした。この沿岸で唯一工事作業ダイバーの経験がながく、さらに定置網の調査の経験も長く、70-80は、空気で普通にもぐっている荒川さんである。この魚礁群の情報も詳しい。図面をもらって、今後の協力も得る話もできる。波佐間は岸から沖に向かって魚礁群がのびている。まず、この地域でフォーマットが作れれば、それを発表して、他の部落の魚礁に展開して行けば良い。しかし、僕に残された時間はほんのわずか、フォーマット作りの準備ぐらいで終わってしまうかもしれない。海は生きている時化も凪も流れもある。こちらの予定には合わせてくれない。
冬だし、寒い。お客は僕たちの他にワングループ、女性2名、男性2名で、これは大きなボートでスタッフの萩原君がガイドする。僕たちの方は荒川さん自らが、小さい方のボートを出してくれる。小さいと言っても、塩見のボートに比べれば全然大きいし、フラットだから使いやすい。
僕と石川さんは、同じ、スポンジのドライスーツ、僕のウエイトはジャケットタイプの7キロ、そして、ウエイトベルトとして3キロ、レッグ、足に巻くウエイトが1.7キロ、合計で11.7キロになる。深さは25mが底だから、重すぎる。しかし、この頃は水深3mで安全停止しなければいけない。水深3mで浮いてしまわないようにというと、お台場と同じウエイト設定になる。底ではBCに空気を入れる。タンクは12リットルと10リットルだが、僕は10リットルにした。他の三人は12リットルだ。僕に合わせるのでは申し訳ないが、僕の空気量に合わせてもらう。
潜水地点は、平成10年に沈設した2m角のブロック165個を、荒川さんがきれいに三段に積み重ねたもので、ドリーム魚礁とネーミングされている波佐間で最も人気のなってお金を稼いでいる。荒川さんのところに来る、僕たちのようなお客ダイバーは、ひとりについて、いくらと漁協にお金を収めている。
波高は1.5-2m 2mになると小さいボートは、向い波では、頭から水をかぶる。ウエイトを付けてタンクを背負うと、今の僕のフィジカルでは、ボートの上では身動きできない。荒川さんは、たしか69か、70だ。ウエットスーツで船外機ボートを操船し、ドリームの上の係留索にもやいをとる。僕らを入れてから、素早くウエイトを付けタンクを背負って飛び込んでくる。僕は、多分、65歳で癌をやるまでは、彼と同じぐらいの動きが楽にできたと思う。70歳では彼のようにはできなかったと思う。しかし、荒川さんも、4-5日潜らないと体が鈍るという。船縁の椅子に腰を掛けているのだが、身動きできない、そのままバックエントリーするのが普通だが、僕は一回舟底に四つん這いになりそのまま這って、サイドロールで入る。しばらくぶりの海だから、BCの空気を抜いて、ドライスーツの空気を抜き、ロープまで泳いで行くのが、少ししんどい。ロープにたどり着いて、BCの空気を抜いて、足から入って行くドリーム魚礁の上の面は、18mぐらいだろう。
ポールカメラが僕たちの人工魚礁調査の武器になる。
透視度は8mぐらいで、この魚礁の美しいソフトコーラルが美しく見えることは無い。
波佐間の売り物は、コブダイだ。金槌でトントンと魚礁を叩くと、餌をもらえると思って出てくる。魚礁の上にビニール篭に入れてあるサザエを金槌で叩き壊して、餌にする。
ダイブコンピューターによれば、最大水深は23m、海底に着地はしなかった。0950-1025まで潜水時間は35分、水温は13.2度。ここは減圧停止用のとまりぎがある。2分ほど止まって浮上した。石川さんを先に上げて、僕は3番目に梯子に掴まった、かなり揺れている。梯子を膝で上がって、後一段で身動きが出来ない足を梯子にかけて登れないのだ。この前11月の式根島では上がれたのに、梯子に掴まったままタンクを外して、石川さんにあげてもらって、ウエイトを外し、空身になってやっと上がった。
この動きで僕は完全に消耗してしまった。岸に上がって道具を上げて、これで今日のダイビングは終わりにしようとおもってしまった。もう目標の魚礁も見たことだし、しかし、ストーブで暖まってやすんでいるうちに回復して、問題なく二回目の潜水をしようとしていた、仲間と一緒に潜る気持ちになった。僕だけが無理をしないで、ダイビングをお休みするなどという事はこれまで無かった。
2回目を潜らなかったら、完全に僕は矜持を失うだろう。
続く