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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1019 システム潜水

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  さて、システム潜水とはなにか?僕が尊敬するとともに年賀状の交換をかかしていない池田知純氏の「潜水の世界」「潜水医学入門」の索引を眺めても載っていない。これらの本が書かれた2002年には、潜水の世界でも一般的な用語ではなく、定義も無かったのだろうか。しかし、それより前、1996年の僕の60歳を区切りとする100m潜水では、「システム管理による潜水」という言葉を使っている。これは、この時、テクニカルダイビングをやろうとしていた僕にたいして、これはシステム潜水だと指摘されたからで、これもまた、この100m潜水の総指揮をやってくれて、ヘリウムガスを都合してくれた石黒信雄氏の、書いた「ダイビング・テクノロジー」2006年 で、システム潜水という項目で述べている。
「紀元前332年、マケドニアのアレキサンダー大王が潜水箱(ダイビングベル)を用いて潜行した。これが人類最初のシステム潜水だと言われている。」
要するに、ダイバーがカプセルに入って潜水して行う潜水で、SDC(サブマーシブル、水中に沈めるデコンプレッションチャンバー)とDDC(デッキデコンプレッションチャンバー)などの大規模システムを使ってダイバーの生命維持をする潜水という意味である。飽和潜水はすべてシステム潜水である。
  
  1996年僕の60歳、100m潜水、非飽和の混合ガス潜水、スクーバと送気式のハイブリッドであった。

 とにかく、その100m潜水で「これはシステム潜水だ。」と言われたことから、水面に生命維持の責任を少なからず負わせる潜水、デッキにチャンバーを置いて、船上で減圧する潜水を、システム潜水と呼ぶと解釈した。
深く潜る場合、自分の持つ呼吸ガスだけで減圧管理もおこない、自分の責任だけで潜るスクーバのテクニカル潜水、船上で減圧するシステム潜水とわけるとわかりやすい。
すべての事象は、まず実行があってそれが定義される。定義が明確であると、相互理解が進み、物事がうまくできる。
40m以上に潜る場合、レクリエーショナルダイビングは別として、何らかの業務を行う場合には、スクーバであっても、システム潜水、すなわち船上での減圧で行うべきであろう。そして、できるならばサーフェスサプライ[送気ホースによる呼吸]を併用することが望ましい。これは、テクニカルとシステムのハイブリッドと考える。
技能、技術の進歩は、二つ以上の定義の組み合わせも重要な方向であり、これがハイブリッドであり、ハイブリッドが定着して、広く行われるようになれば、新たな定義と呼称が生まれる。
ところで問題なのだが、ハイブリッドはたくさん生まれる。その一つずつに名前が付けられると、とめどが無くなる。そこでまた大きななまえでくくる。そんな経過をたどって混乱するのだが、果ても無く錯綜するから、言葉の定義をしながら、その事象についての説明をして行く他は無い。その定義が広く通用するようになるかどうかはわからないが、少なくとも、その場その場では理解してもらえる。現代社会で技術のことを述べる時には、前置きとして、使う言葉の説明、すなわち簡単な定義をしておかなくては理解がすすまない。つまり用語の説明、定義から入る。講演を聞いていてよくわからないことが多いのは、  言葉の説明、理解がないからで、印刷物は、脚注を入れられるから理解できやすい。

システム潜水という言葉の定義は、チャンバーを沈める、飽和潜水システムに源があるが、船上で再圧チャンバーで減圧するところまで範囲に入れるとすると、1980年に僕は釜石湾港防波堤の工事の基礎調査で、ヘリウム酸素の混合気体を全面マスク式に送気して、減圧は船上の副室のある、今の定義で言えば第二種のタンクを使用して、潜水したのだから、システム潜水をやったことになる。

    1980年、釜石での非飽和混合ガス潜水、手前にガスカードルが見える。


当時はシステム潜水などという言葉は使わなかったのだが、あとから考えればシステム潜水にまちがいない。このタイプの本格的な混合ガス潜水は、アジア海洋作業がダムの工事で行った例が本格的だったが、それに匹敵する作業だった。JAMSTEC、当時は海洋科学技術センターと技術的なタイアップもして、その後JAUSを作ってからのJAMSTEC訓練プールでのプライマリーコースでお世話になった米倉君がこの釜石に参加してくれた。彼が居たからこそJAMSTECでのプライマリーコースができた。今は定年退職されて、科学未来館のボランティアをつとめている。
1980年からの工事開始で、2009年3月に完成だから、およそ30年の年月がかかった。僕たちは63mの海底に投石してその足場を固める工事の調査だけだからおよそ1年足らずだが、僕たちのお世話をしてくれた工事会社の人たちは、ほとんどが定年退職したあとで完成した勘定になる。海底からの立ち上がりは60だからギネスにも乗ったが、63mから海底部分は巨大だが、水面に出ている部分は5m強の堤防だ。今度の津波では、浸水を6分遅らせ、ⅰ3mの高さを7-9mに低減したと言われるが、釜石の町は壊滅した。6分の遅延が何人の人の命を救ったのだろうか。1200億円の工費と30年、ずいぶんたくさんの人がこの工事で生活できたのだから、そして少なくとも数百人の命は救ったはずだから、失敗とは断じられないが、今度はもっと大きいとすると、水面の高さが13m以上の防波堤をつくろうとすると40年の工事期間が必要だろう。人は物を作って生活している蟻のようなものだから、賛成も反対もない。人間の業であり、本能だろう。また、今度もシステム潜水によって、破壊されたケーソンを引き上げてからでなければ、ケーソンが据えられない。工事会社は儲かるだろうな。あのままシステム潜水工事の会社になればとか思う。

だいぶ脱線してしまったが、元に戻って、船上で再圧室に入って潜水するか、水中にSDC(サブマーシブル チャンバー)を沈めるかということの差は大きい。このチャンバーを沈める潜水を、バウンス潜水と呼ぶこともあるが、バウンス潜水の定義は?とこれも複雑になる(よくわからない)ので、ここではふれない。潜水士の規則を改正することの主唱者である真野先生と、最新ダイビング用語事典の監修のお願い、打ち合わせをしていた時、プロは40m以上潜水するばあいにはこのSDCを使わなければいけないように提案しているとお話しされた。「ちょっと待ってください。」そんなことをしたら、すべて、プロの潜水はSDCとそれを吊りおろし吊り上げるクレーンを持ち、船上には、SDCとドッキングするチャンバーを持たなければできなくなってしまう。せめて、船上減圧に留めて、ほしいとお話しした。結果はどうなるかわからないが、システム潜水という言葉をなるべく幅広く広げておく必要があると思った。

 なお、この議論を進めている途中で、気づいたのだが、潜水士の規則、高気圧作業安全衛生規則について、レクリエーショナルダイビングのインストラクターが驚くほどその仕組みを知らないことに気付いた。議論がかみ合わない。この規則は、インストラクターが教える生徒の安全とは直接に関係は無い。自分、インストラクター自身の安全、労働環境の好適、維持のための規則である。生徒と先生(インストラクター)が別のルールで行動するというとんでもない話なのだが、このことが公に問題にされたことは今までにない。これは、レクリエーショナルダイビング業界と日本政府、厚生労働省との驚くべき断絶に起因している。そんなことを言い出すとまたまたシステム潜水から脱線するが、これは重大テーマである。たとえばテクニカルダイビングは、この規則の範疇の外にあるから、レクリエーショナルダイビングとしてだけ成立することなのだが、そのインストラクターは業務として、テクニカルダイビングの指導をしたとする。これは規則違反であり、厳密にいうと、この状態でインストラクターが減圧症を含めて事故を起こしたとする。労災が適用されるときに問題になる。たいていの場合は医師がなんとかうまくやってくれるだろうが、規則としては違反になる。
 先にのべたように、40m以上は、SDCはともかく、船上減圧のチャンバーを持っていなければならないということになると、どこかの従業員(労働者)になっているダイバーの40m以上の潜水は、もちろんテクニカルダイビングを含めて違反になる。
 そして、減圧症についての安全をいうならば、船上減圧のチャンバーを持っていることが正しい。水深40m以上で危急のために急浮上した際の減圧症、はレクリエーショナルダイビングの不定愁訴のような減圧症とは比べ物にならない。わるければ車いすの生涯、上手くいってつらいリハビリが待っている。

 脱線の枝葉が多く、まとまらないけれど、書き直す時間もないので、ご容赦。

 

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