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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1013 NHK カメラマン(南方さん)

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ここに、「NHK潜水撮影の半世紀」という手作りの冊子がある。NHK水中カメラマンの小口順吾氏が平成13年(2001)にまとめたものだ。
大事に本棚のいつでも取り出せる位置におさまっている。取り出すことなど無く、今、これを書こうと取り出したところだが。ありがたいことに、僕の名前も後書きに「NHK潜水撮影班誕生に一方ならぬご支援をいただいた須賀次郎氏」と書いていただいている。1967年、日本潜水会の誕生に、河野祐一さん、竹内庸さん、に加わってもらい、こちらの方こそ一方ならぬ力になり、NHK水中撮影班はその中心になるメンバーは、日本潜水会の会員、指導員にならなければならない、ときめてもらった。
 今、河野さん、竹内さんとかいたが、「河野、竹内」と呼び捨てにするほど親しく、生涯の友達だ。最近会っていないけど。
 だから、1970年代のNHKのカメラマンのほとんどとは、いっしょの釜の飯を食った仲間になった。


 その日本潜水会を設立した頃、僕はプロのテレビカメラマンではなかったが、その後、僕も撮影を生活の糧にするカメラマンになり、なんとかがんばって彼らに対抗してきた。 たった一人の自分、相手は大組織、最後は力尽きてしまったが、水中にVTRを沈めたのは僕の方が先だったし、水中からの生中継も競り合った。
 友人としての彼らとの交流は、NHK水中撮影班外伝になるほどのものだ。中で仕事の上での雁行していたのは南方盈進さんだ。
 ここでは、南方さんのことを書くことにする、


 僕がをNHK仙台の制作の龍泉洞を撮影し、高視聴率をとった後、南方さんは、それに負けじと山口県の秋芳洞で新洞発見にくわわり撮影、放送した。龍泉洞が新洞を発見できなかったのにたいして新洞を発見している。
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 日本初のトライアスロンの撮影をしていた時、宮古島のホテルでばったり会った。二人で鍾乳洞の話をした。彼は僕の撮影を見て研究してくれたそうだ。


 浦賀の沖で、大型釣り船の第一富士丸が潜水艦と衝突して沈んだ。南方さんは現場に駆けつけて、水深56mに沈んでいる第一富士丸を撮影した。流れも無く穏やかな天候で上手く撮れていた。このNHK放送の直後、電話がかかってきた。テレビ朝日の報道からだ。
 すぐに現場に出動しろとの依頼、いや命令だった。ニュースステーションの水中レポートシリーズで世話になっているから仕方が無い。気が進まなかったがとるものもとりあえず、出かけた。
 南方さんが特ダネぬけがけ水中撮影をしたおかげで、民放各社、新聞社のカメラマン、及び、僕のように、縁のある局や新聞社から狩り出されたダイバーカメラマンが出張っている。もともと、海上保安庁は潜水を許可するつもりは無かった。そこに、まさかと言う形で南方さんは無許可で、撮影してしまった。
 南方さんは、バリバリの報道のエースカメラマンだった。おだやかな人だったが、鋭い。命を張るときにはためらわない。これは、本当の特ダネで、各社は抜かれた。保安部も、そうなると各社にも許可しないわけには行かない。


 僕たちに許可された時間は午後になってからである。午前中に現場に入り、テレビ朝日がチャーターしている船を見に行った。


 「嘘だろう」と言うような船がそこにあった。中型のタグボートだ。タグボート、すなわち曳き舟でエンジンの塊のような船だ。一般には、タグボートのいる水面にダイバーが接近するのは厳禁だ。そのタグボートから潜れという。
 ダイバーの心配は、潮に流されることだ。富士丸の沈んだ浦賀水道は潮が速い。小回りの効くボートで拾ってもらいたい。なんとかしてもっと小さい漁船をやとってくれるように頼んだ。急には間に合わないという。すぐに会社のゴムボートを持ってくるように連絡したが、これも届くのは夕方であり、午後には間に合わない。
 とにかく午後になり潜る時間が来た。第一富士丸が沈んでいる位置を示すブイが浮いている。
 各社の船が集まっているので、ブイの上に船を着けることはできない。ずいぶん離れたところから発進して泳いで行かなければならない。
このタグボートはシュナイダーの推進器だと言う。後ろにスクリューは無く、船の中心部に垂直に船底似付いているタービンのような回転軸が縦に回転する方式で、前後左右に自由に動くことができる最新式の推進器だ。ダイバーが水に入る時には、推進器を停止するのが絶対のルールだ。一つ間違えば、ダイバーはひき肉になってしまう。が、船長は推進器を止めるわけには行かないという。沢山の船が集まっているところでアンカーも入れずに推進器をとめれば、流れもあるし、たちまち衝突してしまう。それはそうだ。
 シュナイダーのペラに吸い込まれて、ミンチになる自分の身体を想像した。船長は大丈夫だという。普通のスクリューだったら危ないが、このシュナイダーならば大丈夫だ。人を吸い込んだりしない、撥ねだしてくれるという。嘘だろうとおもったが、信じるしかない。
 一緒に潜るアシスタントの田島雅彦は、スガマリンのスタッフの中で最も筋肉の強いダイバーだ。一緒に船から飛び込んだ。飛び込んだとたんに流された。2ノットはある。若いころだけど、全力で泳いで、止まっていられる状況だ。ちょっとでも泳ぐ力を弱めれば、流されて行ってしまう。とても目標のブイまでは泳げない。すぐに助けを求めた。救命浮環にロープをつけて投げてくれた。潜水するどころか、ブイに接近することすらむずかしかった。シュナイダーを廻して、船が近づいてきて揚げてもらった。なるほど、吸い込まれなかった。
 他の局はどうだろう。港で顔を合わせて雑談した中村征夫は漁船で出てきていた。船の小回りがきくからブイの傍まで行けるはずだ。潜れただろうか。見ていると全員バラバラに流されて拾うのに難儀をしている状況で、征夫も流されている。だれもブイにたどり着いていない。
 南方さんが潜ったときは潮止まりだった。海上保安庁は取材ダイバーを殺すつもりらしい。アンカーを入れないで何艘もの船が行き来している只中に、2ノットの流れの中にダイバーをばら撒くなんて。
 しかし、危ないから取材を禁じようとしているのに、強引に頼み込んでいる。文句は言えない。
 危ないからこれで終わり、と言うのは遊びの世界だ。プロは逃げ帰るわけには行かない。
 ゴムボートが夕方に届いた。夜陰に乗じてゴムボートで接近して潜ろう。どうせ、浦賀水道の透明度で、50mの海底は昼でも闇だろう。ライト無しでは潜れない。闇ならば昼間も夜も変わらない。9時に潜れば、10時から放送のニュースステーションには間に合う。
 潜る仕度をした。テレビ朝日の西村カメラマンが来ている。彼は潜水もする。田島は西村さんのアシスタントでサイパンの洞窟に潜ったこともある。こんなことに命を賭けるなんて馬鹿馬鹿しいと西村さんに引き止められた。
 第一富士丸は既に引き上げのワイヤロープが取り付けられている。明日は引き上げられてしまう。水中撮影はできない。明日、水面に姿を現すのだから、水中撮影する意味は全く無い。しかし、とにかく水中に船がある時に撮影しなければ、水中カメラマンの仕事としては失敗だ。
 テレビ朝日の報道と電話連絡をとった。「映像は欲しいが、無理をしないでくれ」という常識的な答えが返って来た。
 港には、スガ・マリンメカニックの元チーフダイバーであり、チーフカメラマンであった新井拓が居た。彼はオートバイライダーであり、片岡義男の小説に出てくるような、よく言えば自由な、悪く言えばでたらめな男だ。彼との付き合いで、小説が書ける。でたらめだったから、会社を辞めさせた後でも、ずっと仲良くしていた。
 彼は日本テレビのカメラマンとして来ていた。「骨は拾ってやるから、とにかく映像を撮って来い。と言われたから行くよ。」彼は夜陰に乗じて出て行った。


 さて、自分の方だが、早朝に勝負をかけることにした。ゴムボートを降ろし、田島とアシスタントを乗せて、ブイに向かわせる。自分は、タグボートに乗っていてゴムボートを降ろした後、タグボートは別の方向に向かう。フェイントをかけたつもりだ。鳥が自分の卵を守るために別の方向に逃げるようなものだ。こんな簡単な作戦に海上保安庁が引っかかるとは思えないが、無許可だから、とにかくやってみた。
 海保は、大目に見たのか無視してくれたが、吊り上げ準備をしたクレーン船の上には何人もの人がいる。ゴムボートが接近したら、注意されて追い払われる。
 最後まであきらめない。引き上げのクレーン船は深田サルベージの船だ。深田には後輩のダイバーが何人か居る。現場監督で来ているかもしれない。双眼鏡で覗いてみた。
 船上で指揮をとっているのは、大学の後輩の横尾君だ。横尾君は東京水産大学最強の男で、新制大学空手選手権の優勝者で、町で喧嘩を売られると、嬉しくて笑みがこぼれると言う奴だ。
 船舶電話で横尾さんを呼び出し、事情を説明し、10分間だけ目をつぶって潜らせてくれと頼んだ。
 ようやく富士丸の水中撮影ができた。直ちに映像信号を飛ばし、朝6時のニュースからこの映像が流れた。富士丸が水面上に姿を現したのは、次の日で、僕たちの撮影した水中映像はその日一日テレビ朝日のニュースで使われた。
 南方さんが富士丸のスクープをやらなければ、危険な目にあわなくても済んだのだが、負けなかった。夜陰に乗じて出港した4チャンネルでは、ついに水中の映像は流れなかった。自己防衛反応の強いプロダイバーである新井拓のことだから、骨を拾ってもらうようなことはしなかったのだろう。そのくせ、ギャラは僕たち以上に取ったにちがいない。
 撮影の日の夕方、空腹状態になり、その夜にも海に出るつもりだったので、水中撮影チームで、ラーメンと餃子を食べた。その請求書をテレビ朝日に廻したところ、ロケの弁当が出ているのに、それを食べないで外のラーメンを食べたのだから認められないと言われた。文句を言って認めてもらったけど。


 さらに年月が過ぎ、僕は大型の展示映像の撮影が主な仕事になっていた。葛西水族園の3D立体映像の企画コンペでは伊豆の海、サンゴ礁の海、そして知床の海を提案して3連勝した。網走流氷館のクリオネもとった。コンペでは、ほとんど連戦連勝していた。
 次に福島県小名浜の大型水族館の映像コンペがあった。テーマが決められていて、「親潮と黒潮」だった。僕はビクターからカメラマンとして立てられたのだが、同時に、イマジカの企画も僕をカメラマンとして立てていて、二つのところから、カメラマンの申請がでていると、苦情っぽいことを言われたが、無理に通してもらった。が、NHK関係のプロダクションに負けてしまった。これ以後は大型映像の仕事はなくなっている。
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   南極の南方さんと河野、南方さんに写真はこれしかない



 ケラマに内輪のお客様をつれてツアーに行った。ケラマに行くダイバーだったら誰でも知っている、港の出入り口の建物、円形階段を登った二階にある座間味食堂で昼食にヤキソバを食べていた。ここのヤキソバがとても好きだ。
 そこに南方さんが入ってきた。やあ久しぶり、椅子を移して、二人で向かい合って雑談した。彼は、僕がコンペで負けた親潮と黒潮の撮影に来ていたのだ。南方さんはNHKを停年退職し、NHK系列の子会社のプロダクションに移って、そこからカメラマンとして立っていたのだ。
 最後まで、私たちの企画とNHK関係の企画が残り、最終的に南方さんたちの企画に決まったのだが、こちらが勝っていたら、トカラ列島で黒潮を撮り、次第に北上して三陸沖を撮るつもりだった。南方さんのチームも同じような撮影だったのだろう。


 夏のケラマで南方さんと会い、そして秋、南方さんが亡くなったと知らせが入った。下田の先の神子元島で撮影中にダウンカレントに引き込まれたと言う。ダウンカレントとは、ダイバーが海に引きずりこまれる潮だ。要するに渦巻だ。鳴門の渦潮もダウンカレントといえるかも知れない。
 僕もテレビ朝日のネイチャリングスペシャルをトカラ列島で撮影していた時、引き込まれそうになった。自分の吐き出した気泡が下に向かい、そのままずっと深い下の岩の間に引き込まれて行くのを自分の眼で見た。
 ニュースステーションでは、与那国で潮美と一緒にハマーヘッドを追っていたダウンカレントに引き込まれたが、ケーブルで船と繋がっていたので、船を基点として、コンパスで円を描くように水面に押し上げられた。急浮上だから、減圧症化、空気塞栓になる危険はあったが、とにかくケーブルに救われた。


 南方さんは、潮に引き込まれ、潮から脱出して急浮上した。BCDも一杯に膨らませて、おそらくは肺の圧外傷で、即死状態だったと聞いた。それでも彼はカメラを手放してはいなかったそうだ。一緒に潜っていたガイドは行方不明になり遺体も上がらなかったと聞いた。


 
 通夜があり、NHKと僕らをつなぐ絆であり、NHKのカメラハウジングを作っている後藤道夫もそして、NHKのカメラマンも皆集まった。これからは、お通夜が日本潜水会の同窓会になるね、と話し合った。とても悲しいことなのだが、だれも悲しそうな顔をしてはいなかった。皆心のどこかでうらやましいと思っていたのだろうか、宿命だと思っていたのだろうか。浦賀の第一富士丸でさきを 越されたように、これも彼に先を越されてしまった。かっこよく死んだ、
 NHKの古いカメラマンの一人一人について、南方さんと同じくらいの交流と、思い出がある。みんな生命をかけて映像を追ってきた。口先だけでなく本当に命を張ってきた。競争相手なのだが、彼らと競っても、不愉快な思いをしたことがない。ダイバーとしては私が先輩だが、カメラマンとしては彼らのほうが先輩だし、残念ながら向こうの方が撮影は平均して上手だ。彼等は基本の撮影術を身につけているし、こちらは、適当に自分の感覚だけで撮って来た。それでもときどき、僕の映像を見て褒めてくれる電話をもらうことがあって、それは、とても嬉しかった。
 
 南方が亡くなったのは、福島の小名浜のアクアマリンの撮影、アクアマリンの開館が2000年だから、死んだのは、1999年か
 後藤道夫が亡くなった同窓会は2014年だった。



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