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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0403 ダイビンググラフィティ29 シーラカンス ①

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 グラフィティのタイトルで 60歳100mから、CCRの購入から講習、そして大瀬崎先端のハナダイを追って、窒素酔いジャンキーの話、そして、CCRを諦めたところまで書いた。
 その続きで、シーラカンスのことを書こう。


 シーラカンスは、世界で一番人気のある魚だろう。その仲間は、3億年前に地球上に多種棲息していて、両生類への進化の過程、その中間とも言われていている。そして、1.7mと巨大魚である。ちょうど、ダイバーにも釣り人にも人気があるモロコ、マハタと同じくらいのサイズだ。
 そして、さらに、水深80m以上の深みに棲んでいる。1938年に最初の1尾が釣り上げられた。その場所は、アフリカとマダカスカルの間のモザンビーク海峡の北部に点在するコモロ諸島近海であった。その後、インドネシアのメナドでも、インド洋でも発見されたとも聞いたが、コモロが最初であり、また、自分がかかわったのもコモロである。。
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 アマゾンで、シーラカンスと検索すると、ぬいぐるみが多数でてくる。
 水深80m以深に棲むことも、ダイバーが行けば行かれると思う限界の深度であり、命がけの深度である。とにかく、ダイバーであれば、死ぬまでに、シーラカンスの生きて泳いでいる姿を、目にしたい。水族館は、なんとか飼って見せたい。
 
 スガ・マリン・メカニックがシーラカンスに関わったのは1980年代で、釜石湾口防波堤工事、龍泉洞のNHK番組の水中撮影、そして沼沢沼水中トンネルの調査など、深い潜水、冒険的な潜水で、少しばかり、名前が売れたことによって話が来たのだとおもう。自分が考えた企画ではない。
 その1980年代は、原稿用紙ノートに記録とか企画とかを書き綴っていた時代だった。原稿用紙ノートなのでコピペで持ってくることができない。考えてみると、今これを書いているテキストライターは便利が良い。今の文体とはかなりちがうし考え方も全くちがうし、シーラカンスについての考え方もその頃と今ではちがう。だから自分としては面白くて、日記をできるだけ原型を残すことにする。
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 以下日記から
 1984年1月11日(日記)
 シーラカンス学術調査隊の最終ミーティング(AM1130~、三井アーバンホテルにて)
 1月18日より、2月25日まで田沼君が行く。私は、2月22日に成田を出発して、2月25日にコモロの空港で、田沼君と交代する。


 ※田沼君は当時スガ・マリン・メカニックのNO2で、僕がいつも、良いところどりをして、面白そうな仕事は、全部僕がやり、ルーティンの調査仕事を彼にまかせていたので、今度は彼にまず行かせてあげようと思った。田沼君は日大農獣医学部、水産の出身で綿密な調査作業の長けていて、しかも絶対に船酔いはしない。やがて、僕が70歳で引退の後に、かれが社長になる。
 大学卒業直後、たしか福井県の水族館に勤務してことがあり、魚の飼育方面の知識、実績もある。そのことも、このプロジェクトに出て行かせた理由の一つでもある。


 2月25日までに、シーラカンスが撮影されてしまえば、僕が行くことはないが、まず、そんなことはないだろう。


 まず、この調査探検隊の隊員、構成について、
 代表と呼ばれている。主催者は篠ノ井公平氏、映画プロデューサーで、本当にすごい人だ。
 しかし、私とはほぼ正反対の生き方をしている。まず秘密主義、絶対に一匹狼で仕事をしようとしている。


https://eiga.com/person/162637/
  篠ノ井公平 プロフィール
https://www.allcinema.net/cinema/142944
  篠ノ井公平制作 やくざ非情史 


 ※この最終打ち合わせまでに、数ヶ月、何回か会って、ここまでこぎ着けているのだが、その間の感想を書いている。
 私は、誰にでもフランクに、オープンにしているし、ある程度妥協しても人と仲良く仕事をしたい方だ。自分のそんなところを弱みと感じる時がないでも無いが、大自然を相手にするには、私の生き方のほうが良いとも思う。しかし、学術探検隊をここまで持ってきたのは、篠ノ井プロデューサーだ。
 篠ノ井さんの映画代表作は、愛奴、確か日活から配給されている。その他、ヤクザ非情史は、三部作、かなり当たった映画らしいけど、一本も見ていない。その頃1980年代は映画館に行かないと映画は見られなかった。残念、今からでも見たいが。


 カメラマンの掘田さんは、16mmシネカメラでドキュメンタリーを撮って来たベテランカメラマンで、太ってゆったり構えていて、人なつっこそうな人柄だ。
 隊長の鈴木直樹さん、慈恵医大の電子医療機器を専門にするドクターであるが、シーラカンスの解剖学的な分野とか、細胞、血液の謎を解き明かそうとしている。これは現地で新鮮な魚を手に入れないとできない。ダイビングは、出来る、と言う程度。現地では、全員、鈴木隊長の指揮下に入る。
 中日新聞、中日スポーツの長谷記者も同行する。もちろん、新聞で報告するためだが、学術調査隊という性格から、一者独占にはならないと、篠ノ井さんから念を押されているとか。
 学術代表は魚類学者として高名な末広恭雄  先生で、確か末広先生の娘さんの末広陽子さんも魚類学者で「ゴンベッサよ永遠に」というシーラカンスの本を書いている。末広先生の信用で、この調査隊の費用を集めたとか。
 対馬さん、この人が一番若い、英語が堪能で、通訳兼篠ノ井さんのアシスタント、撮影の手伝いもするというが、撮影のことはほとんどわかっていないみたいだ。
★★★★★
 私がコモロに行く2月25日時点で、田沼、鈴木隊長、掘田カメラマン、長谷記者は帰ってきて、篠ノ井さん、対馬さん、と私の三人だけとなり、なんとかして私が水中でシーラカンスの自然に泳いでいる姿を撮る。
 今回は生きているシーラカンスを日本に持ち帰るという計画で、大きな運搬槽を持って行く。水を入れないで、200キロある。水を入れてシーラカンスをいれれば、1トンを越える。こんなもので、生きたシーラカンスを飛行機で運べるとは思えないのだが、水槽設計者の田口さんの説明を聞いていると、もしかしたら、と言う気持ちになってきた。
 さて、今回のコモロ行きの目標だが
 ①シーラカンスの水中運動、生態の研究、すなわち、シーラカンスの生きて泳いでいる姿を水中で撮影する。 ②釣り上げられ生きているシーラカンスを保護して、日本に持ち帰る。
 ③冷凍されたシーラカンスでは、生理的な研究が出来ない部分があるので、現地で高鮮度なシーラカンスの細胞の研究をする。


 この方向で撮影プランを作って田沼君に渡した、以下、その下書きである。


 ①釣り上げられたシーラカンスが、生きている状態で岸に到着した場合。
 この場合が一番難しい状況になるでしょう。生きているシーラカンスの生け簀への収容、運搬に水産出身で、水族館勤務の経験もある田沼君がたよりにされている部分も大きいのですが、基本的にカメラによる記録も重要で、カメラマンであるという立場を重く考えてください。これは、篠ノ井さん、鈴木さんにも確認をとってください。
 シーラカンスが死んでも、田沼君の責任にはなりませんが、シーラカンスの世話に追われて、水中でのシーラカンスの姿の撮影が出来ていないと、こちらの責任になります。生きたシーラカンスが日本に到着する可能性は低いけれど、まだ、生きて泳いでいるシーラカンスが水中で撮れていないと、責任になります。生きて岸に着いたシーラカンスの水中での泳ぐ姿の映像は絶対に必要です。と言って、逃げられてもいけないし。
 ②夜間に釣りかけられている現場にカメラを持って到着した場合の判断も大変でしょう。
 生かして日本に持ち替えるためには、傷を付けたくないし、水中で釣リ揚げられるシーンもとりたい。
 逃がしてしまったら、元も子もない。
 代表と、鈴木隊長の指示に従うのでしょうが、この場合、生かして日本に持ち替えるということ、どだい無理な話だけど、とにかく、生かして岸に持ち帰ることでしょうが、最低限度の水中映像は抑えてください。シーラカンスの釣れるのは夜中、それも深夜らしい。
 夜の潜水です。危険でもあるし、忙しくもあり、じっくりと腰を落ち着けて撮ることは出来ないと思います。なるべく、寄り気味に、できるだけ長く、カットを切らずに廻してください。5分ぐらいのカットが一つ撮れれば良いところでしょう。そして、とにかくライトが当たっているように、水中からは、250Wのバッテリーライトで、また、舟の上からは、懐中電灯タイプを5本束ねたものを水中に手を突っ込んで、シーラカンスに向ける。二つのライトを使ってください。
 ※この学術調査隊は、第一次隊があって、書いた1984年が二次隊になるのだが、一次隊の時も田沼君が行っているのだが、自分では無いのでその記録が全くなく、二次隊は、日記が残っていたのでそれを書いているが、現地事情など、ここから先、書く内容は、田沼君の口頭の報告だけでなので一次と二次がミックスされている。


 ※印は、日記には書かれていないことを、2023年現在で、補足説明したもの。
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 ※一次隊が撮った写真を見せてもらっているのだが、シーラカンスは、釣りで獲られる。現地コモロ島の釣り舟は、縄文時代もかくや、と思わせるような手作りカヌーが使われている。立派な漁船がない。つまり、島嶼国家であるにもかかわらず、漁業が栄えていないことが、深みに棲むシーラカンスが長い間発見されなかった理由かもしれない。しかも、シーラカンスが釣れるのは深夜である。深夜に丸木舟で漁に出るのは危険である。もちろん、無線もなく、水深80mを超せば、アンカリングもできない。だから、シーラカンスはまれにしか釣られることもなく、天敵もいなかったのだろう。3億年、生き延びた。


 ③シーラカンスが死んでしまっている場合の釣り上げシーンの再現撮影。実はこの可能性が一番高いと同時に、これが一番安全、かつ成功の可能性が高いです

 安全な海面で、夕方薄暮時に水中ライトの光束が水の中で目立つようになる頃に撮影をはじめると良いと思います。
 カヌーからシーラカンスを吊して、波の動きにまかせて揺れていると、まるで生きているように見えるはずです。


~この後、ライティングについて注意を書いているが省略


 ④水深40mぐらいまで潜ってのシーラカンス生態の撮影。
 これは後から行く私のやりたい、やるテーマですが、チャンスがあれば、どんどんやってみてください。ロケハンという意味もあって、少なくとも2-3回はやってください。
 シーラカンスが釣り上げられている位置の近くで、
田沼君の場合は40m-50mぐらいまで、RNPLの減圧表で潜水してください。現地でのアシスタントの技能が頼りにならない場合には、40mどまりで、降下索を降ろして、命綱代わりにして潜水してください。
 ※まだ減圧計はない。
 シーラカンスのいる海底の本当の地形の撮影だけでも意味のあることです。
 なお、一回は鈴木隊長と一緒に潜水して彼の姿をとっておいてください。
  
 ※この後、機材とライト、ライティングの注意を細々と書いているが省略。
 ※ここから先は当時の日記では無いが、当時、自分が潜水して撮影プランについて、篠ノ井さんに要請されて、考え、説明していたこと。


 まず、シーラカンスが釣られている水深は、正確にはわからないが、80-100mあたりらしいときいている。
 80m-100mに機材も十分ではなく、頼りになるアシスタントもナシで、潜ることは、危険であり、常識的にはできない。
 60mが限界で、それも、なれない、潮流とか海況のわからないところで一人で潜るのは無謀に近い。それでも、あえてやってみようとおもった。釣りの餌に惹かれて、60mぐらいまでは上がってくるかもしれない。沖縄のソデイカ(烏賊)の撮影では、夜、100m以上の深さから、30mぐらいまであがってくる。これに賭けるしかない。
 なお、そのころすでに調査の道具として使っていた吊り降ろし式のテレビカメラを使いたいが、当時のカメラ、ライトはまだ大きく、水面、船上から電源を供給しなくてはならず、そのための発電機などを入れると、かなり大きくなり、現地のカヌーには乗らないと思われた。現地にも、日本の援助などで贈られた小型漁船があったが、すぐに壊れてしまって使える状態にないという。
 1970年~1980年代の南の島嶼では、漁業の盛んなモルジブあたりは別として、漁業のステイタスが低く、現地人の釣り漁業などの生活レベル、社会的なステイタスも低かった。先に述べたような、縄文時代的手彫り丸木舟のようなカヌーである。また、それだからこそ、シーラカンスが生き延びたともいえよう。
 それに、現地の漁師のレベルでは、エンジン付きの、例えば、日本の3トン未満の漁船のような舟をつかったとして、沖合、洋上でエンジンが止まったら、海洋保安部も無く、無線もない状態では生きて戻れない。手こぎのカヌーならば、壊れる心配がない。帰ってこられる。そのころ、ロケに行ったポナペでもおなじような状況で、ポナペ本島の人は漁業には従事せず、カピンガマランギ環礁の人が、ポナペに来て部落を作って、丸木舟で漁業をしていた。その代わりに丸木舟での航海技術は、たいしたもので、どこまでも行かれた。


 結局のところ、僕はコモロには行かれなかった。アフリカ近辺の政治状況が悪化して、フランス海軍の海兵隊が、休暇の名目で続々と島に乗り込んできた。危険になってきたということと、シーラカンスが釣り上げられ、生きてはいなかったが、撮影プランのような再現撮影がかなりうまく行き、篠ノ井プロデューサーの眼鏡に叶い、獲れたシーラカンスを日本に持ち帰れば、一応の目標は達成されたということで、全員が戻ってきた。その後もシーラカンスの水中撮影の話はあったが、ニュース・ステーションの撮影がレギュラー化したこともあり、出来なくなった。
 海兵隊が乗り込んできたということで、僕は命拾いしたとも言える。行っていたら、状況によっては60mを越えて潜っただろう。



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