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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1211 ダイビングの歴史17レギユレーター③

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        商品化はされなかった、先進(1962年当時)レギュレーター

レギュレーターは、まず第一が故障しないこと、機械、道具の類は、必ず故障するものだから、故障した時に、空気が停止するのは避けたい。空気の停止は、すなわち死の危険になる。空気が停止するのは、レギュレーターだけでなく、リザーブバルブの誤作動、岩にぶつかって、あるいは何かにひっかかって、レバーが降りてしまう、もあるが、とにかく避けたい。とともに、空気が停止したらどうするかの逃げ道も作っておきたい。バディがそばに居れば、空気をもらうこともできる。バディが居なければ、空気が来ない状態での緊急浮上をする。水深10m以内であれば、フリーアセントで水面にでる。このための訓練もするが、訓練での事故で死亡してしまった例もいくつかあるので、水平距離での模擬アセント、これはスキンダイビングに他ならない。水平距離25mのスキンダイビングができれば、生きるか死ぬかの瀬戸際ならば、40mあたりからの浮上も可能だろう。そして、その際は、減圧症などは無視する。息さえあれば、減圧症などは、医師に任せる他ない。命さえあれば、最悪で半身不随だろう。
 なお、バディブリージングは、与える方が余分の空気を、たとえばサイドマウントなどで、持っていないと、二人そろってのエア切れになる。1960年代、サイドマウントなど夢にも考えない時代だから、命がけのフリーアセントになる。なお、バディブリージングで、マウスピースがもどってこなかった経験もした。日本スキューバの鈴木博と潜って居たときのことだ。


 レギュレーターの故障は、即、事故だが、幸いにして、部品の製法を改善して、一号機の停止以来、停止の事故は無く、東亜潜水機を退職するまで、それから後もその事故はなかった。


 レギュレーターを製作、開発する者の目標は、故障の皆無の次は、呼吸抵抗である。なんとかして、呼吸抵抗ゼロ、ゼロに近いレギュレーターを作りたい。機構上の改善では、呼吸抵抗ゼロにはできない。最善でも、10-20mm程度の抵抗は避けられない。呼吸する力で、メカニズムを動かす以上、ゼロにはなり得ない。それより、位置の差による抵抗の方が大きい。背中の肩甲骨の間にレギュレーターを置く以上、水平姿勢で、身体の厚みだけの抵抗、100-150ミリはある。立位から45度、身体をやや斜めにして泳ぐことで呼吸抵抗は最小になる。ヘッドファーストで潜れば、呼吸抵抗が大きくなるが、これは長い時間では無いから、問題にしない。昔のダイバーが水平姿勢にならないのは、この位置の差による呼吸抵抗が最小になる姿勢をとったからである。これが自然体でもあり、自然体の時に呼吸抵抗が最小であるように、レギュレーターの中心を背中の肩甲骨の間に置いた。
 しかし、それにしても、100mm以上の位置の差抵抗がある。レギュレーターのセカンドステージの中心を胸の位置に置けば、立位では、位置の差抵抗はゼロに近づき、腹ばいに泳ぐ姿勢になれば、肺の中心はレギュレーターよりも20~50mm上になる。上、つまり空気が吹き出す。これがレギュレーターの抵抗を相殺して、呼吸抵抗はゼロになる。
 それでも、排気はレギュレーターの位置まで戻さなくてはならない。太い蛇腹管が二本、目の前にあるのは嫌だ、と思った。マウスピースの部分に圧力を元に戻す簡単なバランス管を着けて、これを解決した。ちょっとばかり、マウスピースの不環弁部分が大きくなるが我慢できる。問題は、どうやって、胸の部分にレギュレーターを吊すかだ。その点で、背中のタンクにレギュレーターを着けるダブルホースはうまくできている。この部分にジャック・イブ・クストーらは、苦労した結果最善の解決をした。これが成功の鍵だったのだと理解した。こちらは、仕方が無いから、別のベルトで肩の背負いベルトに留めた。最近のリュックの胸の部分のベルトのような形だ。
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 海で実験しなくてはならない。
 舘石さんと館山湾に
 ボウケネ 棒受け網の漁場だとか、海図には乗っていない。沖ノ島の前あたり、水深は15mほどこのあたり、館山湾でよく見かける地形、ひさしのように低い軒が伸び、一段で高さは30-50センチ奥が深い。
 マハタは、普通、奥が行き止まりの根には入らない。向こう側に抜け出てするりと逃げる。が、ここは行き止まりの根ばかり。行き止まりの根に逃げ込んだ魚を射止めるのを「穴打ち」と呼んで馬鹿にする。狩猟ではなく、漁獲だ。虐殺ともいえる。80-100センチの食べ頃のマハタを何尾か腰にぶら下げた。1m以上の大物だと一尾とる毎に浮上して、舟に揚げなくてはならない。そのころのスピアフィッシング、15m前後の水深では、安全停止などしなかった。安全停止という考えもなかった。このことについては別に述べたいが、減圧表で無減圧ならば、停止する考えは無かった。
 魚に夢中になって、呼吸抵抗など気にしなかったが、とにかく快調だった。
 胸の位置にレギュレーターを着け、一本の蛇腹管でマウスピースに空気をおくる装置の特許を申請した。特許は通ったが、商品化はしなかった。普通のTOASCUBA は、よく売れていたし、それに、胸に別のベルトで着けるというのが、めんどうだ。売れそうもない。
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 ところが、ジャック・イブ・クストーは、この構造、呼吸抵抗ゼロのレギュレーターを作り、自分たちの水中探検テレビシリーズで使いはじめた。そのころクストーのテレビを見た人は、スーパーマンのSの字のところにスマートにハーネスと一体化したレギュレーターを見たはずだ。これは、胸の位置から、二本のホース、ダブルホースになっている。しかし、これが、スピロでも、USダイバーでも商品化されることは無かった。世はシングルホースの時代に移っていたのだ。
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 そのころ、ダブルとシングルの優劣の議論があった。ダブルを作っている自分はダブル派である。顔の前から排気が出るのは煩わしい。ものを見る妨げになる。それに、ダブルの方が、吸気がスマートだ。シングルは口の中に、空気が飛び込んでくる感じがして嫌だとした。 勝負は、よく知っての通り、オクトパスで決着がついた。ダブルでは、圧力計が付けられない。それに、BCも使えない。BC.とライフジャケットについての議論は、これも別にするが、とにかく、ダブルは博物館行きになった。ノスタルジーと、邪魔な気泡を無くすために、オクトパスのあるダブルを日本アクアが売り出したが、あんまり売れないで消えた。
 シングルの位置の差だが、シングルは、水平姿勢になると位置の差がほとんど無くなる。立位でも、レギュレーターの性能の向上で、呼吸抵抗が気になるレギュレーターは、あんまりない。それに、スノーケルでの呼吸になれているダイバーは、若干の呼吸抵抗をむしろ好むようになっている。自分も呼吸負圧が少しあるのを好んでいる。
 
 自分も、シングルを設計し製作したが気に入らない。そのころ、1960年代の半ばから終わりごろには、他社の構造をただ真似るだけでは、プライドが許さなくなっていて、新しい機構を考えるがうまくできず、やがて、東亜潜水機を退社する。退社のときに、わがまま一杯やらせてくれた三沢社長から、潜水機メーカーにはならないでくれと言われた、このことも別に書くが、自分は、潜水機メーカーにはならずに、カメラハウジングメーカーになった。


 レギュレーターについては、親友の武田さんがダイブウエイズを作り、自分はその役員になった。武田さんはマスク作り、フィン作りの才能があり、レギュレーターも千葉大工学部卒の本格的エンジニアであり、これも世界有数である。要求したのは、前にも書いたが、ドライバー一つで分解できること、そして、とにかく呼吸抵抗の軽減であった。呼吸抵抗の方は、各社それを競い成果を上げているが、ダイブウエイズは、そのトップクラスを維持している。
 一つだけ、ダイブウエイズで自分のアイデアを無理押しして、失敗した例がある。
 レギュレーターの性能の目安として、一つは呼吸抵抗だが、もう一つ、空気供給量がある。毎分100リットルあたりまでは、どのレギュレーターも問題なく供給してくれる。めちゃくちゃに激しい労働、例えば、強い流れに逆らって、泳ぎ続けて。まいふん120~150を要求したとする。その時に、100しか来なかったら、酸欠になる。これは、1980年に釜石湾口防波堤で、送気式、デマンドバルブ(レギュレーター)を付けたフルフェースでの作業で重いワイヤーを持って歩き、空気量が足りなくなってフラッシング(フリーフロー)して息を整えたことがあった。フラッシングしても、5分ぐらいは海底にうずくまり動けなかった。タンクを背負う、普通のスクーバでは、フラッシングはできない。空気供給可能量を増やせと武田さんに要求した。空気供給可能量を増やしても、要急しなければ、空気は来ないから、空気消費量には影響しないはずだ。緊急時にくるしくならないということだ。その辺り、議論の対象にはなるが、緊急時に空気が要求するだけ来ないのはこまる。このことは、後にのべる100m潜水の時にも経験している。コンプレッサーの圧力が上がらず、空気供給量が足りず苦しかった。 
 空気供給量のネックはファストステージの流量である。一個のファストステージでは足りない。ならば、二個並列にしたら良い。ファストステージを二個にすれば、一個が故障しても、空気が止まることはない。富戸の菊川さんのレギュレーター故障がトラウマになっている。
 心臓が二つある、空気供給量も2倍あるレギュレーターが誕生した。そして、ファストステージの大きさ、重さも2倍になった。重く、オーバースペックのこのレギュレーターは売れなかった。世は軽量化を求めていたのだ。レクリェーションのスクーバダイビングは旅でもある。旅では軽量化が求められる。自分もこれを愛用していた期間はわずかで、今はダイブウエイズに修理に出したまま、帰ってこない。ただ、流氷に潜った時に、このレギュレーターは、凍結しにくかったので、この点をさらに増強し、ファーストステージのスプリング部分をオイルで満たして、凍結しないレギュレーター^として売ったこともあった。R116 が商品名だが、今はカタログに載っていない。写真を見つけようとしたが、見つけられなかった。

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