山本式は謎の潜水器である。謎の一つは、特許のこと、もう一つの謎は、大串式との関わりである。大串岩雄の「発明一筋」には、山本式のことは一行もでてこなかった。東京潜水工業が、大串式でのサルベージ作業と、大串式マスクも売っていたに違いない。大串式をどのように売っていたのかも謎である。これは想像であるが、おそらく、僕らが1960年代にカメラハウジングを売っていたように、一品製作、一台一台、作って、かなり高価に売っていたのだろう。注文があると、大串岩雄が、ロウ付作業をして作り上げる。発明一筋では、そんなことも書いてあった。
そして、山本式のもう一つの謎はどんな潜水器なのか、書いている僕がわからないのだ。実物さえあれば、簡単に解決してしまう謎なのだが、実物を手にとれない。
特許の図と説明を読んでも、これは判じ物だ。
その特許の図と、三浦定之助「潜水の友」からの図、写真、わかりにくいながら、説明を読んで、類推してみよう。
※潜水の友 については後述(次回)
「潜水の友」の説明
給気弁開閉装置(口金)マスクの顔面、口に当たる所に径1センチの排気管を付し、これを上下に挟んで上下二枚の口金板を有し、これを噛み又は話すことにより、梃子の作用を伝達すべく、スプリング及び径2ミリの真鍮棒を以てホース端の開閉弁に伝達する。
この説明は特許の説明よりはややわかる。特許の説明は、意図的に特許用語を使ってわからなくする傾向もあるのだが。
これらから類推すると、山本式はフルフェースマスクである。口金(弁の開閉装置)がマスクから分離して外にある大串式とは違っている。
山本式はフルフェースだから、鼻からだけではなく、口からも呼吸ができたと思う。その口からの排気管というのがよくわからないが、弁を開閉する上下二枚の口金板と排気管を同時にくわえている。排気管は、この口金のクッションになっていたかもしれない。とにかくこれを噛むと弁が開いて、マスクのガラスに吹き付けるように空気が出てくる。排気は、排気管の前面にある排気弁からでる。
実物がないし、使い比べていないのでわからないが、山本式の方が呼吸しやすかったのではないかと思う。東亜潜水機の三沢社長もそんなことを言っていた。
山本式の考案者 虎多氏は、商船学校をでた船長で、サルベージ作業で亡くなったほどのダイバーだった。どんな人だったのだろう。
もうひとつ、これこそ世界初の?BC.山本式潜水ジャケットは、使い物になったのだろうか?
このジャケットは、空気を入れて浮くのではなく、ジャケットに水を入れて沈降するという考え方だ。
山本式マスクと山本式ジャケットで潜ってみたい。
現在のスクーバダイバーは、そうおもうだろう。世界中のダイバーがそう思うかもしれない。
そういうことができる潜水博物館を三宅島でやろうとした。果たせなかった夢の一つ。このプロジェクトについては、潜水の歴史第二部で書くつもりだ。