さて、素潜りをしている先史時代のダイバーは、何とかして、水中で呼吸できるように、水中ではっきりとものを見ることができるように進化したいと願ったことだろう。しかし、進化は願ってできるものではないし、遺伝子組み替えで、これから先の未来で、水中呼吸のできるアクアマンが作り上げられるかもしれないが、さすがに、それを願ってはいない。自分は、海に潜らなくなったら、死ぬけれど、それでもやはり、陸棲の動物であり、陸で暮らして、海に潜りたい。その逆はない。
人類は、道具を使うことができるように進化し、潜水機、水に潜れる道具をつくり、使うことで、海に長時間、そして、深く潜れるようになるので、潜るために自分自体の肉体を変化、進化させる必要がなくなった。
したがって、ここからのダイビングの歴史は、道具の進化発展とそれに絡まる人間の海への進出の物語になる。
素潜りダイバーは、長い管をくちにくわえて潜ることで、管の長さだけ深くまで潜れると想像しただろう。しかし、実際にやってみた素潜りダイバーたちは、それが、出来ないことであることを身を持って知らされる。理由は、今の世の人は誰だって、知っている。圧力差だ。肺を押しつける水圧と、水面の大気圧の差に打ち勝って、水中の肺が水面の空気を吸い込むことはできないのだ。管を口にくわえて水面の空気を呼吸できるのは、精一杯がんばっても、水深50cm、いや、30cmぐらいか。
このタイプの、呼吸できない水中呼吸器のアイデアの記録で残っているのは、レオナルド・ダヴィンチ先生の絵だ。この絵はダヴィンチ先生が、水に潜る実験をしなかったことの証である。
この手の試みは世界中で無数にあったのだろうが、高名なダヴィンチの絵だから、残ったのだ。
他にも、残っている想像図的な、潜水機の絵は、いくつかあるが、海中世界は、宇宙と同じようにSFの世界である。
SF大好きであり、自分もSF作家を目指したこともある。ダイビングの歴史は、海中への人の冒険SFの歴史と平行する。
神話は、人の想像力の世界であり、SFでもある。
浦島太郎の竜宮城は、日本の海のSFの歴史の最初のページである。海の中に住む人々、神々がいる竜宮伝説は、世界各地にある。海中SFの始まりである。
しかし、それでも人は、長い管で水面の空気を吸おうとした。送気式潜水の始まりである。
袋に空気を詰めて、水中に持ち込み呼吸しようとした。スクーバ潜水の始めである。樽のような容器に入って、海中を観察しようとした。ダイビングベルの最初である。
アレキサンダー大王がダイビングベルで海中に入って観察したという伝説:SFもある。
僕が今着ているTシャツの絵は、これら伝説をデザインしたもので、大好きなTシャツだが、このTシャツは、「潜水の歴史:社会スポーツセンター」を製作した望月昇さんが、水中スポーツ室内選手権大会記念のためにデザインしたものだ。
Tシャツの上から、BC820、これは、大英博物観にある、アッシリアのレリーフということで、兵士が、空気を詰めた袋、スクーバを着け、水中を潜って敵陣に攻め込んだSFで、フロッグマンの始まりでもある。
AD320これは、アレキサンダー大王が、海中を観察したという、ダイビング海中観察球)だろう。これも歴史的SFだ。
SF的発想のダイビングベルを実際的に使ってみせたのが、エドモンド・ハーレー(Hally) で、1690年、ベルの中に空気を送り込む方法を実現した。
絵を見ると、大きなハンドルを回転させるコンプレッサーを使用している絵と、樽で空気を送り込んでいる絵がある。いずれにせよ想像図であるが、これで、16ー18mの水底に1時間半、潜水したという。
よく、潜水艦の映画などで、海底に沈んだ潜水艦の酸素が次第に消費されていって、あと何時間、あと何分に命というシーンがあるが、そのような潜水を繰り返しつつ、次第に潜水時間を延ばしたのだろう。しかし、1時間半ということは、コンプレッサーの能力は、まだ低かったのだろう。コンプレッサーの能力が十分であれば、もっと長い時間潜れたはずだ。
そして、次に、ハレーは、ダイバーに小さいベル、すなわちヘルメットをかぶらせ、メインのベルとホースで連結する事を考えた。こうして、様々な工夫が試された後なんとか仕事ができる潜水機が生まれたのだだろう。
それらの一つで、使えたものがイギリス人のジョン・レスブリッジの潜水機で、細長い樽のようなものに入り、手を樽の外に出して仕事をする。これで、レスブリッジはかなりの仕事をしたらしいが、最初に潜ったのが、1715年、そして1749年までには72フィートまで潜水したと記録されている。
Tシャツの一番下、AD.1720というのがそれで、レスブリッジの潜水機は、その後、現代の世界的にトップの座を占めている潜水作業会社、コメックスでレプリカが作られ、言い伝えられている通りの潜水ができたと言う。
そして、その次にくるのが、アウガスタス・シーベによった作られた、ヘルメットで、これが、現在も使われているヘルメット式潜水機の原型で、1819年に原型が出来、1837年には、現在のものに近くなった。