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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0221 大串式マスク メモ

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大串式 メモ


 歯で噛んで吸気弁を開く大串式マスクは、潜水機の歴史上世界的に有名である。大串式マスクについてのメモである。
 マスク式の歴史について、ここで書く余裕はない。自分用のメモである。だから、ほとんどの人に理解不能だろう。自分用のメモだ。


 実物が船の科学館に一台あり、アメリカにも一台ある。船の科学館にある一台は、ADS を創立した望月昇さんが持っていたものであり、望月さんは、潜水博物館を作ろうという夢を持っておられたが、亡くなられて、石黒信雄氏が仲介されて、船の科学館に寄贈され、僕もそれに少し関わっているので、日本水中科学協会のシンポジウムの際にお借りして展示したりしている。
 この大串式マスク、菅原久一氏が持っていたものであり、僕もねらっていたのだが、望月さんのところに行き、船の科学館に落ち着いた。
 菅原さんの前には、どこにあったものかわからない。
 大串式の由来、特許を取得されている年時など、日本水中科学協会の報告として、発表している潜水の歴史年表に掲載していたが、潜水の歴史を研究されている宇佐見昇三という方から、間違いを指摘され、同時に大串式の発明者である大串岩雄氏の回顧録「発明一筋に」という本がでていることを紹介された。
 古石場図書館にお願いしてさがしてもらい、目黒区立図書館が所蔵していたものを取り寄せていただき、今日、手にした。
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          大串岩雄氏


 マリンダイビングの第10号1971年7月に、大串岩雄氏本人が、山根雅巳先生(当時早稲田大学理工学教授で、液体空気を使うクライオラングを作ったりして、親しくさせていただいていた)と八坂丸金塊引き揚げの片岡弓八氏の子息である片岡弘吉氏と対談した記事がある。このことは知っていたのだが、そのマリンダイビングが手元になく、コピーさせてもらうことをマリンダイビングの舘石社長にお願いして許諾を得ていたのだが、都合が合わないで延び延びになっていた。
 マリンダイビングの第9号では、大串式がアクアラングの元祖だとある。
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 この写真は大串岩雄が1920年に特許を取った自動弁、レギュレーターだ。後のスクーバ、シングルホースとほとんど変わらないようにみえる。
 クストーのアクアラングが1943年だから、1920年は23年古い。しかし、大串式がアクアラングの元祖だというのは当たらない。アクアラングは、クストーの商品名なのだ。自動弁としてこちらの方が古いというのは当たっているが、このレギュレーターは使われなかった。なぜ、これが使われなかったかというと、呼吸抵抗があったからだろう。歯で噛む方式は、空気が噴出してくるのだから、呼吸抵抗はゼロである。労働ができる。1920年、かなり苦しいレギュレーターだったのだろう。


 そして、今、この「発明一筋に」を読んで、大串式のことが少しわかった。
 大串式マスクは、注文生産のようであり、大串岩雄氏の手作りだったようだ。ちょうど、僕のスガ・マリン・メカニックが、ブロニカマリンを手作りで売っていたように、それも、大串式が、もっとも成果をあげて、評価されていた大正7年頃、東京潜水工業という会社を大串式のスポンサーになった渡辺理一氏が設立するのだが、この会社はマスクを作って売るのではなく、このマスクを使うサルベージ会社なのだ。潜水機を売ることはほとんどしなかったようだ。
 大串式と同じころ、同じく、歯で噛むマスク式である山本式が作られた。これが普及して、三浦定之助先輩の定置網潜水に使われ、大串式が使われなかった謎が解けたような気がする。積極的に売らなかったのだ。山本式は、日本潜水機という会社が作っていて、販促のための参考書として、三浦定之助の「潜水の友」などを出している。これは、古石場図書館にある。
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 写真は、潜水の友、から三浦先輩が山本式をもっている。なぜ先輩かというと、水産大学の前身である水産講習所の卒業生だ。


 山本式は、僕が東亜潜水機に入社したときに、まだ在庫が一台だけあった。東亜潜水機でも売っていたのだ。大串式は売っていない。そのあたりの葛藤はよくわからないが、山本式の性能は、大串式に勝るとも劣らなかったのだろうと推測する。
 その山本式は、実物がない。真鶴の岩の漁業組合の倉庫にあったのが、見つかって新聞にでた。岡本美鈴に頼んで聞いてもらったが、今はない。誰かが持って行ってしまったのだろう。どこにあっても、良いのだが、所在だけは、知りたい。
 山本式はゴムの部分が多いので、老化してしまっているかもしれないが、その点、大串式はほとんど金属製だから腐らない。


 「発明一筋に」が書かれたのは昭和56年だから、お目にかかろうと思えばお目にかかれた。お目にかかれたとしても、この本を読む以上のことは、聞けなかっただろうから、本は貴重である。


 なお、この本には、ナヒモフ号の金塊引き上げにまつわる、片岡弓八と鈴木章之氏の確執なども書かれていて、これも興味深い。僕は鈴木章之氏のお宅を訪ねて、お寿司をごちそうになったことがある。
 ナヒモフ号の話はまた別のことだが、僕も書いて出版しておかないといけない。ダイビングの歴史だけど、遅々として進まない。



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