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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0106 ダイビングの歴史 13 クストーの世界

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 1943年6月のある朝、私は、フレンチリビエラのパンドル駅に出かけて、パリから急行便でとどいた一つの木の箱を受け取った。この中には将来有望な新しい一つの器械が入っていた。それは、数年にわたる夢と努力の結果、エミル・ガニアンと私が考案した自動圧縮空気潜水肺なのである。私は大急ぎで潜水仲間のフィリップ・タイエとフレデリック・デュマの待っているヴィラ・パリーに駆けつけた。
 中略
 この器械は、三個の中型圧縮空気筒からなり、これに目覚まし時計の大きさの空気調節器がついている。この調節器から更に二本の管が延びていて、口あてのところで一緒になっている。私たちはこの器械を背負って、水密硝子で目と鼻を覆い、足に鰭をつけて、何物にも妨げられずに深い海の中を泳いでみようとかんがえた。
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 これは、クストーが書いた Silent world の日本語訳「海は生きている」(1955)の書き出しである。サイレント・ワールドは「沈黙の世界」であり、1956年には日本でも、公開され大ヒットする映画の日本語題名も「沈黙の世界」である。「海は生きている」の翻訳者は佐々木忠義となっている。佐々木先生は、時の東京水産大学の学長であり、日本でのスクーバダイビング普及の推進者である。
 が、本のタイトルも「沈黙の世界」にしたほうが良かったと思う。
 クストーが、アクアラング(商品名)を開発するくだりは「ダイビングの歴史」の最大の出来事である。 この本「海は生きている」から、そのころのいきさつを時系列に沿って書き出していく。


 ※この項で参考にしているのは、この「海は生きている」と、この数年日本アクアラング社がそのカタログの最終ページをこの時代からの、推移を掲載しているので、それを参考にしている。
 
 1936年、クストーはフェルネのマスクを着けて素潜りする。フェルネのマスクは送気式だから素潜りではないと言うのは、今の見方であり、この本の出版された1955年、には、まだダイビングの種類、定義などない。
「フェルネの潜水器具を試験してみた。これは、水面のポンプと、マスクの鴨の嘴のような形をした弁との間をエア・パイプ(ホースのこと)で繋ぎ、ここから顔面に絶えずポンプの空気を送る仕組みになっていた。」※「」部分は「海は生きている」からの書き抜きである。
 このフェルネのマスク式潜水機?の詳細な資料が手元にない。送気式と、自給器の中間に位置するのか?と探している。どこかで見た。
 フェルネのマスクと、当時の日本のマスク式と比べて見てみたいのだが。


 このフェルネのマスク式で、ホースが切断し、クストーは、危うくスクイーズになるところだった。
 位置の差、(水圧差)ダイバーにとっては、常識の第一歩だが、一般の人には、わかりにくい。陸上で身体にかかる圧力は海水面で大気圧1kg/cm2であるが、水中では、水深10mごとに、1気圧づつ圧力が増えて行く。水の重さと考えても良い。人間の肺は、20cm、せいぜい50cmほどの深さの圧力差しか吸い込むことはできない。水深10mも潜って、口に連なるホースが切断すれば、水面と肺との差圧は1気圧になり、肺はその差圧には耐えられないフワフワの組織で、口からホース、そして水面に向かって吸い出されてしまう。これが潜水の方の言葉でスクイーズであり、肺が吸い出されるのは肺スクィーズである。クストーはこれに危うくなるところだった。普通、ホースにはこれを防ぐ逆止弁が付いているのだが、フェルネのマスクには付いていなかったのだろうか。
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 1938年に、クストーは、フィリップ・タイエに出会う。彼は、フィン・マスク・スノーケルをつけて、スキンダイビングをしていて、クストーにゴムホースからスノーケルを作る方法を教えてくれ、スピアフィッシングを一緒にはじめる。その頃、プロのダイバーであるフレデリック・デユーマとも出会い三人のチームができる。まずやっていたのは、魚突き(スピアフィッシング)であり、そこで、ガイ・ギルパトリック(スキンダイビングの項参照)の名前もでてくるが、「アメリカの小説家のガイ・ギルパトリックの魚突きの技術は、フェンシングの突きのやり方で魚を突きさすのである。」程度であり、別段、一緒に潜ったり、親しくしていたような記述はない。
 とにかく、クストーのチームは魚突きに熱中した。大きなハタの類を突いて、意気揚々と担いでいる写真も載っている。
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            ル・プリューのスクーバ
 クストーは、潜水機を着けて、艦艇のスクリューまわりのメンテナンスもやってみたりしている。これは港湾関係のプロダイバーの仕事なのだが、ル・プリューのスクーバ(1933年に作られた)も使ってみる。これは斜めに空気ボンベを肩に掛け、手動の弁で空気を調整してマスクに空気を送る。原始的な手動デマンド方式である。
 1939年9月、ドイツ軍のポーランド進攻で始まった第二次大戦中、海軍軍人であるクストーはマルセイユの諜報部で働いているが、諜報部の秘密の仕事をカムフラージュするのに、潜水の仕事は役に立つとか、上官の勧めもあって、潜水作業の研究を進める。
 ガスマスクを改良し、バイクのタイヤチューブに息を吹き込み、吸い込み、この途中に炭酸ガス吸収剤を置く、リブリーザも作って実験するが、これでひどい酸素中毒にかかり、純酸素の呼吸器はあきらめる。 
 
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 クストーは、純酸素でもなく、ル・プリューのような手動バルブではなく、呼吸で弁が開閉する方式の呼吸装置を作りたいと技術者を探し、1942年12月に、エミール・ガニヨンに出会う。ガニヨンは、エア・リキードという、液化酸素、窒素などを作り扱う会社の技術者であった。
 クストーの奥さん、シモーヌはかなりの資産家であり、そして、ガニヨンが所属していた、エアーリキッド社のトップと親族関係だったとか。クストーはその助けも得て、ガニヨンに頼んだのだろう?ずっと後になって、クストー夫妻が日本に来た時、奥さんが権力者であるような感じを受けた。
 ガニヨンは、ガソリンではなく、木炭自動車のキャブレーターと似た方式で良いと、これを改造して最初のレギュレーターをつくってくれる。第二次大戦中、日本でも木炭自動車が普通であり、これは、ガソリンの代わりに、一酸化炭素を燃やすもので、街に一酸化炭素をまき散らして走っていた。
 このレギュレーターで、マルヌ川でテストをするが、垂直姿勢になると、位置の圧力差で空気が吹き出してしまう。レギュレーターの中心の位置よりも、ホースの先端、マウスピースの位置の方が高いからだ。逆立ちすれば、逆に苦しくて吸えなくなる。
 排気弁の位置をレギュレーター、自動弁の吸気の中心と同じ位置にする。吸気ホース(蛇腹管)でレギュレーターから口、マウスピースまで空気が吸い出され、吐いた空気はもう一本の排気ホースでレギュレーターに戻される。すなわちダブルホースにすることでこの問題はきれいに解決された。
 こうして出来た最初のレギュレーターが    型。これが1943年の6月、フレンチリビエラのクストーの元に、ガニヨンから送られてくる。


※フランス人の名前の読み、発音は、日本人にはわかりにくい。ガニヨン、ガクナン、ガニアンとも読める。ここでは、日本アクアラング社のカタログで使っている読み、ガニヨンを使うことにした。


 こうしてできあがったのが、アクアラングと呼ばれるスクーバレギュレーターである。
 現在、CG-43 という型式のものが残っている。筆者は、1996年、ニースにある スピロテクニックの工場を訪ねて見せてもらった。ネジを開けて中まで見せてもらったが、ダイヤフラムの素材が、全部がゴムではなく、ゴム引き布であったことが、印象的であった。このCGー43が、商品として売り出されていたものかどうか、は、聞くこと失念してしまった。おそらくこれが最初の商品だろう。
 
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 僕らがダイビングを始めた1957年当時、アクアラングの輸入は、フランスのスピロテクニック社からであったので、スピロテクニック(以後略してスピロ)という会社があって、ガニヨンはスピロの技師だったのだと思っていた。
 そうではなくて、フランスで液体酸素を製造販売しているエア・リキードという会社があり、ガニヨンはそのエア・リキード社の技師であった。
 アクアラングが成功したので、その製作をする会社として1947年、フランスに、ラ・スピロテクニックという会社が設立される。その親会社がエア・リキード社である。
 エア・リキード社は、日本にも戦前から進出している国際的な企業で、日本では帝国酸素と呼ぶ会社で、日本全国に液化ガスの製造供給するネットワークを持っていた。帝国酸素は、後に、テイサン、今は日本エア・リキードと名前を変えている。
 そして、1951年にアメリカでのアクアラング、製造販売会社として、USダイバーズ社が、これもエア・リキード社の子会社として設立され、1961年には、日本アクアラング社が帝国酸素の子会社として設立される。 



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