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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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1011  RD リブリーザー

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 リブリーザに初めて触り、それで潜水したのは2004年だった。自分の100m潜水から、足かけ7年の月日が流れている。その7年の間にもいろいろあったが、それは、省略。
 ここでもう一度、くどいようだけど、ここに書くことは自分の知見、経験であって、情報の類である。ただ、事物は違う視点から見ることが大事だから、価値のある情報だろう。
 2003年まで、リブリーザの概念は知っていた。アメリカの飽和潜水研究、シーラブ計画で、リブリーザを付けた研究員が、ケアレスな間違いで死亡して、シーラブが中止になる一因になったという噂、そして、開発途上にあるリブリーザは、危険度が高いという情報は耳にしていた。危険ではあるけれど、リブリーザこそが、次世代の潜水機であるとも思い、感じていた。しかし、自分もやってみなければ、話にならない。ただ、ここまで自分が生き延びてきたのは、リブリーザをやらなかったおかげかな、と思ったりもしていた。


 潜水部の後輩に古島くんという、有名カメラマンがいる。ビデオのカメラマンで中川の競争相手だ。その古島とは、一度も一緒に仕事、潜ったことがない。一度くらいは、と思って、龍泉洞を企画したが企画だけで終わってしまった。その古島が、リブリーザで鯨を撮ったりしていて、その際のアシスタントが、豊田君という人だ。リブリーザでは古島が先輩だから、相談すると、その豊田君を紹介してくれた。
 豊田君の店は、新橋烏森口の駅から数分の商店街の真ん中、車を停めてはいけないような場所のビルの三階、エレベータのない3階だ。タンクとか機材を担いで上がらなくてはいけない。身体が猛烈に鍛えられるだろうが、豊田君本人は、細身のどちらかと言えば小柄な人だ。
 もらった名刺を見ると、お店はテクニカルダイビングセンター ジャパンで、IANTD の日本代表とある。それまで、リブリーザのこと、そして、テクニカルダイビング業界のことは何も知らないでいた。このIANTDのことも知らなかった。International asociation of nitorox & tecnical diver's の略だ。


 まず、リブリーザはたいへんに危険な潜水機なので、IANTDの講習を受けないと売ることはできないという。古島の紹介だから便宜を図ってくれるかとおもったのだが、そういうことはなかった。あとで、親しくしていたテクニカルダイビングの一人者、田中光嘉になんで、俺のところに来なかったかと叱られた。


 見積金額は180万その中にはINATD のマスターダイバー検定とフィリピンでの8日間のリブリーザ講習がふくまれている。
 リブリーザは、インスピレーションという機種で¥1218000だ。トレーニング費用 マニュアルと申請量が¥250000、限定水域(プール)2日間 ¥46000 海洋 8日間で¥264000だ。ビジネスライクで厳しい。
 まあ、容赦なくお金を簒奪するものだ。考えた。67歳、今やらなければ、リブリーザを体験しないで、死んでしまう。アクセプト!やることにした。


 ダイビングの講習は、大学3年の時に受けた。後は終始教える側だった。
 一人だけというのも、寂しい。バディが必要、名古屋の浅井さんに声をかける。浅井さんのショップの川島君が参加することになった。
 ほどなく、1228000円のリブリーザ、が届いた。インスピレーション、重さが30キロもある。リブリーザ素人だったので、日本のフィーノから押して考えて、オープンサーキットよりも軽いのだとおもっていた。


 リブリーザの講習を受けるためには、IANTD のマスターダイバーの資格が必要だと検定を受けさせられた。僕のネームバリューなどは通用しない。検定はする側であって受けたことなどない。それも、ちがうスタイルのダイビングだ。湯河原のプールだった。なんとか合格したが、知らない団体のマスターを67歳で情実なしで合格するのは、大変だ。
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 同じプールで初めて、インスピレーションを背負って呼吸した。炭酸ガス吸収剤は必ず自分で詰めなければいけないとか、吸ったり吐いたりしても浮力は変わらないとか、マウスピースを口から離すときには、必ずシャットする。など、身体で覚えた。


 さて、見積もりでは、海洋は伊豆といわれていたが、フィリピンのセブに変更になった。コンチキというショップでINATDの看板がでている。混合ガスの充填ができる設備が整っている。なるほど、フィリピンはアメリカのようなものだから、ダイビングでは日本よりも先進だ。
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 セブでの講習は、海で泳ぎながら、段階的に、いくつかのエキササイズをやる。たとえば、潜水中に酸素センサーが壊れて、壊れないようにマスターとスレーブ二つのセンサーを持っているのだが、もしも、なにかの原因で二つ同時に壊れて分圧が狂ったとして、異常を感じたら、直ちにマウスピースを離して、サイドマウントで着けている6リットルの空気を呼吸する。空気を呼吸しながら、酸素センサーをリセットする。分圧がもとに戻ったら、再びリブリーザから呼吸して、脱出・浮上する。マーカーブイを上げて減圧停止する練習もした。
 結果、IANTDの合格基準を満たすことはできなかったとして、僕は不合格だった。。ダイビングのスタイルが、自分が50年余身体に染み着いたダイビングと違うのだ。8日間ではこれを消し去って新しいスタイルに、リブリーザが仕える程度まで、熟達するのは、70歳の自分では無理だった。


 その後、日本水中科学協会を設立して、プライマリーコースというプログラムで、トリム、水平姿勢の講習をやることになり、3年間これを練習したが、上達しなかった。ある程度はできるようになったが、練習を続けていないと元に戻ってしまう。スキンダイビングを基本とする僕のスタイルでは、プールでスキンダイビングのトレーニングをすると元に戻ってしまう。
 若い、40歳以下の人だったら、二つのスタイルのダイビングをできるようになるだろうし、教えている学生、東大の海洋調査探検部などは、フリッパーレースに出場しながら、トリムのダイビングもできるが、高齢者にはむりだった。何とか形だけはできるが、カメラを構えたりすると、30度の姿勢にもどってしまう。
 しかし、リブリーザのダイビングは、トリムのスタイルだけとは限らない。海底にしっかり足を下ろしてしまえば良い。と、僕は考えた。魚礁の調査をするならば、魚礁の中に入り込んで、座っていればいい。浮上はケーブルダイビングを使ってあがってくる。
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       人工魚礁調査にも使って見たが。
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 それはそれとして、せっかく持っているリブリーザの練習をしなければ。
 仕事ではないトレーニングにボートをチャーターするお金はない。70歳でスガ・マリン・メカニックを引退して、田沼君に会社を任せているから、会社からお金を引き出すこともできない。大瀬崎の先端でトレーニングすることにした。ビーチからのエントリーでたやすく60mに行かれる。そのころ、深いダイビングに同行したのは、東大海洋調査探検部のコーチで、理論天文学で、東大史上、若年で教授になった小久保英一郎君だった。振り返れば、めちゃくちゃだ。小久保君は、普通のスクーバで潜る。もちろん空気でだ。当然窒素酔いになる。二人とも窒素酔いジャンキーのきらいがあった。深く潜るダイバーは、今のテクニカルダイバーも含めて、スタイルはそれぞれだが、皆、ジャンキーのきらいがある。
 2回、危ないことがあった。
 リブリーザは、エントリーする前、純酸素状態で何分間か呼吸する。これで、動きが良くなる。水に入ると酸素を薄める空気のコックを開く。酸素センサーが働いて、設定しておいた、適切な分圧になる。エントリーするときに酸素を薄める空気のコックを開くのを忘れると、酸素分圧が高くなり警告のブザーがなる。その警告音が、当時から少し耳が悪くなっていた僕は聞き取れなかった。それをバディで潜っている小久保が聞いて、注意してくれた。そのまま潜っていたら酸素中毒になり危なかった。今では、この警告をランプの点滅で知らせる方式もあるようだが、耳の悪い僕は、危ない。
 もう一度は、一人で潜って居るときだった。
 純酸素を薄める空気のタンクは3リットル、純酸素も3リットルで併せて6リットルしかないが、循環させて酸素の消費分だけが失われるのだから、長時間の潜水が可能である。しかし、ダイバーが浮き上がると、膨張したガスが回路から逃がされる。沈むと自動的に供給される。つまり、浮き沈みをするとガスがどんどん失われる。水深60mで上下動を繰り返せば、3リットルはあっという間になくなってしまう。この薄めるガスが無くなると、インスピレーションは、自動的にガスの供給を停止する。酸素分圧が深い水深で高くなると、酸素中毒が恐ろしい。自動的に停止して呼吸できなくなるから、サイドマウントで持って行く6リットルの空気に切り替える。水深60mに潜っていれば、かなりの減圧停止が必要になる。60mから、減圧停止点までの浮上でも空気は消費される。減圧停止が十分にできない可能性もある。これも、水面の舟から空気が供給されれば問題ないが、ビーチエントリーでは危ない。幸いにして僕は減圧症にはならなかったが、覚悟して浮上した。このときは自分一人の潜水だった。
 これは、もう自主トレは、危ない。といって、舟を雇ってまで、本格的にトレーニングする必然性のある仕事もない。ちょうどそのころ、酸素センサーの寿命がつきた。酸素センサーは、化学的なもの、生ものなので、定期的に交換しなければならない。交換すると7万ぐらいかかる。
 仕事があり、組織的にやるのでなければ、やめた方が良いと判断した。手元に置いておくと、また、必ずやるだろう。中古で40万で手放した。


 一回だけ仕事に使った。「東京タワー」という映画の撮影だった。見た方もいると思うけれど、主人公の岡田准一が、プールの10mの飛び込み台から突き落とされるシーンがある。それを、もちろんスタントがやるのだが、プールの底から仰角で撮る。習志野のプールで撮ったのだが、仰角のカメラに自分の出す気泡が写ってはいけない。気泡の全く出ないリブリーザが役に立った。


 さて、リブリーザの有用性だが、半ば趣味であるテクニカルダイビングで使う。これは、趣味なのだから問題ない。ヘリウムも高騰しているので、ガス消費が少ない利点がある。仕事としては、無音が要求される場合、無気泡が要求される場合。これは、音響機雷の処理など軍事目的がまず考えられる。リサーチでも無音、無気泡が要求される場合がある。
 危険度は、開放式スクーバよりも高い。業務として、深く潜る潜水機としては、特殊な場合を除いては使えない。シーラカンス撮影のローラン・パレスタが使って成功している。彼は、SDCとリブリーザを使った撮影調査を行い最近発表している。日本でもシーラカンスプロジェクトが行われ、親しかった田中光喜は、それで命をおとしてしまった。
 
 リブリーザーは、非常に魅力的で、命を懸けてもやりたくなる危険性がある。
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