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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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60歳の100m潜水ー7 まとめ

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60歳100m潜水 若干の考察とまとめ


 これは、今、2020年に書いている。
 なお、話題にしているアランの潜水についてユーチューブに非公開で載せておいた。ここから見られる。
 https://studio.youtube.com/video/gifySmK_SGU/edit/basic
 少しばかり理屈っぽいが、自分の60歳の100mの後日談でもあり、「リサーチ・ダイビング」をまとめる際にも、論点になると思うので、現在の考えをまとめておく。
 
 それに先だって、


 ここで、テクニカルダイビングとかシステム潜水の定義について述べるが、それは情報であり、この意見(定義)が正しいとか、あるいはこうあらねばならぬという主張でもない。人の考え方は、日々変わっていく、それは、ある時、ある時点のものであるに過ぎない。それを情報と呼ぶことができる。聞く人、読む者の参考になれば良い。
 テクニカルダイビングという言葉の意味も、1996年と、20年の月日がながれた今では大きく変わっているだろう。


 情報は原則として、知見、経験に基づいている。経験、知見のないものは、伝聞であり情報としての価値は一段さがる。無価値ではないが。
 その意味で、自分の1963年の90m空気潜水、1996年の混合ガス100m潜水は、自分にとって、大きな知見、経験を与えてくれた。その情報は、一冊の本になると今の僕は考えている。
 そんな本を書く時間は、今の僕には残されてはいないだろうが、知見、経験、そしてそれに基づく情報などについてのコンセプトを、今2020年にこれを書いていて考えた。そういうことだったのだ、と。
 残された日々がわずかになり、そこで、そういうことかろさとるのは切ないけれど、人生そういうものだ。
 以下の情報はまだまとまっていない。思いつきの書き並べである。しかし、それは事実に基づいているから、情報としての価値はある。


 1996の100m潜水では、テクニカルダイビングなのか、システム潜水なのかについてこだわりつづけた。


 テクニカルとシステムダイビングについて考えるに先だって、ダイビングの仕訳、線引き について考える。


 水中でダイバーが何をするのかが第一段の仕訳だろう。目的、目標である。次にそれをどのようにやるか、手段、方法についてが、第二段の仕訳になる。
 まず、目的だが、今、僕が思い浮かべるのは、リサーチ、港湾工事、漁業、(密漁もいれよう)サルベージ、科学研究 単なる趣味、あそび、冒険、ダイビング技術追求のための研究、テスト、軍事(戦争・スパイ活動を含む)救難、警察などの捜査は、リサーチに含める、などである。


 分け方はいろいろある。日本のダイビングのオフィシャルスタンダードとして、潜水士テキストに記載された分け方がある。これは、高圧則が適用される業務についてのものだが、
 ①レジャー潜水 (インストラクター ガイドダイバーに適用される。)レジャーダイバーそのものは適用外
 ②作業潜水 (水中工事 水中土木工事 サルベージ潜水 水中調査)
 ③捜査、救難潜水 (警察 消防署)
 ④軍事潜水(海上自衛隊など)
 ⑤水産、漁業潜水(素潜りは含まれない)
である。


 この目的仕訳のうちで、圧倒的に数の多いのがレジャー潜水である。そして、それは自給気 スクーバによる潜水である。ヘルメット式、フーカー式、送気式のレジャー潜水は、試みはあったかもしれないが、成立していない。このことは、非常に重要なことで、ケーブル・ダイビング・システムが普及できなかったのは、このためである。命綱を中性浮力にして、マイクレシーバーをつけて、通話可能にした。すばらしいアイデアだと今でも思っていて、あきらめてはいないが、命綱を付けたら、スクーバではなくなる。すなわち、レジャー潜水には使えない、成功しないのだ。プロの送気式では、歴史的に、すでに通話器は水中電話として、常用になっている。
 
 60歳の100m潜水では、テクニカルダイビングとシステム潜水の相克に悩み、こだわった。
 ところで、テクニカルダイビングという語も、システム潜水という語も、どちらも潜水士テキストには出てこない。 海洋科学技術センターが昭和60年に編纂した「潜水技術用語集」にも出てこない。つまり俗語、業界用語である。
 このような語は不要かといえば、そんなことはないだろうう。自分たちの潜水について定義し、整理確認しておくことは、安全確保のために必要であり、有用である。
 ハミルトンの定義によるテクニカルダイビング、送気式についてのシステム潜水の定義は、自分の立ち位置を明確にするために有益であった。
 そして、そのあいの子、目標追求のために、良いとこ取りをしたものをハイブリッドと呼ぶことにする。アランの潜水などは、ハイブリッドであり、僕の実験潜水も(100m)、実務もハイブリッドの追求だったと考えると筋道が通る。
 1963年の90m潜水では、須賀は送気式で潜り、舘石さんはスクーバで潜った。送気式のホースのトラブルが起こり、危機一髪だった。ホースとタンク、二系統の空気供給が必須と反省した。ハイブリッドである。ハイブリッドの追求というコンセプトがあれば、良かった。
今の作業潜水の主力である、デマンドバルブ付き全面マスク(通称ではフーカー)で、二系統の送気を使うのは、1963年の危機一髪で自分としては身にしみて必要を感じた、送気式と自給気を重ねたハイブリッドが固定したものである。
 ハイブリッドという語、もちろん潜水士テキストになど、出てこない語である。僕の造語かもしれない。造語は、進化の過程で有効であり、必要である。やがて、消えていく場合も多いが、生き残る語もある。


 アランの潜水(地中海での宝石珊瑚採り)は、ハイブリッドであるが、自給気がメインである。僕たちの100m潜水は、送気式、システム潜水中心のハイブリッドであったといえよう。


 テクニカルは、その発生が、上に水面がないケーブダイビングであったから、自給気以外は使えない。浮上する水面がない、その状況で混合ガスを使用し、40m以上に潜る方法がテクニカルであった。
 
 一番重要な情報である実行に際して、 
 1996の潜水で痛感した大きなことは、当たり前、当然とも言えるが、まず費用である。システム潜水は大きな母船を必要とし、1日あたり100万単位で金が飛んでいく。


 次に、小回りが効かないこと。
 そして、波高、うねりが想像以上の障害になった。
 一方、テクニカルは数人で行って、ボートからポチャン、でできる。


 ダイビングのもう一つの重大な分岐点は、レジャーか業務か、である。業務とは、それが継続的に行われる活動であり、報酬が支払われるものである。
 業務は労災保険に加入することが義務づけられている。業務の責任者は、事業者(経営者)である。業務で発生する事故の責任は、事業者にある。
 業務以外の活動の責任者は本人、つまり自己責任である。自己責任については、誤解がある。レジャーは自己責任であるが,自身の安全のためにインストラクター、ガイドダイバーなどを雇えば、安全確保の管理責任はインストラクター、ガイドダイバーが負う。インストラクター、ガイドダイバーは、賠償責任保険に加入して、事故発生の場合の賠償をカバーする。
 業務には労働災害保険があるが、これは国民の権利であるから受け取るのが決定事項であり、さらに事業者に対して管理責任が追及される場合がある。そして、業務は自己責任ではない。安全確保のすべての責任は事業者にあり、その責任は労働安全衛生法によって定められている。したがって、潜水においては、高圧則が絶対的な規則になり、それを司る労働基準監督署は、司法権を持ってる。この責任について賠償責任保険に類するものはない。別に生命保険などに加入して、予防措置をとる。労働者は自己責任ではない。
 したがって、業務については、絶対に近い安全が求められる。業務潜水では送気式潜水機が主となり、二系統の空気供給、つまりタンクを背負って、自給気でも呼吸できるようにする。
 1996年の100m潜水がステージを使うシステム潜水になった所以でもある。業務としての側面もあったのだ。
 自給気のみで行われるテクニカルダイビングは、レジャー潜水に限定されるであろう。その潜水を、例えば、テレビ番組撮影とか、シーラカンス探検のようなレジャーとは言えない潜水で行う場合には、参加者全員が事業者の位置にあるような契約を法定相続人も了解の上で行われるのであろう。
 テクニカルダイビングのインストラクターなども労働者であっても、別の契約が必要だとかんがえる。
 これらは運用の定義であり、当初に述べた情報に類するものである。
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      カテーテル検査の僕の心臓


 まとめ   
 100m潜水の、医学部門のバックアップをお願いした後藤輿四之先生が日本高気圧環境医学会雑誌発表した論文は、次のようなものだった。
  「非飽和混合ガス水の現状と将来 スポーツダイビングにおけるテクニカルダイビング 我が国最初の100m潜水の事例 」後藤輿四之
 
 この論文では、後藤先生のテクニカルダイビングについての考え方を はじめに で述べているので引用する。
 「非飽和混合ガス潜水は、ヘリウム酸素今後ガス(ヘリオックス)や、ヘリウム窒素酸素の三種混合ガス(トライミックス)あるいは高濃度酸素の窒素酸素混合ガス(ナイトロックス)を使用し、減圧時には酸素呼吸をするのが一般的である。したがって、医学的な専門知識のバックアップが必要である。その上、船上減圧室(DDC)や、PTC といった大掛かりな装備とそれを搭載する潜水母船を要し、さらには複雑な潜水器や加温潜水服を使用するので、ダイバーには特殊な教育訓練が課せられる。それゆえ、混合ガス潜水は、商業潜水か軍事関連の潜水作業でなければ、実施されなかった。
 一般にスポーツダイビングの許容水深は30mであり、プロダイバーでも空気潜水による作業は50mが国際的な限界とされている。しかしながら、非飽和混合ガス潜水技術が1986年頃より米国では一部のスポーツダイバーに導入され始めた。その理由は、洞窟探検に際し、窒素酔いの対策であったと言われている。
 スポーツダイビング界では、混合ガス潜水を用いた潜水をテクニカルダイビングと呼んでおり、テクニカルダイバーは高度な知識と技術をマスターすること自体にも喜びを感じているようにも見受けられるが、実施に当たってはプロダイバー同様の装備が必要である。」


 この論文では、以下、方法として、
 1、潜水に使用する呼吸ガス選定と減圧方法
 2、潜水器材と支援体制
 3、ダイバーの健康管理
 が述べられており、結果と考察が述べられている。医学的な検査(主として心電図関連)と減圧計画、実施された潜水プロフィール が掲載され、結論として、
 1.我が国最初のテクニカルダイビングが還暦を迎えたダイバーによってなされた。
 2.専門家により減圧スケジュールは作成され、潜水中の呼吸ガスは、ヘリオックス、から空気、そして高酸素濃度のナイトロックスにスイッチされ、浮上後で酸素呼吸を用いた、船上減圧が行われた。
 3.健康診断は潜水前15カ月前から開始され、ダイバーには高血圧の傾向があったので、事前の健康管理は、循環器内科の医師により慎重になされた。
 4、潜水反射の検査や水面遊泳時の心電図には、わずかな所見が見られたが、潜水中には潜水徐脈以外は全く正常波形であった。


 以下、自分、須賀のまとめであるが、
 テクニカルダイビングなのか、システム潜水なのか、については、ハイブリッドであり、実験、研究潜水では、ハイブリッドの追求が常であり、その意味で成功した。
 もしも、潜降、浮上のすべてをスクーバで、純粋なテクニカルでこの潜水を行っていたら、このような短時日ではできなかっただろう。長いトレーニング期間を必要としたであろう。そして、減圧症に罹患した可能性が大きい。チクリとした痛みでは済まなかっただろう。テクニカルでは、船上減圧をしない限りは、オプションの減圧などできない。
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 この潜水で、自分はそれまでの貯金(人間関係、テレビ関係の人脈、自分の会社 スガ・マリン・メカニック、アアクファイブテレビ、テ・ル )のすべてを使い果たした。


 後日談
 地中海の青に深紅の宝石サンゴというテーマ、タイトルでアランと一緒の潜水をテレビ企画に上げた。今一歩のところで実現しなかった。


 後日(最近)談
 スイス超高価時計のプランバンをスポンサーにしたローラン・パレスタが28日間、水深60ー145mの飽和潜水による地中海での撮影エキスペディションを行ってテレビ放映(フランス?)するというニュースが入ってきた。
 飽和潜水だから、SDC から泳ぎ出す。そしてリブリーザを使っている。完璧なシステム潜水であり、そして、スクーバ潜水である。


 僕の「80歳80m」の計画(メディカルチェックの壁で実現しなかったが)もプランバンが興味を示してくれた。その縁でローラン・パレスタの情報も送られてくるのだが、彼のゴンベッサ(シーラカンス)プロジェクトと同じ様な、プルジェクト(コモロ島へ行く)のチャンスは僕にもあった。これも空振りしたけど。空振りしなかったら、命は無かっただろうと、自分を慰める。

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