いつの間にか一つのスタイルが作り出されてきた。ダイビングの世界には、人に教えてもらいたい人と、あんまり、教えてもらいたくない人、つまり、あまり干渉されたくない人がいる。何でも教えてもらいたい人と、だいたい半々ぐらいかなと見ている。半分のひとは、最低限度のことは教えてもらう必要があるかもしれないが、あとは自由が良いと思っているにちがいない。練習会に来る人の80%は、教えてもらいたくない人で、自由がほしいとおもっている。スキンダイビングとは空を飛ぶ、水中を自由に飛ぶことだ。自分は自由だと感じた時に人は幸せだと感じる。その幸せを求めてプールに来てくれるのだろうと思う。教えてもらいたい人も20%は居るわけだから、それは、教えることが好きな鈴木君が教えてくれている。来てくれる人に対して、教わりたい人はそのように申し出てくださいと伝えてある。どんなことでも一度は教えられる、教えてもらう必要があると思う。その後は、自分で繰り返し練習することで習熟し上達する。
全体として自由である。号令をかけて整列させるようなことはしたくないし、する必要もない。二人で来て、一人が教えている場合もあるし、グループで来てリーダーが教えている場合もある。こちらが教えていたのでは、それはできない。一応、僕の考えたプログラムもあったのだが、それを持ち出したのでは、自分なりの自分たちの練習が出来なくなってしまう。
全体としていえることはフリーゾーンでありたい。フリーゾーンという言葉も好きだ。
上手な人たちはそれぞれ、自分のやりたいパフォーマンスをする。当然、自分たちのグループを作っている人たちもいるし、人を巻き込むというと聞こえが悪いが、友達を作ってグループが形成される場合もある。
自然の中である海と、人工のプールという決定的な差はある。それは異質のものだが、水という点で同じだし、水という流体と流体の中で泳ぐ人、という点でも大差がない。水、そのものという点で、プールの方が水だ。海はイルカとか魚とか水に加算されるものの方が大きい。流体である水そのものと人間の付き合い方を実感するにはプールが良い。
イルカは野生動物だから人間と比べることはできない。が、強いて、美しさという点で比べると、泳ぐ姿は人間の方が美しいと僕は思っている。少なくとも人間の眼で見れば、人間の方が美しいと思っても悪くは無いだろう。
何か話を始めると、すぐに昔々の話になってしまうのはつらいが、仕方が無い、昔話が出来るのは高齢者の特権だろう。その昔々の、その一、筑波大学の野村教授(当時)のお手伝いで、水泳選手の水中撮影をしばらくやったことがあった。筑波の野村先生は、退官されて(名誉教授、アクアライフ研究所)、自分の研究所を持たれているが、野村先生こそが、今、辰巳でも流行っているフィンスイミングを日本で始められて、ずっと協会の会長を務めておられた。僕もその仲間で理事だか参事だかになっていた。スポーツ界の通例で、何か複雑怪奇になっているが、とにかく日本のフィンスイミングのルーツは野村先生だ。
その野村先生の手伝いで水泳の一流選手を水中から撮影してフォームの研究をするビデオを作った。そこで自分なりにわかったことは、泳ぐ姿の美しさと記録は、ほぼ比例するということだった。美しければ必ず速いというわけではないが、速い選手で美しくない姿はまれだ。僕の撮った範囲ではゼロだ。速い選手のフォームは必ず美しい。
その美しさは異質ではあるが、人間は海豚よりも美しいと僕は感じている。仲間である鈴木あやの君のイルカの本が評判になっているが、彼女の泳ぐ姿の美しさが相乗効果になって売れているのだろう。東大修士の彼女は賢いが、泳ぐ姿の美しさも天性のものであり、お勉強ほどではなかったろうが、かなりの努力、トレーニングをしている。
同じく泳ぐ美しさの追求としてシンクロナイズドスイミングがある。略してシンクロだが、これは、どこに美しさのポイントをおいているのかよくわからない。この型のスポーツの通例で、難易度、個性を追求してゆくうちにどこかで途を間違えてしまったのだと思う。そして、水中での泳ぐ美しさではなくて水面上の動きの追求に変わってしまっている。水中は採点の評価にならないから、どうでも良い。水面に出た足や手の動きそして、リフトするジャンプなどで採点しているのだから、空手のようなパフォーマンスをしたりして、優雅さから離れてしまった。
それでも、一流のシンクロ選手は、シンクロ競技の僕の趣味に合わない振付と離れて、自由に泳いだときには美しい。小谷さんもイルカと泳いだテレビ番組では美しかったし、特に不世出のチャンピオンであるフランスのビルジニー・デデューは美しい。テレビ朝日の番組で彼女の競技を取って、水中での美しさに魅せられて、水中で撮ったテープをディレクターに見せて、水中を撮ろうと提言した。それが実って、プールで水中シーンだけを何回か撮った。白鳥の湖も撮った。彼女はバレーダンサーでもあったのだ。著作権が僕には無いから見せられないのが残念だ。ただ、彼女の身体能力はシンクロではなく他の競泳競技に出ても世界記録は間違いないと、どこかの水泳監督が言っていたくらいだから、近くで見るとたくましい。陸上のバレエで彼女をリフトできるダンサーは居ないだろう。水中ではどんなリフトも容易にできる。
バレエと言えば、水中バレエがある。読売ランドにあった水中バレエは、僕が初代の水中舞台監督だった。舞台監督と言ってもインストラクターをしていたのだが、水中バレエ団を主宰する近藤玲子さんが、水中舞台監督という肩書を付けてくれた。その近藤玲子先生も今は居ない。いつも何かに追われていて、葬儀に参列することが出来なかった。心残りである。来年、法政大学のアクアクラブが創立50周年を迎えるので、呼ばれているが、40周年の時は、近藤先生も元気で出席していた。そう、この水中バレエの裏方として、大学ダイビングクラブの部員をたくさん使ってくれて、水中バレエ団があった時には、ずいぶんアルバイトをさせてもらったはずだ。
辰巳にスキンダイビングを練習に来てくれる女性、上手な女性は誰もが美しい。スキンダイビングが上達する事イコール水中で美しく見えることだと思っている。水泳の一流選手が美しいのと同じである。
男のダイバーは、やはり、美しさでは、比べられない。しかし、最近になって、水中で立体的三次元のフリスビーをやったところ、これは、男性もかっこうが良い。男女混成でやれる。それぞれ、やってみた人は面白いという。ただ、他に練習に来てくれる方の邪魔になるので、終了間際の10分間ぐらいでやろうと思っている。