「海洋保護区で魚を守る」サンゴ礁に暮らすナミハタのはなし
名波敦・太田格・秋田雄一・河端雄穀 著 恒星社厚生閣 2018
著者の名波敦氏は、1990年代、千葉県館山の磯根・人工魚礁調査をご一緒したことがある。当時名波さんは水産工学研究所に所属しておられ、潜水技術については、自分よりも優れていると思える良いダイバーであった。
その後、南西海区水産研究所 亜熱帯研究センター(八重山支所)に移られ、研究活動の成果の一つとして、この本にかかわる研究をされた。日本水中科学協会については、その創立会員であり、最新ダイビング用語辞典のリサーチ・ダイビング部分の執筆をお願いし、書いていただいている。、今度もリサーチ・ダイビングの入門書、テキストとして「リサーチ・ダイビング」を企画するにあたって、21世紀の現役研究者がフィールドワークとしてのスクーバダイビングをどのように実施しているかの部分を分担執筆する予定である。
なお、「リサーチ・ダイビング」は、できるだけ早く成山堂書店より刊行すべく執筆を開始している。この夏には須賀の書く部分を書き上げ、そのラインで分担執筆者に執筆をお願いする予定でいる。
本題の「海洋保護区で魚を守る」であるが、名波さんにお願いする執筆部分は、この本のダイビングフィールドワーク部分を書いていただければと考えている。
この本は、サンゴ礁に暮らすナミハタの産卵集群を海洋保護区を作って保護していくことをあらゆる角度から、実際の活動を書かれたもので、リサーチ・ダイビングに関心のある者、必読と言っていい。共著であることから、記述が重なる部分もあるが、そのあたりをダイジェストしていただいて、ダイビング技術をメインテーマで書いていただく予定にしている。
本のあらすじを紹介する。
産卵集群とは、産卵のために魚が集まってくることで、サンゴ礁に暮らす魚は、この習性を持つ魚が多い。ハタの類も、そのほとんどぽぷの種類でこの習性で集まる。そして、その集まる習性のために、そこをねらって漁獲されてしまう。研究が行われた石西礁湖では、海人による突き獲りが主であり、集まってくるとき、4-6月の下弦の月、満月(大潮)から7-8日後の小潮まわりの時に集まってくるのであるが、その時に大漁されてしまって、漁価も暴落するほどである。産卵に集まる親を大量に漁獲していれば、魚が減っていくのは当然、のように考えられる。そこで保護区を作って、産卵時期を禁漁にして、保護するわけだが、これは漁獲を行う海人の協力がなければ、実現しない。この協力の実相も詳細に書かれているが、これもたいへん面白い。
さて、ナミハタとはどんな魚だろう。僕は概して魚の種類に暗いので、種類で魚を追わないこともあり、これがナミハタだ、という写真を撮ったこともないのだが、こんどは、探そう。地方名は、サッコーミーバイ、ミーバイとは、ハタの類のことである。食用漁としては、ポピュラーで、漁獲重量としては、第二位、小型であるので、尾数としては一番多い。全長は30cm前後、ハタの類としては、小型である。4年で成熟して、だいたい20年ぐらい生きる。、性転換する。性転換は、サンゴ礁の魚としては珍しくないのだが雌性先熟、まず雌になり、そのあと雄になる。当然、大きい魚は雄である。
集まった魚は、どこから来たのだろうか、産卵場にどのくらいの期間とどまるのだろうか、そして、産卵が終わったら、元の住処に戻っていくのだろうか。
標識放流、名札を付けて放流して、採捕された場所と時間から判断する。標識を付ける魚は元気な魚でなければならない。突いて獲られた魚ではだめなのだ。水中で、短い釣り使って釣りをする。釣れた魚の雄雌、大きさを記録して、タグ(標識)を手早く、水中で付けて、元気な状態で放さなければならない。これを潮の速いヨナラスイドウでやらなければならない。ダイバーならば、その大変さがわかるだろう。今の僕には到底できない。
これを調子のよい時には、一日に83尾とかやっている。名波さんらの表現によれば、とにかく潜りまくったという。水の暖かい、そして透明度の良い石西礁湖だからできたのだろうが、大変な潜水作業である。
もう一つ、移動と滞在、そして、ナミハタのお出かけを測定する方法として、魚に超音波発信機を取り付け、これを受信機で受信記録する方法がある。超音波テレメトリーである。
受信機は1台25万円、発信機は5万円もする。発信機は、小さいとはいえ、30cmのナミハタにとっては大きいから、手術で身体の中に装着しなければならない。受信機27台、発信機は30台以上用意して 装着した。
27台を潮の速いヨナラスイドウの要所に流されないように設置しなければならない。GPSで位置を決めて設置する。発信機を付けた魚が受信機の近くに来れば、それが記録される。
このごろの調査は、めちゃくちゃにエレクトロニクスなのだ。
そんなこんなで、ナミハタは、一番遠くて8.8キロ離れたところから来て、産卵後は元の住処に戻ることがわかった。滞在日数は、雄が早くから来て、雌よりも遅く帰る。雌の滞在日数は、およそ7-8日、雄はその3倍ほど長く滞在する。
当初、産卵場所の保護は、2日間だったが、それでは産卵のために集まるオスはみなとられてしまう。20日ぐらいに延長するわけだが、そのことを海人に納得させるためには、このような科学的、手間のかかる調査を繰り返さなければならないわけだ。
また保護区を設定して、マークするブイを入れると、そこは、魚が確実に居ますという場所になるから、マイボートで釣りに来てつられてしまう可能性もある。レクリエーションの人たちにも周知して協力してもらはなければならない。
また、このような苦労が本当に効果があったのか、その効果はどのくらいか、そのことも検証して証明して継続していかなくてはならない。
そのようなことども、この本は詳述している。
また、この本は石西礁湖という場所、海を知るためにも役に立つ。