新しい本があった。「くわえ煙草とカレーライス」奥付を見ると2018年6月となっている。
彼の本は、もはや、固定した、昔よく読んだ、たとえば僕のような読者以外は読まないものと思われるから、この「くわえ煙草」は、文庫にはならないだろう。なっても、買わないと思う。図書館にあったら必ず読む、そんな位置づけだろう。そういう作品を書いているのも悪くはない。この本は、文藝の2016年から18年にかけて書いた短編七つを集めている。
忙しいのに、別の書き物、企画書を書きながらの息抜き的に、半日で読み終わった。中身は何もない。ただ一つ、巻頭の短編「ほろり、泣いたぜ」で、昔の流行歌をクラブとかで演奏して歌う、それも、本職は俳優とか別にあるグループの話の中で、歌う「北帰行」のエピソード、僕は耳が悪くなってから、いや、その前からだけど、カラオケは歌わないが、今時「北帰行」を歌う人などいるのだろうか、意外と多いかもしれない。
「窓は夜露に濡れて」「都すでに遠のく」と上手にきれいな声で歌われたら、泣くだろうなとおもった。もちろん、下手ではどうにもならないし、若い人が変に歌ったら、腹立たしいだろう。「ほろり、泣いたぜ」に出てくるような、コーラスグループならば、受けるだろう。でも、はてなと思った。そういうコーラスグループ、ダークダックスとか、そういうの、このごろ聞かない。
片岡義男の文章は読んで心地よく、流れて行く。そして脈絡がない。夢のようなもので、何でもないのだ。今頃、くわえ煙草なんて、人まえではやれない。
時代遅れのくわえ煙草、そういうこと、ねらって書いているのだろうか。作家だからねらっているに決まっている。
片岡義男の古い作品のほとんどは、キンドルで売られている。
それも「頬寄せてホノルル」という、僕が文庫本で持っている中編作品集が、ばらされて「冬の貿易風」という一編が300円で売られていたりする。商売人なのだ。でも、半ばだまされて、僕はキンドルにいくつかの作品を買っていれている。たとえば「ヒロ発11時58分」とか、これも「頬よせてホノルル」に入っている。僕は、この「頬よせてホノルル」が好きな作品集で、文庫で持っているのに、忘れて、キンドルで「冬の貿易風」を買ってしまった。そういう作家なのだ。
300円とかいうと、ちょっと買ってしまう。
ふっと、もう少し読みたくなって、アマゾンで49円の「夕陽に赤い帆」「五つの夏の物語」を買ってしまった。「夕陽に赤い帆」は、前に持っていて、「五つの夏の物語」は、記憶に無いけれど、読んだら記憶が戻るかもしれない。