シンポジウムでは、いくつかのテーマのうちの一つだが、マスク式潜水機を追っていた。大串式の始まりから、山本式になり、日本ではアサリ式が1933年、アサリ式は後に旭式になり、そのライバルとして海王式、のちに金王式、大串式は世界で初めてのデマンドバルブ付きにフルフェースマスク、デマンドバルブとして、スクーバのセカンドステージを付けた、フルフェースマスクは、日本では須賀のテスト(1962年)が最初であった。後に1986年からは、水中レポートをダイブウエイズが作るマスクでやるようになり、日本アクアラングのF型、マンティスフルフェイスマスクなどができ、外国では、アガのマスク、石油掘削リグの作業などでは、重装備のフルフェイスマスクが使われ、カービーモーガンのバンドマスクが大きなシエアを占めている。
フルフェースマスクは、フリーフロータイプとデマンドタイプに分かれて、現代では、デマンドタイプのフルフェースマスクが作業潜水の中心になっている。 現在では、フリーフローのマスク式潜水式は時代遅れになり、製造するメーカーもなくなっている。それを復刻しようとしているのが、前回紹介した、沖縄の杉浦さんだ。
シンポジウムでもお話ししたし、報告書にもかいたのだが、大串式から山本式へのマスク式は、まず、泳ぐ潜水機としてつくられた。
一方、沖縄で旭面とよばれているという旭式マスクは、1933年アサリ式として、浅利熊記氏が、重装備のヘルメット式潜水機に対応して、軽量、軽便であることを目標として作った。軽便を目指したから軽便マスク式潜水機として、長らく潜水士テキストにも、一章を設けられていた。
潜水機の発展進化は、いかにして空気消費量を少なくするかを目指す。ヘルメット式の大きな兜は、内容積が大きいから、換気して、炭酸ガスを洗い流す為には、多量の空気が必要になる。顔を覆うだけのマスク式潜水は、顔を覆うだけだから、内容積が小さく空気消費量がちいさい。 口にホースをくわえるマウスピースはさらに内容積が小さい。大串式は目と鼻を覆うだけの小さなマスク式潜水だから、顔全体を覆うよりも内容席がちいさい。
1930年代、山本式の全盛で、アサリ式のつくられた時代だが、空気は、手動の送気ポンプで送られた。深く潜ろうとすると送る空気の圧力が高くなる。高い圧力、すなわち強い力で押さなければ空気が送れない。天秤式のポンプは、何人もの人が押す。水深80mなどというと、10人程度で押したのではないだろうか。100馬力(HP)とは、100匹の馬で引っ張ったりする力だ。10人は、10人力である。
山本式、大串式は定置網の潜水などにつかっていたから、30ー40、場合によっては60mまでも潜った。4人力ぐらいで押したと思われる。
アサリ式はせいぜい20mぐらいまでを、できるだけ小さいポンプで、できれば、自転車の空気入れポンプていどで潜りたい潜水機として開発された。深く潜るのとは別の意味で送気量を少なくしたい。 アサリ式はヘルメット式潜水機と同じような潜水を軽便にして、空気の消費量を押さえたいという目標で開発された。大串式、山本式は泳ぐ潜水機だから、いまのアクアラングの元祖であり、マスク式潜水は、ヘルメットの小型軽便化を目指した。
使われる現場では、この軽便マスク式潜水も泳ぐ潜水機としてつかわれるようになるが、開発の目標は異なる。 アサリ式は空気の消費を押さえるために、ダイバーが息を吐いている時に送られる空気を袋に貯めておいて、次に吸い込むときに、袋の中の貯めた空気と一緒に吸い込めば、空気の消費量が少なくて済む。
この袋は空気の消費を少なくするのに役だった。しかし、マスクから空気を逃がしてしまったら効果が少なくなる。吐き出す空気以外の送られてくる空気は逃がすわけには行かない。マスクを顔にぴったりと合わせて固く縛ることになる。しっかりと縛れば顔が痛くなる。
やがて、小型のコンプレッサーが普及して使えるようになると、無理をして空気の節約をしなくても、フルフェースマスク、面は、兜よりも内容積が小さいから、別に呼吸袋を付けなくても空気量は充分になった。袋もいらないし、顔に固着させる必要もない。逆に、緩く顔につけて、マスクの縁から空気を逃がすようにして、排気弁を省略してしまった。海王式、後に金王式マスクである。
旭式は、佐藤賢竣さんが社長、金王式は岡本さんという方が社長で、東亞潜水機時代のぼくは、どちらかと言えば、東亞で、コンプレッサーを買ってくれていた金王の岡本さんと親しかった。旭は、東亞潜水機のライバル程度まで大きくなっていたので、営業力も強かった。
旭の佐藤さんは、政治力も強いひとで、潜水士の規則を作るのに大きな影響があった。海中開発技術協会でも僕が理事当時に、副会長であったりして、親しくはあったが、会社としての営業的には敵味方だった。ただし、旭式には、一学年下の遠藤とか、潜水部、かなり後輩の島くんなどがお世話になっていたので、仲良くはしていた。 伊豆半島は金王式の岡本さんの営業地盤であって、テングサの採取などは金王式が主に使われた。 実はここまで書いてきたことは、シンポジュウムの報告書にも書いたことであり、前置きのようなものなのだ。 杉浦さんが撮った、クラウド・ファウンディングの映像を見ると、旭式、旭面なのに、盛大におでこのあたりから、空気を逃がしている。手押しポンプを使っているわけではない。コンプレッサーで送気しているのだから、空気は充分ある。マスクを固く縛る必要はないのだ。そして、旭面をつかっているおじいは、おでこから漏れるので、視界を妨げないのが良いなどといっている。
設計意図とは、全く違う使われ方をしていて、その使われ方が道具になっているから、他とは代え難いことになっている。 ダイビングのフルフェイスマスクについて、道具になっているということは、身体の一部、顔の一部になってしまうことだから、理屈ではない。潜水機の進化とは別に、道具としての潜水機をかんがえさせられた。
フリーフローのマスクではなくて、デマンドバルブ(レギュレーター)を通して呼吸するマスクは、フリーフローは、致命的な故障である。大事な空気が飛んで出てしまう。あまり深くもない、空気の節約が大事ではない環境であれば、フリーフローは快適である。マスクを顔にきっちりと付ける必要もなく、適当にかぶればOKだ。
なにも、旭式の復刻でなくても、適当なマスクをフリーフローにしてしまえば、それでも良い。 ただ、旭式、沖縄でいう旭面が、うみんちゅーのオジイの道具になってしまっている。復刻しなくてはならない所以だろう。
モズク漁の彼らも道具として納得できるようなもので、汎用性のある軽量のフリーフローのマスクを作ったらどんなものだろう。そんな話をシンポジュウムの後で、杉浦さんと話をしたかったのだが、東京になにか別の約束があったらしく、話ができなかった。
とにかく旭面の復刻、成功を祈ろう。