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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0221 自分と減圧表(6) 

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 自分と減圧表(6)

 さて、海中技術開発協会の作った部分、自分が入っていて最高というのはおこがましいが、執筆者は当時の潜水関係の最高の顔ぶれだ。
1.ダイバーを取り巻く水中環境:工藤昌男 2.潜水の医学:梨本一郎 3.スクーバ潜水に使用する機材:尾花英明 4.スクーバ潜水における基礎実技 5.減圧表:大道弘昭 6.海での潜水:須賀次郎、7.海の生物と自然保護:内田紘臣 8.スポーツ潜水と漁業:猪野峻 日本で日本人が作った最高のテキストだというのは、このことも含めている。
須賀は当時調べていた事故統計を中心にして、海での潜水の安全とレスキューについて書いた。
 減圧表について書いた大道さんは明治大学の化学の先生で、海中開発技術協会の専務理事であり、東京都の教職員潜水倶楽部の創始者である。大道先生は残念ながら亡くなってしまったが、いま減圧表のことなどを月刊ダイバーに連載している野沢君は、大道先生の直系だ。
 その大道先生の書いた減圧表についてであるが、労働省の減圧表、米国海軍の減圧表、そして英国水中倶楽部の減圧表として三つの減圧表について、使用方法を詳しくのべてあり、巻末にはこれらの表がすべて掲載されている。
 英国水中倶楽部というのは、BSACのことで、RNPLを若干スポーツで使いやすくして、RMPL/BSAC の減圧表として使われていた。
 大道先生のRNPLの説明を少しばかり引用する。
「水深20mを超えるより深い、より長い潜水を行う作業ダイバーの場合には、米国海軍の減圧表による潜水では、かなりの高率で減圧症が発症すると言われている。RNPL減圧表は、現在のところ、減圧症の発症率の最も低い減圧表であると言われている。比較的深い水深のところから減圧停止を開始し、停止時間も長いという特徴がある。」


 ところで、これらの減圧表がどのようにして作られ、どのようにして計算されてできたものであるかは、僕たちダイバーにとってはブラックボックスである。要するに定められた時間表を正確に守っていればそれで良いわけだ。しかし、知らないことは知りたくなる。ダイビングは知的なスポーツであり、知的な労働と言われている。潜水士の資格も実技ではなくて、学科試験のみで与えられる。
 そこで、全日本潜水連盟では、大道先生に書いてもらって、「減圧表作成の理論」という61pの小冊子を発行した。当時、全日本潜水連盟では安全教育シリーズとして毎年このような小冊子を発行していた。
そのすべてを引用することなどできないので、目次の引用をする。
1.減圧症と減圧表について
①潜水と減圧症 ②潜水と体内に溶解する窒素ガスとの関係、③浮上と減圧症、④階段式浮上法、⑤減圧をしなくても良い潜水
2.減圧表作成の理論
①Haldane ホールデン らの研究
半飽和時間、階段式浮上法、減圧スケジュールの決定
②米国方式 ③英国方式
3.RNPLの減圧表
①使用上の注意事項 ②RNPLの減圧表、③反復潜水
4.米国海軍の減圧症
①用語説明 ②米国海軍標準空気減圧表、③例外的暴露潜水 ④無減圧潜水、⑤反復潜水 ⑥浮上速度の補正、⑦補足説明 ⑧演習問題 ⑨反復潜水用簡易減圧表の使用法
5.高所潜水の減圧
①高所潜水の危険性 ②高所潜水の減圧法 ③飛行前の潜水制限

61Pと、ページ数が少ないが、この時点(1987)での日本で発行された(日本語)の減圧表についてのテキストでは、最も優れたもの、というよりも、他にはなかった。
減圧表作成の理論に着いては、数式が多く、ページ数が少ないこともあり、数学に素養のない僕などには、理解できない部分が多く、大道さんに聞き直したりしたこともあったが、偏微分方程式など、解けるわけがない。数式部分を無視して、読むと、減圧表作成理論の筋道は理解できた。


 たとえば、米国海軍の表と日本の労働省の表は、Haldene(ホールデン) の理論に基づいているが、RNPLは、Hempleman (ヘンプルマン)の理論に基づいている。両者の式の説明がある。
 Hemplemanは、1) ベンズを引き起こす体内組織は、ある限られた組織であること、2)その組織に窒素ガスがある一定量以上溶解した時に減圧によってベンズ症状が起こるのではないかと考えた。拡散によって、体内組織中にとけこむ窒素ガスの量、(q)は、水深Pならびに時間(t)の平方根に比例する。―数式略―、もしQがある一定量を超えなければ、潜水は安全である。
 要するにある現象があるとき、事象の間にある相関関係を表せる、数式をみつけだす。その数式が事象の相関関係に合致していれば、一つの数字を入れればもうひとつの数字が出てくるわけで、それをグラフで表すことができ、表にすれば減圧表になる。
次にはその表の数字が実際に当てはまる、例えば減圧症になったとかならなかったとか、動物実験、ボランティアダイバーの(人体)実証試験をへて減圧表が出来上がるということだ。



     
潜水士テキストは、半飽和組織については、1986年改訂の潜水士テキストの記述がわかりやすかったのだが、次の版の潜水士テキストでは、その記述は省略されてしまった。潜水士にこんなことを教えても意味が無い、と思われたのだろうか、それとも、潜水士は義務教育修了ていど、つまり中学卒で理解できなければいけないとされているので、カットしたのであろうか。ちなみに、この版の潜水士テキストがまあまあ良かったが、その後、記述が二重になったり、語句の間違いがあったりして、編集委員会が正常に機能しているのかどうかうたがわしかった。個々の執筆者は優れていたとしても、編集が適切に行われていないと思われた。テキスト、本は半ば以上編集者が作るものである。

今度の規則の改訂で、数式が規則になったので、テキストでは、どこまで説明するのだろうか。興味深い。
 ともあれ、大道先生のこの本で、RNPLと米国海軍の表とのちがいがわかり、RNPLの使い方も理解できた。
  なお、この小冊子でも労働省の減圧表については、その成り立ちについて、米国海軍の減圧表とおなじように、ホールデンの理論に基づいて居るとだけの記述であり、数値は近似であり、ほとんどのダイバーは、数値の運用方法が違っているだけという解釈をして、米国海軍の表をつかっていたし、各指導団体も同様であった。、
 
しかし、RNPLは、わりあい深い水深から減圧停止を開始して、長い時間の減圧停止をする表であり、安全度が高いとされていることから、全日本潜水連盟はRNPLを推奨していたし、調査潜水で、40m以上に潜水することが多かったスガ・マリンメカニックでは、RNPLを使用することにした。減圧停止も3mよりもRNPLの5mのほうがやりやすいこともある。

 そして、何度も書いているのだが、脇水輝之の減圧停止中の事故が起こった。
そして、この事故での労働基準監督署の取り調べでは、潜水がRNPLで行われたことが問題にされた。3m間隔ではなくて、5mなのだ。減圧停止中の事故だから、潜水記録が調べられたのだが、規則では労働省の表を使わなければいけない。そして、今で言う、減圧表に無い余分なストップ、つまり安全停止をしていた時だったので、それも問題にされた。東京医科歯科大学の真野先生に、RNPLのほうが安全度が高いこと、安全停止は国際的に認められていることを書いてもらって、それはよろしいということになり、やがて、潜水士テキストにも安全停止について、望ましいと書き加えられることになった。
今度の改正では、リーズナブルな表であれば、それを使ってよろしいということになっているから、このような問題は発生しない。どのタイプのダイブコンピューターを使っても、その元になっているアルゴリズムが適正であれば、良いわけでもある。
 

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