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Channel: スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
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0207 自分と減圧表 (2)

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自分と減圧表 (2)日本の高気圧作業安全衛生規則の表が50年使われてきた理由

 1963年8月、館山湾で、舘石昭氏(水中造形センター創業)と100m潜水を目指した。使った減圧表は、1952年版の米国海軍標準空気減圧表だ。あとで考えれば、この時に、日本の高気圧作業安全衛生規則の表を使っても良かった。日本の表のほうが停止時間は長かった。しかし、自分としては使い慣れた米国海軍の表を頼りにした。報告書にはこう書いている。「今まで発表されている減圧時間表には、私達の目標とする100mの水深の減圧時間は表示されていない。私達は米国海軍のStandard air decompression table for exceptional exposure を参考にして潜水時間を定めた。」自分たちで定めたのだ。米国海軍の表では、一番深い水深が300フィートだ。およそ90mだ。90mの表で100mに潜ろうとする。ランクを一つ上げた。つまり、潜水時間を10分として、15分の数字を使えば良いとした。もちろん20分でも良いのだが、いずれにせよ、なんの根拠もない。あるとすれば、既存の表よりも適当に減圧時間を長くすれば良いのだろうと考えた。この考えは現場的には正しいと思う。学者、研究者だって、適当なアルゴリズムを考えだして、実験、すなわちやってみて、確認する他ないのだ。後に、60歳で100m潜った時、前回の冒頭に書いたように、僕は、肩の痛みをおぼえた。船上減圧で、3mの水深に加圧して、純酸素を呼吸し、20分の純酸素呼吸で5分のエアーブレイクで1クールとして、3クール、60分やったたが、痛みが消えなかったために、計画よりももう1クール要求して、それでも痛みは消えなかったが、タンクの外にでたら、痛みが消えた。
 その60歳100m潜水の時、コルシカ島で、120mまで潜って宝石サンゴを採っているアラン・ボゴシャンというダイバーのところに見学に行ったが、彼の減圧表はない。ボトムガスはトライミックスを使うのだが、この混合比も自分で決めていて、ボートの上で一人用のチャンバーに入って船上減圧をするのだが、自分の身体の要求するだけ、純酸素呼吸の時間を延ばす。長い時には3時間をこえる減圧をすると言っていた。

     1980年、釜石湾港防波堤、写真米倉司郎氏提供


      1963年館山湾

 話を1963年にもどして、僕たちの潜水では、
 潜水は一日一回とする。
 100mまでの潜降時間・・3分
 100mの海底で7分、潜水時間の合計が10分
 15mの水深までの浮上時間・・4分
 15mでの滞留時間2分、12mで3分、9mで6分、6mで15分、3mで26分とした。この値は、米国海軍の300フィートでの潜水時間15分のものである。
 結局のところ、僕たちは100mまで潜れず、90mで意識喪失して戻ったが、この意識喪失は窒素酔いではなくて、酸素中毒だと思われた。
 一方、日本の高気圧作業安全衛生規則では、空気を使用しての表での最深は80mを超え90m以下となっている。このことがとんでもないことだといわれ、50年経過してから、改正が行われたが、実際には、定置網の潜水では、空気を使って、90mまで潜るダイバーが居たのだ。
ただ、規則で減圧時間をきめるのならば、ファジイに自分で決められるようにしておかなくてはいけない。今度の改正では適当なアルゴリズムを使って、自分で決めることができるようになっている。アルゴリズムも適当にビュールマンのものを例に出して、これよりも良い物ならば良いと決めている。所詮は、60mを超える潜水は、現場の責任であって、労働基準監督署の責任ではありえない。まあ、適当な基準で潜っていれば、労災の適用はしてやるよ、ということだと解釈している。
 そう、現場の対応でいちばん問題なのは労災の適用なのだ。旧となった別表第二で、80mを超え90m以下というのは、そこまでは労災を適用してあげるよということなのだ。もしも、これが60m以下だったら、60m以上では労災が適用されず、事業者が労災分のお金を自分で払わなければならない。今度の改正では、空気の潜水では40mが限度と定められている。40mを超えると違反だから労災の適用がされるかどうかわからない。昔の僕たちは60mあたりまで普通に空気で潜って調査をしていたし、今でも定置網の潜水では、空気で60mを超える。

 ちなみに、僕が潜水を習う前の時代、つまり、米国海軍以前に着いては、先輩である山下弥三左衛門の潜水読本による他知る術がないが、45尋、約75mまでの表があり、定置網の潜水では、一等潜水士として50尋(83m)までの講習を行っている。ただし、潜水病の罹患率は20%程度であったらしい。すなわち、20%は、不適格者としてふるい落とされるということだったのだろう。
 
 所詮、現場での判断は誰が責任を持つかということであり、日本の高気圧作業安全衛生規則での80をこえ90m以下という表は、そこまでは労災が適用されるという意味では、悪くはない。
 旧規則でも、実際には、規則には例外があり、混合ガスを使用する場合には、理論的な根拠、(国際的な表で良い)を添えて、申請し、労働基準監督署が認めれば、許可になる。1980年に僕達(スガ・マリンメカニックと日本シビルダイビングのベンチャーが、海洋科学技術センター・現在のJAMSTECの前身の協力)行った釜石湾口防波堤工事では、混合ガスを使用し、純酸素減圧で水深65mの工事を行った。100mを超える工事でも、労働基準監督署が認めれば、出来るわけで、80を超え90m以下ならば、特別な申請をしなくても、この表を守っているという形式をとるならば、空気を使って死んだとしても、ここまでは労災が適用される。混合ガスの場合など、例外については、基準監督署に認めてもらえば良いのだ。
 これが、この規則の表が50年使われてきたということの理由だと僕は考える。しかし、時は移り、人は変わり、技術も進歩する。例外として基準監督署に申請する方法が安全であり、規則に定められている方法が危険であったとすれば、変更しなければいけない。改正の時はとっくに過ぎており、今回改正された。
 続く

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