要約すると ニュースステーション 1
窒素ガス用の陽圧マスクの改造型フルフェースマスクで、水中レポートが始まった。日本テレビ慶良間からの中継をやり、いくつかの小さい番組で流氷をやった。そして、ニュースステーションが始まり、東京湾を最初にやり、今、お台場で一緒に潜ている風呂田先生をレポーターに起用して成功した。
この成功を足掛かりにして第二弾を
流氷、ロケ地は知床の宇登呂を提案した。
小説家の立松和平さんが、陸上でのレポーターと決まった。立松さんが氷の上に居て、潜っていく潮美の姿、水中をモニターに映し出し、それを見ながら、流氷のことどもをレポートする。潮美は氷の中に飛び込んで、水中レポート、立松さんとの 二人の会話で番組は進行する。
大当たりを取った。「立松さーん、まるで氷の宮殿です。」潮美が氷の上の立松さんに呼びかける。「潮美ちゃん、生き物は何が見えますか?」立松さんは栃木弁で訥々と話す。アナウンサーの訓練を受けていない潮美の口調は、やや、教科書読み風だが明確だ。
視聴者の気持ちとして、こんなに冷たい氷の下にかわいい女の子を沈めて、親の顔が見たい。親がカメラマンでカメラで撮っている。当時、女子大生というのはブランドだった。潮美は4年生、あと少しで卒業だが、まだ女子大生だった。
それに、流氷も美しかった。知床半島、宇登呂側は、流氷原が押し寄せて接岸し、海は閉じる。漁もお休みである。その流氷原を歩いていき、四角い穴を開けて中に入る。水面は流氷が天井で、中は暗く、流氷の隙間から光が差し込む、カメラマンの水中ライトが氷を照らす。氷の宮殿なのだ。
知床半島の反対側、羅臼では流氷は様相を変える。氷は、流氷は、北から南へと下るように流れて行く。知床半島の先端を回りこんで、羅臼側にはいるところで流氷原は、バラバラになり、小さい氷山になって流れて行く。
羅臼側では冬でも漁ができる。
小舟で岸近く、エゾバフンウニを水鏡で覗いて小網で掬い取るウニ漁を撮影する。潮美が潜ると、水面に浮いている小さな氷塊は、まるで雲のようだ。雲の間から陽が差し込む。氷を潮美が手で撫でると、氷が銀の粉のように光り輝いて散る。
この一作で、内定していた潮美の就職は蒸発した。すぐに次のロケのスケジュールを決めなくてはいけない。潮美は卒業試験がある、とか心配そうにしていると。監督の小早川さんは、バカ者、卒業したって、テレビ朝日には入れない。ましてや、ニュースステーションはさらに狭い門なのだ。しかし、彼女はなんとか卒業できたらしい。
次の企画、僕は、流氷と同じくらい、摩周湖にも通っている、摩周湖は外に流出する河川はない。しかし、地下水となって流出し、川になる。そのうちの一つに西別川がある。日本の鮭は悲しいことに、自然遡上、自然産卵は、ほんのわずかに限られている。親の鮭は、河口で捕らえられ、卵は搾られて人口受精、孵化場で孵化し育てられて放流される。その放流が幼い鮭の旅立ちだ。「早春、西別川からの鮭の旅たち」その一行だけで企画は通った。もちろん、釧路湿原の鶴だとか、道産子馬とか、立松さんのための付属品は付け加えられたが、芯は、鮭の旅立ちだ。
ところで、鮭の旅立つ西別川の孵化場に連なる出口の川は浅い、水深で30CMぐらいだ。立松さんにも、タンクを背負わせ、フルフェースをつけさせ、二人腹ばいになって、会話する。子鮭の群れが、きらきらと二人の目の前を通過して流れに乗り下っていく、このシーンも評判になった。僕は自分の感性だけでカメラを振っている(撮影している)一つの画面に潮美の顔が半分、立松さんの顔が半分、首を振れば、顔は合うが、そんなカメラワークをした。普通のカメラワークならば、彼女がしゃべるときは、彼女の顔をとらえ、立松さんが話すときには、立松さんに付けるのだが。
それから、日本全国を巡る旅が始まるのだが、バックの音楽は、その土地その土地の演歌をつかった。このあたりが、小早川監督のすごいところなのだが、襟裳岬に行った。アザラシを狙った企画だったが、アザラシは超望遠レンズで撮るもので、潮美と一緒に泳ぐなんてとても、無理、しかし、監督はそれを要求してくる。
ただ、風が吹いているだけ。外の海にもでられない。ロケは日数、スケジュールが決まっているから、天気回復を待つことはできない。
磯にでた。広がっている磯には タイドプールが連なっている。磯歩きする。何もないけど、春の陽の光だけはある。ここでも、深さ30cmのタイドプールに潮美を漬けた。小さなハゼ、ギンポも見える。いつも、小さなモニターを用意している。立松さんは、そのモニターに話しかけているのだ。これで、立松さんはタイドプールの中を水中からの目線で見られる。「立松さん、ギンポが居ました」「かわいいギンポがいるねえ。」
立松さんは磯を歩き、何もない春の話をする。バックは森進一の襟裳岬だ。このシーンも視聴率はしっかりとった。
浅いところに這ってばかりいたわけではない。